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脳がその言葉を理解するまで数秒を要した。
そうして奇妙な笑みが浮かんだ。

楽しくもないのに、可笑しくて仕方がない。
それは名付けるなら自嘲だとか哀れみだとか、そんな名前で……。

「もしラインハルト様に私がそう見えるのなら、あなたが私の心の内など知らないからです。周囲の目にあなたが一つの曇りもなく、悩みなど無縁かのように毅然として見えるのと同じ。誰だって他人の心の内など知るよしもないからにほかならない」

恐れ、葛藤、哀しみ、戸惑い、喜び、怒り……。

いつだってこの胸に渦巻く幾つもの感情。
内面のアレコレを取り繕ってフラットに生きようとしている自覚はある。

だけどいざ他人ヒトから見たそんな評価を聞くとどこか可笑しくて仕方なかった。

「無力さや無意味さなら感じてますよ。嫌という程」

なんせこちとら一般群衆こと “モブ” だしな。

前世の自分のことはそうはっきりと覚えているわけじゃない。
どうでもいい知識や風習なんかはわりと覚えているのに、自分自身のこととなると記憶があいまいな部分も多い。

だけどきっと社会人経験とかはあった気がする。何となくだけど。

あと俺がかつていた世界の影響も大きいんだと思う。
タップ一つで世界中の情報が手に入る情報社会。
現代人の一日の情報量は江戸時代の一年分だっていうしな。一生分ともなれば昔の人の人生の何生分ともなるのやら。

何が言いたいかっていうと、
要は無駄に小賢しくて頭でっかちだってことだ。

頭がキレるのとも天才とも違う、ひどく薄っぺらで頼りない知識ソレ

「無意味で無力だというのならなんだってそうです。この世に確かな意味のあるものなどない」

軽く目を見開く王子に「不敬をお許しいただけますか?」と問えば戸惑いながらも頷かれた。

「人が死ぬことだって同じです。誰かにとっては悲しくて辛い出来事だろうと、この世界全体から見ればなんの影響も与えない。そしてそれは王族だって、この国だって同じだ」

息を呑む音に、発言に王族や国に対して何がしかの意図があるわけではないことを断った。
事前に許しを得たとはいえめっちゃ不敬だし。

「もちろん国が亡べば他国への影響はあるでしょう。だけどそれも一時です。混乱はやがて収まるし、長い歴史の中で見ればやがて埋もれていく過去になる」

「おまえ……すげぇこと言うな」

「暴論なのはわかってるよ。だけどそうやって滅び、消えていった国が過去どれだけあると思うんだい?人が死のうと、国が滅びようと日はまた昇るし、世界は終わりなんてしない」

呆れたような、呆然としたカイルの言葉はムリもない。

一番不敬罪とか気にせず生きてそうなカイルに言われるなんて相当だな。自覚あるけど……。

思わずチラリと王子や近衛のマルクさんの様子を窺うも、驚いてはいるものの怒ってはいなくてホッとした。キレて剣に手を掛けられでもしたら平謝りで命乞いをするしかない。
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