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しおりを挟む問われたフィガロは何故か唇を引き結んだ。
ぐっと押し黙る姿は答えにくいことを聞かれたようで、同時になにかを迷っている風でもあった。
「……なんで」
フィガロの瞳が俺を、そして背後のレイヴァンをちらりと捉える。
「昼間、あんたなんであんなこと口にしたんだ?付き合ってんの、隠してんじゃねーの?わざわざあんなこと言わねぇでテキトーに誤魔化せばよかっただろ」
いや、お前に言われたくねーよ。
真っ先に浮かんだ感想はそれだった。
それをわざわざご丁寧にバラしてくれたのお前だろーが!
そう突っ込みたかったが、注意深くこちらを探るようなフィガロの瞳の色にその言葉を飲み込んだ。
なんでそんなことを聞いてくるのかはわからないが、彼にとっては大事なことのようだ。
なので俺は正直に答えた。
昼休みにレイヴァンに告げたのと同じことを。
「君がバラまいてくれた噂は大迷惑だけど、それよりもそれを否定することでレイヴァンが傷つくならそっちの方が大問題だからね。単に事実を口にしただけだよ」
それがなにか?と聞くとフィガロもまた「なんだよ、それ……」と小さく呟いた。
驚いた表情で俺の顔をポカンと見ていたフィガロが「マジで好きなのか?」と問うから「勿論」とさらりと答える。
何故にそんな解せない表情をされているのかはわからないが、ふいに視線を逸らされた。
ポケットに手を突っ込んだフィガロが階段へ向け足を踏み出す。
「ちょっ……」
「嫌がらせはやめてやるよ」
呼び止めようとした俺の言葉が終わるより早くフィガロがこちらを見ずに言った。
「はっ?ちょっと待った」
「うっせーな。嫌がらせはやめるってんだからもういいだろっ」
肩を掴めば鬱陶しそうに払われる。
嫌がらせをやめてくれるのはいいが、嫌がらせをされてた理由も謎のままだし全然よくはねーわ。
そしてそんな想いは同じだったようで、レイヴァンがキレた。
アレンの腕を払い、立ち去ろうとするフィガロの前に仁王立ちで立ちはだかる。
「調子に乗るのも大概にしたらどうですか」
ヤバい、冷気が噴き出している。
物理的に……。
薄っすらと霜が立つ廊下が彼の怒りを表していた。
「あっ”?!まだなんかあんのかよ?」
「当たり前でしょう?!ラファエルに嫌がらせをしていた理由も聞いてないし、第一謝罪もまだされてません」
「はぁ?誰が詫びなんてするか」
レイヴァンの魔力の昂ぶりに合わせて気温が急低下しているし、フィガロはフィガロで得物を取り出しそうで……乱闘をはじめそうな二人を慌てて取り押さえる。
俺とアレンに阻まれながらもメンチ切った二人の舌戦は続いている。
ついでに廊下の凍りつきも進行中。
「どうせ意味もなく退屈しのぎに嫌がらせでもしていたんでしょう。ラファエルにあなたに嫌がらせをされる理由なんてありませんからね」
「どうだか?品行方正なフリして中身はどうだかわかんねぇぜ?」
「いい加減にっ…………」
ビキィ!!と派手な音を立ててドアの取っ手が凍りついた。
「臆面もなく好きだなんて口にしながら他の女にもちょっかい出してるし」
は?
突然の言葉に呆然とフィガロを見る。
力が緩んだ隙に腕を大きく払われた。
怒りがヒートアップしていたレイヴァンも動きを止め、そんな彼にフィガロの口元が大きく歪む。
「なにを言って……」
「嘘じゃないぜ?」
「なぁ」と首だけで振り返ったフィガロが俺を見た。
「身に覚えがあんだろ?人前で堂々とあんなこと言いながらよその女抱きしめるとかよくやるよな」
「…………あなたがそれを見たと?」
戸惑いもあらわに問うレイヴァンにフィガロが緩く首をふる。
だけど声音は確信に満ちていた。
「いや、けど俺は鼻がいいんだ。近づいたぐれぇじゃあんなに匂いは移らねぇよ。抱きしめるでもしないとな」
無言で俺はフィガロを見た。
まさか、という思いが頭をよぎっていた。
そんな俺らを不安そうにレイヴァンが見つめるが……正直いまはそれどころじゃなかった。
「手製の菓子食ったり、プレゼント貰ったり、それって浮気じゃねぇの?」
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