71 / 121
71 (※)レイヴァン
しおりを挟むそっと唇に触れる。
ピリッとした痛みが僅かに走った。
その痛みとほんのりと鉄さびた血の味が、つい先程の出来事が、その感触が夢幻ではなく現実だったことを教えてくれる。
面白くなかった。
夏休みの計画は、彼が不参加だとわかった途端に色褪せて意味合いを失ってしまった。
アクシデントから偶然の再会を果たすも、密かに沸き立った喜びは彼の側にいた存在によって瞬く間にしぼんだ。
柔らかく頭を撫でる手。
胸へと引き寄せられた小さな頭。
それが向けられる先がどうして自分ではないのか?
沸々と沸き立つ憤りはマグマのようにドロドロと胸を焼け焦がし、コポリコポリと不満を露わにする。
甘えを含んだ仕草と瞳。
はにかむ笑顔は当然のようにその手を、優しさを受け入れる。
向けられる瞳にあるのは親愛の情と全幅の信頼。
コポリコポリと浮き立つ不満が、ブクブクと沸騰し泡を立てる。
彼の隣は自分の場所だと、そう叫び出してしまいたかった。
シエルを突き飛ばし、ラファエルは自分のだとそう叫び散らしたかった。
それは_____まぎれもない “嫉妬” だった。
あまりにも強いその感情に、自分自身で衝撃を受けた。
気付いてなかったわけじゃない。
執着してるのはわかってた。
いつだって彼のことを考える自分がいたし、彼を取られるのが嫌だった。
生まれてはじめて抱いたその感情の名前ぐらい、感情に疎く、恋愛ごとに興味すらなかった僕でも気づかざるを得なかった。
だけど、その強さに自分自身で驚いた。
理性なんて簡単に凌駕してしまいそうな激しい感情。
あの瞬間シエルに抱いた感情は憎悪にも似た怒りで、その強さが逆に僕を冷や水を浴びせたように冷静にさせた。
だってシエルはなにもしていないのだ。
正直、あまり得意なタイプではない。
純粋でずいぶんと幼い感じのするシエルは自分とは違いすぎて間違っても自分から仲良くなろうと思う相手ではない。
だが相性はさておき、彼自身が不快かというとそういうわけでもない。
素直で大人しいシエルは例えば学園のクラスメイトであったなら、忌避感など抱くことなく無難な付き合いができただろう。
それが出来ないのは…………。
ラファエルの存在があるからだ。
ドクン、ドクンと心臓が騒ぎ立てる。
沸き上がる衝動を押し殺し、寄り添う二人から視線を逸らして必死に鼓動を、感情を落ち着けようと意識して息を吸った。
いつからこの感情はここまで大きく育ったのだろう?
自分は理性的な人間だと、ずっとそう思っていた。
滅多に表情も動かず、冷静沈着な人形のようだと “アイスプリンス” なんて渾名をつけられていることだって知っている。
それがなんだ?このザマは?
「『この愛こそ、我が心臓』」
脳裏で甘い、甘い声が響いた。
ドクン、と心臓がまたひとつ音を立てる。
そして、気づいた。
この感情が、 “好き” だなんて綺麗で生ぬるいものではなく、
もっと重くて、激しい “愛してる” ということなのだと。
183
お気に入りに追加
806
あなたにおすすめの小説
麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。
無気力令息は安らかに眠りたい
餅粉
BL
銃に打たれ死んだはずだった私は目を開けると
『シエル・シャーウッド,君との婚約を破棄する』
シエル・シャーウッドになっていた。
どうやら私は公爵家の醜い子らしい…。
バース性?なんだそれ?安眠できるのか?
そう,私はただ誰にも邪魔されず安らかに眠りたいだけ………。
前半オメガバーズ要素薄めかもです。
BL漫画の世界に転生しちゃったらお邪魔虫役でした
かゆ
BL
授業中ぼーっとしていた時に、急に今いる世界が前世で弟がハマっていたBL漫画の世界であることに気付いてしまった!
BLなんて嫌だぁぁ!
...まぁでも、必要以上に主人公達と関わらなければ大丈夫かな
「ボソッ...こいつは要らないのに....」
えぇ?! 主人公くん、なんでそんなに俺を嫌うの?!
-----------------
*R18っぽいR18要素は多分ないです!
忙しくて更新がなかなかできませんが、構想はあるので完結させたいと思っております。
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
俺はゲームのモブなはずだが?
レラン
BL
前世で、妹に無理やりプレーさせられたBLゲームに、モブとして転生してしまった男。
《海藤 魔羅》(かいとう まら)
モブだから、ゲームに干渉するつもりがなかったのに、まさかの従兄弟がゲームの主人公!?
ふざけんな!!俺はBLには興味が無いんだよ!!
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる