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しおりを挟む馬車が走り出した途端、どちらともなくキスをした。
こうしてキスを重ねるのは何度目だろう?
重ねただけの唇を離し、ふるりと震える睫毛ごしの至高の宝石を眺めながらそんなことを想う。
薄く色づいた眦も、滑らかな頬も、吐息を零し震える唇もなにもかも。
俺を誘惑しているように見えて仕方がない。
仄暗い店内で彼によって灯された火は、いまだ消えることなく俺の中で燻りつづけ理性をじわじわと侵食したまま。
彼の腰を抱いたまま、もう片方の手で紙袋から小箱を取り出す。
その場で蓋を開いた俺に「ラファエル?」と腕の中のレイヴァンが首を傾げたが、それには構わずオリフェリアの心臓を一つ摘んだ。
赤いハートをレイヴァンの唇にそっと押し付け……。
そのまま唇を重ねた。
瞳を見開いたレイヴァンを膝に乗せ、腕の中に閉じ込めたまま舌先をそっとショコラごと彼の咥内へ。
腕の中の身体がピクリと震えた。
きっと吃驚しているだろう。
触れるだけのキスならまだしもディープキスなんて経験どころか知識すらきっとない。
宥めるように彼の頭にまわした手でそっと髪を撫で、戯れるように舌先を擽くすぐる。
大きく見開いた瞳をギュっっと閉じて、縋るように胸元を掴んだレイヴァンの様子を見つつ慎重に舌を進めた。
舌を突っ込まれるなんで未知もいいところだろうし、拒絶があればすぐに引っ込めようとしていた舌は奥へ奥へと進んでいく。
舌先を遊び、歯列をなぞり、顎裏をそっと舐めあげればその度に小さく揺れる身体。
戸惑いながらも受け入れてくれる彼が愛しくて愛しくて、艶やかな髪に差し込んだ手をより一層引き寄せてしまう。
もっと深く。
もっと一つに。
互いの熱で溶けたオリフェリアの心臓がどろりと甘く思考も溶かす。
仰け反るように仰向いた白い喉が、小さく数度上下した。
強くシャツを掴む指に、名残惜しいながらも唇をそっと放すとはふっと熱い吐息が漏れた。
息が出来なかったのだろう、そんなもの慣れぬようすも愛おしくて、宥めるようにそっとその背を何度も撫でた。
「大丈夫かい?」
問いかけに応えはなく、ギュッと強く目を閉じた彼は胸に凭れながらはふはふと息を整えている。
さらりと揺れるプラチナブロンドから覗く無防備な首筋に悪戯心が沸き上がるが……流石に怒られそうなので自重した。
目に毒なそこからそっと視線を逸らし、彼が落ち着くようにゆっくりと背を叩く。
レイヴァンが……っていうより、一旦俺も落ち着こう。
はっきりとは覚えていないが、前世の経験故かディープキスへの動揺はない。
まぁ、仕掛けたの俺だし。
動揺はないが欲望はある。ガンガンである。
彼を怖がらせたくないし、嫌われるのは御免なのである程度の自重はしたが……うん、断わりもなくかましたが、本気で嫌がられたら止めるつもりだったし、がっつかないようセーブはした。
もしもあの場で衝動のまま手を伸ばしていたら……それこそ自重皆無で貪ってたかもしんない。
改めて俺は六時を告げた壁時計に感謝を捧げた。
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