114 / 146
114
しおりを挟む次の日、嫌がらせは止んだ。
まだ3限だけど、机や持ち物への悪戯もなければフィガロの姿も見てないし、そう考えていいだろう。
とはいえ……例の噂と、昨日の昼休みのアレはしっかり広がっているようで視線が煩わしいのは相変わらずだ。
級友もレイヴァンとの話を聞きたそうだったけど、適当にかわした。
こういう時、何気に俺のキャラって便利。
カイルみたいな陽キャだと大勢に囲まれて根ほり葉ほり聞かれそうだけど、俺の場合はさらっと躱せば相手も深追いはしにくいらしい。
相手が侯爵家の大物ってのもあるだろうけど。
3限が終わり、席を立った。
「あれ、ラファエルどっか行くん?」
黄昏キャラでもある俺が一人でフラッとどっか行くのは珍しいことじゃない。
それでもカイルがそう問いかけてきたのは俺が手ぶらだからだろう。大抵は本を持ってどっか行くし。
「隣のクラス。教科書を借りにね」
親指で隣のクラスの方を指し、そのまま教室を出た。
注目を浴びながらも他所様のクラスに入り、そのまますたすたと窓際まで歩みを進める。
窓際の後ろから二列目、頬杖をついて外を見ていたアダムがこちらを向いた。軽く片手をあげて声をかける。
「やぁ、悪いけど数Ⅱの教科書を貸してくれないかな?」
「忘れたのか?優等生が珍しいな」
……別に忘れたわけじゃないんだけどね。
その言葉を飲み込んでにっこり笑む。
ゴソゴソと机の中に手を突っ込むアダムの周囲には幸いなことに人がほとんどいなかった。
「君にお願いがあるんだ」
「?だから教科書だろ??」
「それもだけどね、本題はアインスの件なんだ」
ガタガタ、バサバサバサッ!!
そんな擬音と共に机の中から教科書やらノートやらが辺りに散らばった。
おや、大変だ。と腰を落としてそれらを拾う。
「な、なんのことだ?」
慌てたように椅子から降りたアダムは意味がわからない、という風に声をあげた。
教科書を拾うために下を向いた彼の表情を長い前髪が覆い隠す。
「約束はしてくれたけど、嫌がらせは御免だから念の為、ね。ツヴァイの言うことなら彼も少しは聞くかと思って」
バッと上げられた顔。
表情は口元しか見えないが、こちらを凝視する視線を感じる。
アダムの驚きは当然だ。
なにせ “アインス” というのは盗賊団・シュヴァルツでのフィガロの通り名なのだから。
流石に本名で呼び合うわけにはいかないんだろう。メンバーはアインス、ツヴァイ、ドライ、フィーア…………といった名前で呼び合っている。
そして目の前のアダムを “ツヴァイ” と呼んだように、彼もそのメンバーの一員だ。
№2の兄貴分といっても過言じゃない。
自由奔放な首領を諫める苦労性ポジ。
イザベル嬢とは違ってシュヴァルツメンバーはゲームでもちょこちょこ出てきてたし、アダムの正体にはわりとすぐに気づいていた。
そんな名前をさらっと出されたんだから、アダムが驚愕するのも仕方がないことだろう。
コイツ自体には恨みはないし、フィガロのお守りだの尻ぬぐいだのには同情もするが……何分、その同情よりも我が身可愛さが上回るんでな。
ってことでビビらせて悪いけど、こんな手に出てみました。
名付けて「保護者に釘を刺す作戦」。
まとめた本やノートを持って立ち上がる。
手にしたそれをトンッ、とまとめて彼の机に置いた。
「彼がまた暴走しそうになったら頑張って宥めて欲しいんだよね。お願い、聞いてくれるかな?」
261
お気に入りに追加
1,048
あなたにおすすめの小説

囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。
riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。
召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。
しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。
別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。
そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ?
最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる)
※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい
拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。
途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。
他サイトにも投稿しています。

僕はただの妖精だから執着しないで
ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜
役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。
お願いそっとしてて下さい。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
多分短編予定
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます
餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。
まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。
モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。
「アルウィン、君が好きだ」
「え、お断りします」
「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」
目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。
ざまぁ要素あるかも………しれませんね

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる