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しおりを挟むトントン、トントンと一定のリズムで背を叩いている内に彼の息も整ったみたいだ。
……ただ動揺は収まっていないみたいで、そろりと上げられた可愛いお顔は真っ赤だったけど。
首元まで真っ赤に染めて、大きく捲られた瞳には薄っすらと涙の膜。
ぽってりと赤くなった唇と、そこから香るたったいま味わったばかりの洋酒交じりの甘い香り。
思わずゴクリと喉を鳴らしそうになる自分を叱咤する。
ダメだぞー俺、自重大事。
嫌がる相手に無理矢理、なんてのは言語道断だし、なによりわりと密着してるから。
もはや俺の片足の上にレイヴァンを乗せてるような状態だからさ。あんま暴走すると色々伝わっちゃうわけですよ。
ナニがって、ほらアレがさ。
「大丈夫?」
もう一度レイヴァンに問いかければ、小さくだけど頷きが返された。
赤い頬のまま、窺うように俺を見上げたレイヴァンの唇が小さく動き、だけど音を紡がぬまま何度か開かれては閉じるのを繰り返す。
首を傾げてどうしたの?と視線で問いかければ、少しだけ色を引き始めていた頬がまた鮮やかに染まった。
「……その……いまのは……?」
んんー、やっぱりお上品な彼の知識にはなかったかー。
そう思いつつ少しだけ上向かせるようにレイヴァンの片頬を包み込む。
「ディープキス。……いやじゃなかった?」
不安を抱きつつ問いかければ、恥ずかしそうにこくりと頷いてくれて彼にほっとした。
「……よかった。ごめんね?驚かせてしまっただろう?」
心の中で盛大なガッツポーズをかました素振りなど微塵も見せず眉を下げて謝る。
一応反省はしているのだ。
後悔はしていないし、またやらないかはまた別だが。
不穏な内心は隠しつつ、とりあえずビックリさせてしまった反省の意を込めつつ素直に謝ったが、レイヴァンは眉間に僅かにシワを寄せ唇を引き結ぶ。
あ……やっぱりちょっと怒ってる?
機会があれば是非またやろうとしている内心を見抜かれたか、それとも反省の姿勢が足りなかったか。
頬を包んだ手でほっぺすりすりしてたのがマズかったのかも。
いやでも、男とは思えないぐらいすべすべモチモチなんだもん。
手触り最高だから仕方ないだって!
そんな言い訳を心の内で重ねつつ、「レイヴァン?怒っているのかい?」と眉を下げる俺をじっと見つめるサファイアの瞳は非常にもの言いたげなくせに、なかなかその唇は開かれない。
硬直状態のまま、非常に居心地の悪い時間が流れた。
「レイヴァン?その、やっぱりいやだっ……」
「いやじゃないです」
言葉を遮るように否定してくれたレイヴァンの瞳は、だけどやっぱり俺に突き刺さったままで……。
「どこで覚えてきたんですか?」
「へ?」
質問の意図を掴めず間抜けな声が出た。
きっと顔も間抜け面だろう。
そんな俺にキリッとした顔をずいっと近づけるレイヴァン。
さっきまでの甘い雰囲気は微塵もない。
お膝の上に抱えて腰を抱いているという状況にも関わらず、あるのはラブシーンというよりは尋問の気配。
「お付き合いした女性はいないと仰ってました。軽々しく女性に手を出すことなど出来ないとも」
「えっ、う、うん」
「じゃあ男性は?」
「はっ?!男っ?!」
ちょ、いきなりなに言い出すのこの子?!
「まさかあの男とかに手を出されてはいないですよね?」
どっから出したの?!っていうぐらい低っい声での詰問。
名前を口にするのも嫌だと言わんばかりのあの男が誰を指すのかがわかってしまったのが嫌だ。
どっかの某隊長さまですよね、きっと。
そしてなんつー勘違いされてんだ。
「まさかっ!!」
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