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沈黙が落ちた場に、救世主が現れた。

「エルくん!朝ごはん準備出来たってっ!!」

元気いっぱいの声で部屋に入ってきたのはシエルだった。
リーゼロッテ様と彼女を護衛を務めているのだろうリードさんも一緒だ。

「おはようございます!」

部屋に入ってきたシエルはにこやかな笑顔で挨拶し、こてりと首を傾げた。

急に真面目な話をしてしまった気恥ずかしさだとかモロモロが一気に吹き飛んだ。

流石さすがはシエル。

能天気ともいえる空気清浄効果は兄さん譲りだ。
思わず頭を撫でれば服の裾をクイッと引かれた。
「ん?」と思いつつ視線の先を辿ってシエルの戸惑いの理由に気付いた。

アレンとゼリファン。
見知らぬ二人が増えていることでまた人見知りを発揮しているのだろう。

軽く紹介をするとシエルの瞳はアレンに固定された。

ときおりカイルとじっと見比べる姿に「二人は兄弟だよ」と説明すれば「いいなぁ、僕も恰好いい弟か可愛い妹が欲しい」と呟いた。最近の彼の口癖だ。

「あっ、そうだ」と声をあげたシエルがとてとてとアレンたちに数歩近づく。

「昨日は魔獣を倒しにいってくれたんですよね?ありがとうございます。おかげでみんなが怖い思いをしないですみました!」

無邪気に紡がれるお礼に、アレンの顔が一瞬泣き笑いのように歪んだ。

それを見てほら、と思う。
小賢しい言葉の羅列より、純粋な想いや言葉は真っ直ぐに相手に伝わる。

ぴょこんとお礼をし、すぐさまたたたっと再び俺にくっつくシエルの頭をもう一度ゆっくりと撫でた。
「?」と見上げてくるシエルには「なんでもない」と告げ、「食事の準備が出来たんだろう?」とダイニングルームへとみんなを招いた。

食事をしつつ楽しそうにシエルが色々と話しかける。
ただその相手はわりと偏っている。

俺を除いてはリーゼロッテ様とリードさんが圧倒的に多い。

まぁ、王子もレイヴァンもゼリファンも間違っても子どもがとっつきやすい相手じゃないしな。
シエルくん呼びで自分からも話しかけるカイルには少しだけ心を開いているようだが、やはり柔らかい雰囲気の二人が一番話しかけやすいのだろう。気持ちはわかる。

「僕はパパたちとお花を見に行きます。あと水族館も!」

予定を聞かれたシエルが嬉しそうにそう答えた。
パンにバターを塗りながら俺からも彼らに予定を尋ねるべく口を開く。

「申し訳ありませんが私は数時間留守にします。皆さまはどうなさいますか?橋が復旧するまでこちらでお寛ぎ頂いてもいいですし、それともお出かけになられますか?」

そう言って幾つかこの辺りの名産品を扱う店の名などをいくつかあげた。

「この天気ですし橋の復旧は問題ないでしょうが……もしも復旧が遅れて出発が遅くなるようならもう一泊して頂いても構いません。この子を送ったら私はまた戻ってきますし」

「やっぱエルくんは行かないの?」

ぷぅと頬を膨らませたシエルの頭を苦笑いしつつポンポンと撫でる。

「折角なんだし家族水入らずで楽しんでおいで」

まだちょっぴり不満そうながらも渋々頷くシエル。

そして好物のカリカリベーコンをもぐもぐと味わったあと、気持ちを切り替えたシエルの爆弾発言に慌てたのはこのすぐ後だった。
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