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しおりを挟む暗闇にずらりと並ぶランタンの灯りが非日常を創り出す。
仄かに揺れるオレンジ色の灯り、もしも天空から眺めればあたかも連なる星の川のように見えるのだろうか。
威勢のいい客引きの声、立ち並ぶ露店の数々、至る所に飾られる花やランタン、星屑のように数えきれない行き交う人々。
豊穣を祝う祭りは大賑わいだった。
「すっげぇ!」
通りを埋め尽くす人混みにカイルやアレンが驚きと感嘆の混じった声をあげた。
「ものすごい人混みですね」
「例年人出が増えます。盛況なのは喜ばしいんですが、スリや喧嘩の類も増えているみたいなんで気をつけてください」
周囲を見渡すマルクさんにレイヴァンが答える。
ぶっちゃけ、めっちゃ目立っていた。
揃いも揃って美形揃い、さらに一部は明らかに高位の出を隠しきれない一団はものすっごく注目を浴びていた。
護衛が大変そう……いや、ここまでくると逆にスリだの小物の類は寄ってこねぇか。
どう見ても手を出しちゃヤバい面々だ。
人混みをそぞろ歩き、燃え盛る篝火の前で捧げられる歌声に耳を傾ける。
砂糖をまぶした揚げ菓子の列に並んだリードさんらを待っている最中だった。
大勢で並んでも邪魔なので露店から少し離れた場所で突っ立っていた俺はふと空を見上げた。
宝石をバラまいたような一面の星空。
その美しさに圧倒されたちょうどその瞬間だった。
高い鐘の音が幾つも鳴った。
その音に人混みが一斉に動き出した。
篝火の設置された広場の方で鳴らされたその音はなにかの催しの合図だったようだ。
頭上に意識を奪われていたのが災いし、反応が遅れた。
気づいた時には濁流のように押し寄せる人混みに流され、もはや身動きができない状況で……。
見事にはぐれました。
混雑が収まった時には大分流されたあとだった。
最後に見たときに王子らはしっかりとマルクさんやゼリファンに囲まれていたし大丈夫だろう。
他にはぐれたとしたらリーゼロッテ様のために露店に並んでたリードさんやカイルたちぐらいか。
とりあえず元の位置へ戻ろうとし、足を止めた。
ある光景が目に入ってしまったからだ。
斜め先の右手にある細い路地で囲まれた一人の女性……と複数の男。
祭りの夜だし浮かれて女性に声をかけてみるのはいい。
ただのナンパなら許容範囲だが、人気のないところに連れ込み大勢で一人の女性を取り囲む、これは完璧アウトだろう。しかも完全に怯えてるし。
こっそりと息を吐き、魔法をいくつか準備する。
「なぁ、だからちょっと遊ぼうって……」
「失礼、その女性になにか用ですか?」
馴れ馴れしく肩に回そうとした腕を遮るように足音を立てて彼らに近づく。
「あ”?なんだよお前」
振り向いた男たちにニコリと微笑む。
敵意は見えないように。
一目で貴族とわかるような仕草と表情を心がけて。
思った通り、男たちの反応が僅かに怯んだ。
権力持ってる相手と争うのはリスクが高いし、なにより貴族=魔力が高いが一般常識なこの世界に於いて貴族は戦闘力が高いのだ。
「お嬢さん、彼らはお知り合いですか?」
問い掛けにはすぐさま首を横に振られた。だよね。
「行って」
軽く手を引き背を押せば、お礼の言葉を告げて駆けだす女性。
逆上した男たちがいつ手を出してきても平気なように障壁の準備は万端です。
さて、このまま俺もおさらばを……と思ったところで男が一人殴り掛かってきた。
「おい!」「やめろって!」他の面々は止めようとしているあたり状況判断がしっかりと出来てるようだ。
ひらりと交わし反撃をするか迷う間にもう一撃繰り出された拳が止まった。
難なく抑え込む掌に阻まれて。
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