65 / 127
65
しおりを挟む暗闇にずらりと並ぶランタンの灯りが非日常を創り出す。
仄かに揺れるオレンジ色の灯り、もしも天空から眺めればあたかも連なる星の川のように見えるのだろうか。
威勢のいい客引きの声、立ち並ぶ露店の数々、至る所に飾られる花やランタン、星屑のように数えきれない行き交う人々。
豊穣を祝う祭りは大賑わいだった。
「すっげぇ!」
通りを埋め尽くす人混みにカイルやアレンが驚きと感嘆の混じった声をあげた。
「ものすごい人混みですね」
「例年人出が増えます。盛況なのは喜ばしいんですが、スリや喧嘩の類も増えているみたいなんで気をつけてください」
周囲を見渡すマルクさんにレイヴァンが答える。
ぶっちゃけ、めっちゃ目立っていた。
揃いも揃って美形揃い、さらに一部は明らかに高位の出を隠しきれない一団はものすっごく注目を浴びていた。
護衛が大変そう……いや、ここまでくると逆にスリだの小物の類は寄ってこねぇか。
どう見ても手を出しちゃヤバい面々だ。
人混みをそぞろ歩き、燃え盛る篝火の前で捧げられる歌声に耳を傾ける。
砂糖をまぶした揚げ菓子の列に並んだリードさんらを待っている最中だった。
大勢で並んでも邪魔なので露店から少し離れた場所で突っ立っていた俺はふと空を見上げた。
宝石をバラまいたような一面の星空。
その美しさに圧倒されたちょうどその瞬間だった。
高い鐘の音が幾つも鳴った。
その音に人混みが一斉に動き出した。
篝火の設置された広場の方で鳴らされたその音はなにかの催しの合図だったようだ。
頭上に意識を奪われていたのが災いし、反応が遅れた。
気づいた時には濁流のように押し寄せる人混みに流され、もはや身動きができない状況で……。
見事にはぐれました。
混雑が収まった時には大分流されたあとだった。
最後に見たときに王子らはしっかりとマルクさんやゼリファンに囲まれていたし大丈夫だろう。
他にはぐれたとしたらリーゼロッテ様のために露店に並んでたリードさんやカイルたちぐらいか。
とりあえず元の位置へ戻ろうとし、足を止めた。
ある光景が目に入ってしまったからだ。
斜め先の右手にある細い路地で囲まれた一人の女性……と複数の男。
祭りの夜だし浮かれて女性に声をかけてみるのはいい。
ただのナンパなら許容範囲だが、人気のないところに連れ込み大勢で一人の女性を取り囲む、これは完璧アウトだろう。しかも完全に怯えてるし。
こっそりと息を吐き、魔法をいくつか準備する。
「なぁ、だからちょっと遊ぼうって……」
「失礼、その女性になにか用ですか?」
馴れ馴れしく肩に回そうとした腕を遮るように足音を立てて彼らに近づく。
「あ”?なんだよお前」
振り向いた男たちにニコリと微笑む。
敵意は見えないように。
一目で貴族とわかるような仕草と表情を心がけて。
思った通り、男たちの反応が僅かに怯んだ。
権力持ってる相手と争うのはリスクが高いし、なにより貴族=魔力が高いが一般常識なこの世界に於いて貴族は戦闘力が高いのだ。
「お嬢さん、彼らはお知り合いですか?」
問い掛けにはすぐさま首を横に振られた。だよね。
「行って」
軽く手を引き背を押せば、お礼の言葉を告げて駆けだす女性。
逆上した男たちがいつ手を出してきても平気なように障壁の準備は万端です。
さて、このまま俺もおさらばを……と思ったところで男が一人殴り掛かってきた。
「おい!」「やめろって!」他の面々は止めようとしているあたり状況判断がしっかりと出来てるようだ。
ひらりと交わし反撃をするか迷う間にもう一撃繰り出された拳が止まった。
難なく抑え込む掌に阻まれて。
143
お気に入りに追加
846
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
モブらしいので目立たないよう逃げ続けます
餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。
まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。
モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。
「アルウィン、君が好きだ」
「え、お断りします」
「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」
目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。
ざまぁ要素あるかも………しれませんね
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。
異世界に召喚され生活してるのだが、仕事のたびに元カレと会うのツラい
だいず
BL
平凡な生活を送っていた主人公、宇久田冬晴は、ある日異世界に召喚される。「転移者」となった冬晴の仕事は、魔女の予言を授かることだった。慣れない生活に戸惑う冬晴だったが、そんな冬晴を支える人物が現れる。グレンノルト・シルヴェスター、国の騎士団で団長を務める彼は、何も知らない冬晴に、世界のこと、国のこと、様々なことを教えてくれた。そんなグレンノルトに冬晴は次第に惹かれていき___
1度は愛し合った2人が過去のしがらみを断ち切り、再び結ばれるまでの話。
※設定上2人が仲良くなるまで時間がかかります…でもちゃんとハッピーエンドです!
悪役に好かれていますがどうやって逃げれますか!?
菟圃(うさぎはたけ)
BL
「ネヴィ、どうして私から逃げるのですか?」
冷ややかながらも、熱がこもった瞳で僕を見つめる物語最大の悪役。
それに詰められる子悪党令息の僕。
なんでこんなことになったの!?
ーーーーーーーーーーー
前世で読んでいた恋愛小説【貴女の手を取るのは?】に登場していた子悪党令息ネヴィレント・ツェーリアに転生した僕。
子悪党令息なのに断罪は家での軟禁程度から死刑まで幅広い罰を受けるキャラに転生してしまった。
平凡な人生を生きるために奮闘した結果、あり得ない展開になっていき…
囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される
ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?──
嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。
※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる