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しおりを挟む結果として、少女に怪我はなかった。
大きな荷物……もとい、美術部の大作も無事だった。
パニックを起こした少女を送り届けた部室では、部員の少女と三年生にとっては最後の作品になるだろう共同制作の大作を守ったことを盛大に感謝され、後日お礼の品まで進呈された。
「なぁ、エバンス。なんかあった?」
「なんかって?」
アダムの漠然としすぎる問いに首をひねる。
トラックを駆けながらアダムがペースを押さえて隣に並ぶ。
「ほら、最近よく二年の奴に絡まれてたじゃん?ここ数日見ねぇなって思って」
「そういえば……」
確かにここ2、3日ぱったり見かけない。
最後に見かけたのは食堂で絡まれたときだ。
「いい加減あきただけじゃないかな?」
もともとただの気まぐれだろうし。
そう返した俺に、アダムはなぜかひどく難しそうな表情をしていた。
そんな話をしていた午後、移動教室の途中で偶然フィガロに会った。
友人と連れ立っていたフィガロは俺を視線に居れた途端、それまでの飄々とした表情を消して凍るような瞳でこっちを見た。
つい数日前までとは全然違う表情と態度。
眇められた瞳に、引き結ばれた唇。
殺気すら感じさせる冷ややかな表情に、俺もだけど一緒に居た友人たちが驚いた。
それにすぐさま表情を取り繕うフィガロだが、瞳の奥の冷ややかさは隠せていなかった。
通り過ぎるとき聞こえたチッっと鋭い舌打ち。
突然すぎる豹変に困惑しながらその背を見送った。
その次の日から地味な嫌がらせがはじまった。
水浸しにされた靴、机の上に置かれた花に、通り過ぎ様にドンッと体当たりを食らったり。
小学生か……!!
思わず心の中でツッコんだ俺は悪くないと思う。
嫌がらせのレベルが低すぎる。
いや、プロの盗賊に本気の嫌がらせされても恐すぎるから、レベルが低いことは大歓迎なんだけどさ。
ちなみに犯人がフィガロで特定しているのは、あからさまな嫌味をいいつつニヤニヤしたり、体当たりに関してはご本人が真っ向から仕掛けてきてるからですが、なにか?
ますます小学生かよっ?!
だがまぁ、これも嫌がらせあるあるで、嫌がらせは徐々にエスカレートしていった。
くっだんねぇ噂に、実技の授業から戻ればびしょ濡れの服etc……。
対面的には品行方正を貫いてるから、噂を信じられるどころか周囲から心配される始末だし、びしょ濡れも雑巾絞った汚水とかじゃなくただの水だから魔法で乾かして問題なしっ!
むしろ問題は…………。
俺に対する嫌がらせが噂になってしまったことだろうか。
つまり、レイヴァンくんのお耳にも届いてしまいました。
「だいたいっ!どうしてラファエルもそんなに平然としているんですかっ!!あんな奴、半殺しにしたうえで氷漬けにして氷像にしてやったらいいんですよ!!」
いやそれ、過剰防衛にも程があるから。
どうどう、と荒ぶるレイヴァンを宥める方が嫌がらせよりよっぽど大変なんだけどどうしよう?
ちなみにこの件を黙っていたことで俺まで怒られてます、はい。
「嫌がらせっていっても小学生レベルだから大丈夫だよ」
「そういう問題じゃないです!!」
とはいえ、そろそろなんとかしなきゃなーとは思っている。
これ以上エスカレートしたら流石に困るし、最近俺だけじゃなくレイヴァンたちの周りまでちょろちょろ嗅ぎまわってるみたいだしね。
出来れば解決するまでバレたくなかった……毛をシャー!と逆立てたみたいなレイヴァンの様子に心の中でそう呟いた。
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