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しおりを挟む「ラファエル?どうかしましたか?」
覗きこんできたレイヴァンになんでもない、と緩く首を振った。
先日の出来事に想いを馳せていたら意識がお留守になっていたようだ。
気持ちを切り替え、ふと視界に入ったものに小さく声をあげた。
「あっ!」
ちょうど俺の声と被るタイミングでレイヴァンの声が重なった。
繋いだ手をグイっと引き寄せ、もう片方の手で後ろに重心が揺らいだ彼の頭を抱え込む。
はからずしも胸に抱き込む形になりながらほっと息をひとつ吐いた。
「大丈夫かい?」
「は、はい……すみません。ありがとうございます」
さらりと揺れる髪から手を離してそう問えば、薄っすら頬を染めながらレイヴァンが答えた。
相変わらず、自分からはグイグイくるくせにこうした不意の接触には弱いらしい。
色づいた滑らかな頬を可愛いなと思ってしまう自分自身には、「自重なんて最初から無理だったんじゃね?」と思わずにはいられないけど……。
内心こっそりと溜息を殺しながらしゃがみこんで目についたそれを拾う。
俺が声を上げた原因であり、レイヴァンが転びそうな原因となった白い小石だ。
丸く角のないそれは左右にならぶ植物の地面にあるのと同じもの。たまたま道に転がり出てしまったのだろう。
振り返りながら歩いていたレイヴァンがうっかり踏みつけて転びそうになったそれをポイッと植物の根元へと投げ入れる。
いやぁ、転倒して頭をぶつけたりしなくて良かった。
パンパンと手を払い、離した右手を再び彼へと差し出した。
だってほら、デートだしね?
他人だって見てないし、お手て繋ぐぐらいいいでしょう。
さっきこっそり自分の自重の効かなさに溜息を押し殺したばかりだというのに、重ねられた彼の指と体温にだらしなくも顔が緩んでいる自覚はあった。
年下にことごとく論破され、圧倒的不利になったディベートの場。
だからといってすぐさま「よっし、わかった!じゃあ付き合おう!!」とも切り替えられず、グダグダと反論を試みる俺にレイヴァンが提案したのはお試しでのお付き合いだった。
「将来のことはゆくゆく考えるとして、まずはお付き合いをして頂けませんか?」
実際に付き合ってみて直面する不都合などもあるだろう、このまま断られても自分の気持ちの整理がつかない……etc。
最終的にその提案に頷いてしまった俺だったが……。
冷静になって考えると、最初に難易度が高い提案をしてから難易度の低めな提案を投げ掛けるとかよくある交渉術な気が気がしてきた。
そもそも婚姻だの養子だのの話ですっかり戸惑ってたけど、スタートはお付き合いの話だったしね。
一度枷を緩めてしまえば、ますます理性は感情に容易く支配されつつある今日この頃。
前世の大学なみの長めの夏季休暇もあってデートを重ねては、日々感情に溺れていくばかり。
男同士だからとか、関係を隠したいとか以前に、前世日本人的気質として人前でイチャつくのは抵抗があるのだけど……それだっていつまで持つかという気がしないでもない。
恋に溺れる、っていうのはこういう状況をいうのだろうか。
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