88 / 141
88
しおりを挟む馬車が走り出した途端、どちらともなくキスをした。
こうしてキスを重ねるのは何度目だろう?
重ねただけの唇を離し、ふるりと震える睫毛ごしの至高の宝石を眺めながらそんなことを想う。
薄く色づいた眦も、滑らかな頬も、吐息を零し震える唇もなにもかも。
俺を誘惑しているように見えて仕方がない。
仄暗い店内で彼によって灯された火は、いまだ消えることなく俺の中で燻りつづけ理性をじわじわと侵食したまま。
彼の腰を抱いたまま、もう片方の手で紙袋から小箱を取り出す。
その場で蓋を開いた俺に「ラファエル?」と腕の中のレイヴァンが首を傾げたが、それには構わずオリフェリアの心臓を一つ摘んだ。
赤いハートをレイヴァンの唇にそっと押し付け……。
そのまま唇を重ねた。
瞳を見開いたレイヴァンを膝に乗せ、腕の中に閉じ込めたまま舌先をそっとショコラごと彼の咥内へ。
腕の中の身体がピクリと震えた。
きっと吃驚しているだろう。
触れるだけのキスならまだしもディープキスなんて経験どころか知識すらきっとない。
宥めるように彼の頭にまわした手でそっと髪を撫で、戯れるように舌先を擽くすぐる。
大きく見開いた瞳をギュっっと閉じて、縋るように胸元を掴んだレイヴァンの様子を見つつ慎重に舌を進めた。
舌を突っ込まれるなんで未知もいいところだろうし、拒絶があればすぐに引っ込めようとしていた舌は奥へ奥へと進んでいく。
舌先を遊び、歯列をなぞり、顎裏をそっと舐めあげればその度に小さく揺れる身体。
戸惑いながらも受け入れてくれる彼が愛しくて愛しくて、艶やかな髪に差し込んだ手をより一層引き寄せてしまう。
もっと深く。
もっと一つに。
互いの熱で溶けたオリフェリアの心臓がどろりと甘く思考も溶かす。
仰け反るように仰向いた白い喉が、小さく数度上下した。
強くシャツを掴む指に、名残惜しいながらも唇をそっと放すとはふっと熱い吐息が漏れた。
息が出来なかったのだろう、そんなもの慣れぬようすも愛おしくて、宥めるようにそっとその背を何度も撫でた。
「大丈夫かい?」
問いかけに応えはなく、ギュッと強く目を閉じた彼は胸に凭れながらはふはふと息を整えている。
さらりと揺れるプラチナブロンドから覗く無防備な首筋に悪戯心が沸き上がるが……流石に怒られそうなので自重した。
目に毒なそこからそっと視線を逸らし、彼が落ち着くようにゆっくりと背を叩く。
レイヴァンが……っていうより、一旦俺も落ち着こう。
はっきりとは覚えていないが、前世の経験故かディープキスへの動揺はない。
まぁ、仕掛けたの俺だし。
動揺はないが欲望はある。ガンガンである。
彼を怖がらせたくないし、嫌われるのは御免なのである程度の自重はしたが……うん、断わりもなくかましたが、本気で嫌がられたら止めるつもりだったし、がっつかないようセーブはした。
もしもあの場で衝動のまま手を伸ばしていたら……それこそ自重皆無で貪ってたかもしんない。
改めて俺は六時を告げた壁時計に感謝を捧げた。
275
お気に入りに追加
995
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

異世界転生してひっそり薬草売りをしていたのに、チート能力のせいでみんなから溺愛されてます
はるはう
BL
突然の過労死。そして転生。
休む間もなく働き、あっけなく死んでしまった廉(れん)は、気が付くと神を名乗る男と出会う。
転生するなら?そんなの、のんびりした暮らしに決まってる。
そして転生した先では、廉の思い描いたスローライフが待っていた・・・はずだったのに・・・
知らぬ間にチート能力を授けられ、知らぬ間に噂が広まりみんなから溺愛されてしまって・・・!?

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

αからΩになった俺が幸せを掴むまで
なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。
10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。
義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。
アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。
義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が…
義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。
そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

悪役に好かれていますがどうやって逃げれますか!?
菟圃(うさぎはたけ)
BL
「ネヴィ、どうして私から逃げるのですか?」
冷ややかながらも、熱がこもった瞳で僕を見つめる物語最大の悪役。
それに詰められる子悪党令息の僕。
なんでこんなことになったの!?
ーーーーーーーーーーー
前世で読んでいた恋愛小説【貴女の手を取るのは?】に登場していた子悪党令息ネヴィレント・ツェーリアに転生した僕。
子悪党令息なのに断罪は家での軟禁程度から死刑まで幅広い罰を受けるキャラに転生してしまった。
平凡な人生を生きるために奮闘した結果、あり得ない展開になっていき…

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる