【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴

文字の大きさ
上 下
105 / 141

105

しおりを挟む


結果として、少女に怪我はなかった。

大きな荷物……もとい、美術部の大作も無事だった。

パニックを起こした少女を送り届けた部室では、部員の少女と三年生にとっては最後の作品になるだろう共同制作の大作を守ったことを盛大に感謝され、後日お礼の品まで進呈された。



「なぁ、エバンス。なんかあった?」

「なんかって?」

アダムの漠然としすぎる問いに首をひねる。
トラックを駆けながらアダムがペースを押さえて隣に並ぶ。

「ほら、最近よく二年の奴に絡まれてたじゃん?ここ数日見ねぇなって思って」

「そういえば……」

確かにここ2、3日ぱったり見かけない。
最後に見かけたのは食堂で絡まれたときだ。

「いい加減あきただけじゃないかな?」

もともとただの気まぐれだろうし。

そう返した俺に、アダムはなぜかひどく難しそうな表情をしていた。



そんな話をしていた午後、移動教室の途中で偶然フィガロに会った。

友人と連れ立っていたフィガロは俺を視線に居れた途端、それまでの飄々ひょうひょうとした表情を消して凍るような瞳でこっちを見た。

つい数日前までとは全然違う表情と態度。
眇められた瞳に、引き結ばれた唇。

殺気すら感じさせる冷ややかな表情に、俺もだけど一緒に居た友人たちが驚いた。
それにすぐさま表情を取り繕うフィガロだが、瞳の奥の冷ややかさは隠せていなかった。

通り過ぎるとき聞こえたチッっと鋭い舌打ち。
突然すぎる豹変に困惑しながらその背を見送った。


その次の日から地味な嫌がらせがはじまった。

水浸しにされた靴、机の上に置かれた花に、通り過ぎ様にドンッと体当たりを食らったり。

小学生か……!!

思わず心の中でツッコんだ俺は悪くないと思う。

嫌がらせのレベルが低すぎる。
いや、プロの盗賊に本気の嫌がらせされても恐すぎるから、レベルが低いことは大歓迎なんだけどさ。

ちなみに犯人がフィガロで特定しているのは、あからさまな嫌味をいいつつニヤニヤしたり、体当たりに関してはご本人が真っ向から仕掛けてきてるからですが、なにか?

ますます小学生かよっ?!

だがまぁ、これも嫌がらせあるあるで、嫌がらせは徐々にエスカレートしていった。

くっだんねぇ噂に、実技の授業から戻ればびしょ濡れの服etc……。

対面的には品行方正を貫いてるから、噂を信じられるどころか周囲から心配される始末だし、びしょ濡れも雑巾ぞうきん絞った汚水とかじゃなくただの水だから魔法で乾かして問題なしっ!

むしろ問題は…………。

俺に対する嫌がらせが噂になってしまったことだろうか。

つまり、レイヴァンくんのお耳にも届いてしまいました。

「だいたいっ!どうしてラファエルもそんなに平然としているんですかっ!!あんな奴、半殺しにしたうえで氷漬けにして氷像にしてやったらいいんですよ!!」

いやそれ、過剰防衛にも程があるから。

どうどう、と荒ぶるレイヴァンを宥める方が嫌がらせよりよっぽど大変なんだけどどうしよう?

ちなみにこの件を黙っていたことで俺まで怒られてます、はい。

「嫌がらせっていっても小学生レベルだから大丈夫だよ」

「そういう問題じゃないです!!」

とはいえ、そろそろなんとかしなきゃなーとは思っている。
これ以上エスカレートしたら流石に困るし、最近俺だけじゃなくレイヴァンたちの周りまでちょろちょろ嗅ぎまわってるみたいだしね。

出来れば解決するまでバレたくなかった……毛をシャー!と逆立てたみたいなレイヴァンの様子に心の中でそう呟いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

『倉津先輩』

すずかけあおい
BL
熱しやすく冷めやすいと有名な倉津先輩を密かに好きな悠莉。 ある日、その倉津先輩に告白されて、一時の夢でもいいと悠莉は頷く。

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

美形×平凡のBLゲームに転生した平凡騎士の俺?!

元森
BL
 「嘘…俺、平凡受け…?!」 ある日、ソーシード王国の騎士であるアレク・シールド 28歳は、前世の記憶を思い出す。それはここがBLゲーム『ナイトオブナイト』で美形×平凡しか存在しない世界であること―――。そして自分は主人公の友人であるモブであるということを。そしてゲームのマスコットキャラクター:セーブたんが出てきて『キミを最強の受けにする』と言い出して―――?! 隠し攻略キャラ(俺様ヤンデレ美形攻め)×気高い平凡騎士受けのハチャメチャ転生騎士ライフ!

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい

拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。 途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。 他サイトにも投稿しています。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

処理中です...