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しおりを挟むそっからはもうあれだった。
これって何のディベートだっけ?って思っちゃったよ。
や、主題も場所も公的じゃなければ、めちゃくちゃ私的極まりないからその時点でディベートじゃないんだけどさ。
でもあれだ。
「相手方の意見を論破することを目的とした」という意味合いでディベートって言葉が浮かんだよね。
そういう意味ではあれは「双方の擦り合わせを目的とした」ディスカッションでなくディベートだったよ。
まったくもって “論破” って言葉がしっくりきた。
「さっきも言ったけど、私は元々異性愛者で……」
「ですが僕のことを好きになってくくださったんですよね?」
「あ、うん。それは……」
ちなみにレイヴァンは、多分同性愛者ではないとのこと。
「将来的には家柄の見合ったご令嬢と結婚するとは思っていました。ですが漠然とそう思っていただけで、実際に誰かにそういう興味を持ったこともないので女性を好きだと思ったこともないのですが。でもまぁ、ラファエル以外の男に口付けをなどと考えただけで吐き気がするので、男が好きということもないでしょう」
吐き気がする、と顔を顰めながらフォークの先でプチトマトを貫いたレイヴァンはそう宣った。
「君の気持は本当に光栄だけど、一時の気持ちでそういう関係になるのは……」
「つまり、好きは好きだけど本気になるほど好きではないと?」
「違うよ!そういう意味じゃなくてっ」
「では貴方の気落ちを詳細に教えていただけますか」
見事な誘導尋問でレイヴァンを可愛いと思ったことなど、かなりこっ恥ずかしいことまで色々と聞き出された。
そしてそれ以上に「穏やかな話し方が好きです」「ラファエルの側は居心地がいい」「撫でてくれる手が好き……」などと彼からの怒涛の “俺の好きなとこアピール” に真っ赤になって手で顔を覆いながら「お願いだからそのへんで……」って懇願するはめになった。
沸騰するかと思った。
それでも俺は頑張った。
男同士で起きる弊害、周囲の偏見などをあげて必死に説得を試みたのだ。
実際にもしもレイヴァンと俺が付き合った場合、どうしたって不利益を被ることになるのは彼の方だ。
俺は家を継ぐわけでもない伯爵家の次男坊、多少女性との婚姻は難しくなるかも知れないがそれだけだ。
落ちて気にする程の評価も立場もない。
だが彼は侯爵家の嫡男で、宰相閣下の子息でもある眉目秀麗・文武両道・精明強幹と四字熟語がいくらでも思いつくぐらい優秀な人材だ。
いくらだって相手も未来も選べるし、俺と付き合うことで彼の経歴に傷がつくなどあってはならない。
レイヴァンは高位貴族中の高位貴族。
彼がさきほど口にした家柄の見合った令嬢との婚姻において、婚約前に他の女性と付き合っていた事実すら障りになる可能性だってある。
公爵・侯爵家のご令嬢たちともなれば箱入りだろうし。
それがましてや同性だ。
そう思ったからこそ俺は切々と彼を説得した。
気分的には「あんな男にひっかかっちゃ駄目よ」「あなたにはもっといい相手がいるわ」って親戚の子を説得するオバちゃんだった。
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