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71 (※)レイヴァン

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そっと唇に触れる。

ピリッとした痛みが僅かに走った。
その痛みとほんのりと鉄さびた血の味が、つい先程の出来事が、その感触が夢幻ではなく現実だったことを教えてくれる。

面白くなかった。
夏休みの計画は、彼が不参加だとわかった途端に色褪せて意味合いを失ってしまった。

アクシデントから偶然の再会を果たすも、密かに沸き立った喜びは彼の側にいた存在によって瞬く間にしぼんだ。

柔らかく頭を撫でる手。
胸へと引き寄せられた小さな頭。

それが向けられる先がどうして自分ではないのか?

沸々と沸き立つ憤りはマグマのようにドロドロと胸を焼け焦がし、コポリコポリと不満を露わにする。

甘えを含んだ仕草と瞳。
はにかむ笑顔は当然のようにその手を、優しさを受け入れる。
向けられる瞳にあるのは親愛の情と全幅の信頼。

コポリコポリと浮き立つ不満が、ブクブクと沸騰し泡を立てる。

彼の隣そこは自分の場所だと、そう叫び出してしまいたかった。

シエルを突き飛ばし、ラファエルは自分のだとそう叫び散らしたかった。

それは_____まぎれもない “嫉妬” だった。

あまりにも強いその感情に、自分自身で衝撃を受けた。

気付いてなかったわけじゃない。
執着してるのはわかってた。

いつだって彼のことを考える自分がいたし、彼を取られるのが嫌だった。

生まれてはじめて抱いたその感情の名前ぐらい、感情に疎く、恋愛ごとに興味すらなかった僕でも気づかざるを得なかった。

だけど、その強さに自分自身で驚いた。

理性なんて簡単に凌駕りょうがしてしまいそうな激しい感情。
あの瞬間シエルに抱いた感情は憎悪にも似た怒りで、その強さが逆に僕を冷や水を浴びせたように冷静にさせた。

だってシエルはなにもしていないのだ。

正直、あまり得意なタイプではない。
純粋でずいぶんと幼い感じのするシエルは自分とは違いすぎて間違っても自分から仲良くなろうと思う相手ではない。
だが相性はさておき、彼自身が不快かというとそういうわけでもない。

素直で大人しいシエルは例えば学園のクラスメイトであったなら、忌避感など抱くことなく無難な付き合いができただろう。

それが出来ないのは…………。

ラファエルの存在があるからだ。

ドクン、ドクンと心臓が騒ぎ立てる。
沸き上がる衝動を押し殺し、寄り添う二人から視線を逸らして必死に鼓動を、感情を落ち着けようと意識して息を吸った。

いつからこの感情はここまで大きく育ったのだろう?

自分は理性的な人間だと、ずっとそう思っていた。
滅多に表情も動かず、冷静沈着な人形のようだと “アイスプリンス” なんて渾名あだなをつけられていることだって知っている。

それがなんだ?このザマは?


「『この愛こそ、我が心臓』」


脳裏で甘い、甘い声が響いた。

ドクン、と心臓がまたひとつ音を立てる。

そして、気づいた。
この感情が、 “好き” だなんて綺麗で生ぬるいものではなく、

もっと重くて、激しい “愛してる” ということなのだと。
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