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しおりを挟む小さく上下する肩と若干荒い息。
猛ダッシュしてきたことを物語る姿に言葉を失う。
昼休み、ノートや借り物の教科書を机にしまい、本を手に席を立った。
噂が落ち着くまでしばらく別行動の方がいいだろう……そう思って昼飯は適当に何か買って外で食うかなって教室を出てすぐだった。
扉を開けた先にはたったまま膝に手をついたレイヴァンが居た。
視線があって2秒。
「お迎えにあがりましたラファエル。今日はどこで食べますか?」
にっこりと、それはもう周囲が軽くどよめく程ににっこりと微笑んでそう声をかけてくるレイヴァンくん。
いまここに居るってことは、授業が終わると同時にスタートダッシュを決めたんだろうな。
校内を全力疾走するアイスプリンス……見た人は思わず2度見するね。
廊下を走る人体模型ぐらいの衝撃だよ。
学園の七不思議入りしちゃったらどうしよう……。
廊下は走っちゃいけないんだぞー!
「レイヴァン……」
とりあえず移動した中庭の隅の隅。
お気に入りスポットの一つである穴場のベンチに俺たちは居た。
大きな木が目隠しになって校舎の窓からも、中庭の他の位置からも死角になったそこで昼食をとっている。
眉を下げる俺の前へと突き出されたプチトマト。
「他のおかずが良かったですか?」
コテンと首を傾げる彼にゆるゆると首を振れば、唇にくっつくほどプチトマトを寄せられてとりあえず口を開く。
薄い皮を歯で破ればジュワッとジューシーな酸味が広がる。
眉を下げてレイヴァンの名前を口にしたのは……当然ながら差し出されたおかずのチョイスに不満があってのことじゃない。
そんなことは彼だって百も承知だろうに。
周囲に人が居ないとはいえ、仮にも学園の敷地内で堂々と “あーん” をしてくるレイヴァンは噂を否定する気はもちろん、鎮火を待つ気もさらさらないようだ。
さっきだってあからさまに親しさをアピールするように笑顔を大盤振る舞いしてたしね。
実際、ここに着いてすぐに「僕は距離を置く気はないですからね?」とも宣言された。
どうやら俺の考えなどお見通しだったようです。
教室の前で待ち構えていただけでなく、侯爵家のシェフに弁当まで準備させて持参とは実に準備万端だ。
「バレてしまったんだからもういいじゃないですか。隠さなきゃならない理由もなければ、悪いこともしてないですし」
自分の口にもプチトマトを放り込みながら、昨日の俺の言葉を模したレイヴァンがフフッと笑う。
嬉しくてつい笑みが零れてしまった、そんな笑顔だった。
「昨日、すごく……嬉しかったです」
薄っすらと色づく白い頬。
「昼休みのことも、大切な相手って言って僕のために怒ってくれたことも」
触れ合う程にすぐそばに座っていたレイヴァンの頭が凭れ掛かるように預けられる。
控えめにいっても友人同士の距離感でも雰囲気でもないのは百も承知だ。
「僕の世間体や将来をラファエルが気にかけてくれるのは嬉しいです。だけど、そんなものよりなによりも……僕は貴方と一緒に居たいし、この気持ちを隠せない」
近づいてくる淡い唇。
わずかに潤んだ熱を帯びた瞳に囚われる。
「大好きです」
チュ、と湿った音を立てて重ねられたソレを拒む術などなくて…………。
結局、世間体だの場所がどうだの頭で考えてたって、最終的に感情に流されてばっかりだ。
「困ったな。こういうの、 “恋に溺れる” って言うのかな?」
額をコツンと合わせて眉を下げて呟けばクスクスとレイヴァンが笑う。
「じゃあ、もっと “溺れて” ?」
囁くようにそう紡いだ唇がそっと耳元に寄せられた。
「僕を溺れさせた責任はとってくださいね?」
甘く蠱惑的な声音に理性は容易く白旗をあげた。
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