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「ゼリファン隊長」

つい口から漏れたその名に激震が走った。
零れそうなほどに瞳をかっぴらいた男たちの顔色は夜でもわかる程に色がない。

拳を受け止められた状態の一人に至ってはいまにも腰が抜けそうだ。南無。

天下に名高い英雄様のお名前は庶民でもさすがに聞き覚えがあるのだろう。
そして「そんなバカな」と一笑に伏せないぐらいにオーラと美形度がハンパない。

「ありがとうございます」

「いや、この程度お前ならなんともないだろう。それで?コイツらは?」

「女性に絡んでいるところを目撃したので……」

ゼリファンが手を放せば、殴り掛かってきた男は逃げるどころかその場にへたり込んだ。
そもそも逃げようにも細い通路はゼリファンが塞いでるし、あれを潜り抜けようと挑む猛者はいないだろう。

「どうする?突き出すか」

興味が無さそうな温度のない声を受け、視線を男たちへと滑らせる。
ビクリと引き攣る男たち。

「そこまでしなくても大丈夫ですよ。彼らが同じことを二度としないと約束してくださればですが」

脳がシェイクされそうな勢いで高速で首を振る男たちはそのまま解放することに決めた。

「口説くのはいいですが方法は選んでくださいね」

「はひぃ!」だの「すみませんでした!」だのの言葉を叫びながら走り去っていく男たち。
よっぽど怖かったのか、涙目+全力疾走だ。

「すみません。わざわざ探しに来て下さったんですか?」

「……口説くのはいいのか?」

全力疾走を見送り、ゼリファンへと振り向いた俺の背中はなぜか壁とこんにちは。

「ゼリファン……隊長?」

「口説くのはいいんだろう?」

薄い唇がおもしろそうに笑みを描く。
背と頭を壁にくっつけ、見上げる俺を覗き込むアイスブルーの瞳。

光が漏れる路を行き交う大勢の気配。
細い路地は仄暗く、視界の端でチラチラと揺れる灯りが嫌に目につく。

光と影を織りなす芸術品のような美しい顔。
その顔がやけに近い。

光と反対の方向には顔の横で壁へと預けられた腕。

これは所謂いわゆる “壁ドン” とかいうやつなのでは?

いや、ゼリファンがドンッ!したら壁が破壊されそうだし壁タン??

まてまて、論点はそこじゃない。
落ち着け、落ち着くんだ俺!!

大混乱に拍車をかけるようにおとがいに指が掛けられた。

“壁ドン” からの、まさかの “あごクイ” ーーーー?!

「ゼ、ゼリファン隊長?急にどうしたんです?お戯れがすぎるのでは……?」

「お戯れ、ね」

やめてー、親指で唇に触れないで。
ぷにぷにすんなし!!

マジでなんなの?!

まさかのスネークと同様の人種ですか?
人が慌てるのを愉しむ愉快犯なんですか?
お願いだからクールキャラを貫いてください!!

「興味があると言ったら?」

覗きこんでくる真っ直ぐな瞳とが合った。

「ラファエル・エバンス。お前に興味があるのは本当だ」

次の瞬間にはアイスブルーの瞳には先程までと同じおもしろがるような光を浮かべ、男らしい喉がクツリと動いた。

「誰かさんほど一途な愛情ではないがな」

「え?」

ぽかんと見上げる俺の顔に影が落ちる。

「番犬ならぬまるで番猫だな」

耳元に寄せられた唇が囁いたのはそんな言葉で。

直後に、グイっと勢いよく腕を引かれた。
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