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しおりを挟む次の日、嫌がらせは止んだ。
まだ3限だけど、机や持ち物への悪戯もなければフィガロの姿も見てないし、そう考えていいだろう。
とはいえ……例の噂と、昨日の昼休みのアレはしっかり広がっているようで視線が煩わしいのは相変わらずだ。
級友もレイヴァンとの話を聞きたそうだったけど、適当にかわした。
こういう時、何気に俺のキャラって便利。
カイルみたいな陽キャだと大勢に囲まれて根ほり葉ほり聞かれそうだけど、俺の場合はさらっと躱せば相手も深追いはしにくいらしい。
相手が侯爵家の大物ってのもあるだろうけど。
3限が終わり、席を立った。
「あれ、ラファエルどっか行くん?」
黄昏キャラでもある俺が一人でフラッとどっか行くのは珍しいことじゃない。
それでもカイルがそう問いかけてきたのは俺が手ぶらだからだろう。大抵は本を持ってどっか行くし。
「隣のクラス。教科書を借りにね」
親指で隣のクラスの方を指し、そのまま教室を出た。
注目を浴びながらも他所様のクラスに入り、そのまますたすたと窓際まで歩みを進める。
窓際の後ろから二列目、頬杖をついて外を見ていたアダムがこちらを向いた。軽く片手をあげて声をかける。
「やぁ、悪いけど数Ⅱの教科書を貸してくれないかな?」
「忘れたのか?優等生が珍しいな」
……別に忘れたわけじゃないんだけどね。
その言葉を飲み込んでにっこり笑む。
ゴソゴソと机の中に手を突っ込むアダムの周囲には幸いなことに人がほとんどいなかった。
「君にお願いがあるんだ」
「?だから教科書だろ??」
「それもだけどね、本題はアインスの件なんだ」
ガタガタ、バサバサバサッ!!
そんな擬音と共に机の中から教科書やらノートやらが辺りに散らばった。
おや、大変だ。と腰を落としてそれらを拾う。
「な、なんのことだ?」
慌てたように椅子から降りたアダムは意味がわからない、という風に声をあげた。
教科書を拾うために下を向いた彼の表情を長い前髪が覆い隠す。
「約束はしてくれたけど、嫌がらせは御免だから念の為、ね。ツヴァイの言うことなら彼も少しは聞くかと思って」
バッと上げられた顔。
表情は口元しか見えないが、こちらを凝視する視線を感じる。
アダムの驚きは当然だ。
なにせ “アインス” というのは盗賊団・シュヴァルツでのフィガロの通り名なのだから。
流石に本名で呼び合うわけにはいかないんだろう。メンバーはアインス、ツヴァイ、ドライ、フィーア…………といった名前で呼び合っている。
そして目の前のアダムを “ツヴァイ” と呼んだように、彼もそのメンバーの一員だ。
№2の兄貴分といっても過言じゃない。
自由奔放な首領を諫める苦労性ポジ。
イザベル嬢とは違ってシュヴァルツメンバーはゲームでもちょこちょこ出てきてたし、アダムの正体にはわりとすぐに気づいていた。
そんな名前をさらっと出されたんだから、アダムが驚愕するのも仕方がないことだろう。
コイツ自体には恨みはないし、フィガロのお守りだの尻ぬぐいだのには同情もするが……何分、その同情よりも我が身可愛さが上回るんでな。
ってことでビビらせて悪いけど、こんな手に出てみました。
名付けて「保護者に釘を刺す作戦」。
まとめた本やノートを持って立ち上がる。
手にしたそれをトンッ、とまとめて彼の机に置いた。
「彼がまた暴走しそうになったら頑張って宥めて欲しいんだよね。お願い、聞いてくれるかな?」
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