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しおりを挟む割り切れない?とその言葉の意味を考えたところで「おはようございます」と声が響いた。
落ち着いたレイヴァンの声に振りむけば、レイヴァンと後ろにはカイルとアレンが立っていた。
なんか微妙に気まずいタイミングだなー、さっき俺もやったけど……なんてことを思いつつ「おはよう」と彼らに近づく。
カイルもやや俯き気味のアレンも顔色は良さそうだ。
ほっと内心息をつけば「あのっ」と小さくアレンが声をあげた。
「コレ、ありがとうございました」
「わざわざ持ってきてくれたのかい?ありがとう。朝食は食べられそう?」
夜食を用意した空になったトレーを受け取りつつ問いかければ、小さく「……はい」と頷かれた。
気まずそうな姿がおかしい。食欲がないと夕食を断ったのに夜食を完食し、お腹が減ってるからだろうか。
それと、昨日泣いてしまったことも気恥ずかしいのかもしれない。
「朝食はもう少しかかりそうなのでお待ちください」
使用人たちが準備に追われてる真っ最中だ。
リーゼロッテ様もまだ来てないし……女性は色々準備が大変だからな。
「何の話をしていたんですか?」
何の気なしに、という感じでソファに腰を降ろしたレイヴァンが聞いてきた。
何と答えたものかと一瞬迷う俺を他所に口を開いたのは王子だった。
「エバンスの話だ」
「ラファエルの?」
「俺なんかと違ってエバンスは落ち着いて大人だなと」
何故か王子の言葉に頷かれてるのは、絶対に俺の内面を知らないからだ。
「本当は俺もゼリファンたちと行きたかった」
ポツリと零された呟きに、「殿下」とマルクさんが気遣わし気に王子の肩に手を置いた。
「ときどき、俺自身の立場がひどくもどかしくなる」
「ラインハルト……」
押し殺した声に、アレンが困惑したようにその名を呼んだ。
昨日、近衛たちに止められたことを言っているのだろう。
正式にクラウ・ソラスや討伐隊に組み込まれた状態ならともかく、公務でもなければ、まだ学生でしかない王子殿下をわざわざ危険に曝すのは近衛として当然の判断だ。
それは王子自身もわかってはいるのだろう。
ただ、頭で理解するのと感情で納得するのはまた別だ。
「王族なんていったって俺自身に出来ることなんてなにもない」
「殿下、そのようなことは決してありません!」
「いいんだ、マルク。もちろん自分の立場は理解しているさ。この身に流れる血を誇ってもいる。だけど……色々と割り切れないことも多くてな」
くしゃりと髪を掻き上げる姿は、王族としてではなく年相応の少年に見えた。
「自分自身がときおり無意味で無力な存在だと、そう思い知らされることがある」
「それは……オレだってそうだよ。昨日実際、嫌ってぐらいそう思った」
「ラインハルト……アレン……」
レイヴァンやカイルが二人を慰めるも二人の頭は重く垂れて上がらない。
はぁ、一つ溜息を吐いて、王子がコーヒーを飲み干した。
「大丈夫だ。他所でこんな弱音は漏らしたりしないから安心しろ」
ややぎこちないながらも笑みを浮かべる姿はいつもの自信満々な王子の姿に近く、悩みや葛藤を押し込めて “王族” としてあろうとするその強さに小さく感嘆した。
だからこそ一瞬言葉を失った。
羨むような瞳で告げられた王子の言葉に。
「どうしてもこうしてグラつくことがある。だから羨ましかっただけだ。エバンスは冷静で揺らがないからな」
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