【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴

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「なぁラファエル、これってやっぱ二年のアイツ?」

「だろうね」

珍しくも声を潜めたカイルに素っ気なく返す。

チラチラと向けられる視線の煩わしさについそんな態度になってしまった。
きっと今頃レイヴァンはもっと煩わしさを感じているだろうなと考えれば尚更だ。

「なんであんな突っかかってくんだろうな。俺が一発ぶん殴ってきてやろうか?」

「ありがとう。大丈夫だよ……彼とは一度話をしてみる」

心配してくれる友人に自分の態度を改めて笑みを浮かべた。


昼休み、食堂へ向かう途中でレイヴァンたちを見つけた。

特に約束はしていなかったし、噂の手前、今日は一緒でない方がいいかと思い一瞬立ち止まった俺へとレイヴァンが声をかけて近づいてくる。

騒めきと向けられる視線が強まるのを肌に感じる。
同じくそれを感じているだろうに敢えてそれを無視する彼の後ろでは眉を寄せて呆れた顔の王子と、カイルと顔を見合わせ無言で小さく首を振るアレン。
リーゼロッテ様は眉を下げて心配そうな瞳を俺らへと向けていた。

張り付けられた綺麗な笑顔。
様々な感情を押し殺すためのそれは、俺の好きな彼本来の表情ではなく貴族特有の仮面で……そんな表情を彼にさせていることに言いようのない怒りが込み上げた。

「あっ、ラファエル先輩」

きっと何処かで監視でもしていたのだろう、ワザとらしいタイミングでフィガロが姿を現した。

手を振って小走りで駆けてきたフィガロはキュッと靴音を立てて止まるとこてんと首を傾げる。

「な~んか、すっげぇ噂になってんね?ねぇねぇ、あの噂マジなの?」

さも悪気がなさそうに聞いてくるその横っ面をぶん殴ってやりたい。

だから「テメェいい加減にしろよ?」とボキボキ手を鳴らすカイルの気持ちはよくわかるが、乱闘を起こす気は毛頭ない。

腕を真横に伸ばしてカイルを止めた。
カイルだけでなくアレンにも不満そうな顔をされたがとりあえず無視で。

「さぁ?そもそも君には関係ないだろう?」

「え~、だって気になっし。ちょ~噂になってんじゃん」

「本当にね。侯爵家の噂がここまで広がるなんて吃驚だよ」

苛々を押し殺し、柔和な表情を敢えて浮かべて言ってやった。

わずかにフィガロが怯み、立ち止まっていた野次馬たちも気まずそうに視線を逸らす。

貴族社会は噂が大好物だ。
ゴシップで失脚する家もあれば、面白おかしく噂をしたことで噂をした側が報復を受けることもある。その噂が事実かどうかに関わらず、だ。

相手が侯爵家ともなれば誰だって敵に回したくはないだろう。

唇を引き結んだフィガロの表情に溜飲が下がったのはほんの一瞬。
野次馬たちにも牽制を込めて周囲を横目で眺めた俺は見てしまった。

紙のように白い顔で微かに俯くレイヴァンを。

フィガロの登場にカイルたちと同じく怒り心頭かと思った彼は、いつものように瞳を尖らせるのでもなく、やり込められたフィガロに冷笑を浮かべるのでもなく、身体の横で両手を握りしめながら俯いていた。
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