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52 (※)カイル
しおりを挟む悪態を吐きながら雨の中を駆けまわる。
夏だというのに季節外れの雨はザァザァと冷たく、まだ昼すぎにもかかわらず辺りは暗く陰鬱だ。
吹き付けた突風に傘をやられてからは傘もささずに走りまわっている。
「申し訳ありません」
眉を下げた気の毒そうな表情に見送られ扉を潜る。
レイヴァン様の別荘へと向かう途中、まさかの豪雨で足止めを喰らった。
本来なら出発は3日前。
だがリーゼロッテ様のお家の急用で出発が遅れ、王都を発ったのが昨日。
今日の午前中にはこの街を抜け、夕方までには目的地に到着する筈だったのだが……。
夜明け前から降り始めた大雨で橋が流されてしまったらしい。
先に進めないとなると今日はこの街に滞在するしかない。
そうなると問題は宿だ。
この雨の中、探し回っているものの、正規の客に加え同じく足止めを喰らった客らでどこも満室だ。
またしても首を横に振られ、憔悴しながら少し大きめの軒先へと駆け寄った途端に聞き慣れた声が耳に響いた。
空耳かとも思ったが、顔を上げた先に居たのは見知った友人で。
「何でここに?」
用事があるからと同行を断った友人に思わずそう声をあげた。
出会う筈のない場所で出会った友人……とやたら綺麗な美少年。
ピッタリとくっつく姿につい視線が向いていたのだろう。
「この子はシエル。私の甥っ子だよ」
「……シエルです。はじめまして」
ちょっとビクつきながらも挨拶をされ、慌てて俺も名乗り返す。
「それよりどうしてここに?」
問いかけに簡単なあらましを話す。
ラファエル自身は兄夫婦とこの地を訪れていたらしい。
兄夫婦が仕事で一泊しなければならない間、甥っ子の面倒をみるためにラファエルも同行しているそうだ。
お互いの事情を軽く話したあと、ラファエルが顎に手をやって小さく唸る。
「どうした?」と問えば、同行人数を聞かれた。
「俺とアレンと、レイヴァン様に殿下にリーゼロッテ様に、ゼリファン様、マルク様、リード様……」
「ゼリファン隊長?」
「ああ、殿下らの護衛。クラウ・ソラスからはゼリファン様、近衛騎士からはマルク様とリード様って騎士がご一緒だ」
王族の護衛としては少ないが、人数多いと移動も大変だしな。
マルク様は第二近衛部隊の隊長だし、少数精鋭だ。
あらかたの人数を告げた後での申し出は正に渡りに船だった。
ラファエルたちが滞在している祖父方の別荘に招待してくれるというのだ。
もちろん大感謝で飛びついた。
人をやったり準備もしなくてはならないということで一旦解散することにした。
俺もみんなと合流しなきゃだし、一時間後に落ちあう約束をした。
その後、慌ててゼリファン様たちを探したもののやはり宿は空いていなかったらしい。
殿下らと合流しラファエルに会ったことと有り難い申し出を告げる。
「……ってことで、天の助けラファエル様と合流予定です。あ、でなんですけど。元々客人の滞在見込んでないんで十分な持て成しが出来ないことを心配しててですね……」
それは事前に伝えて置いてくれと頼まれたことだ。
連れてる使用人の数も少なく、しかも従者などは兄夫婦らに同伴しているからと懸念していたが……。
「構わない。部屋を提供して貰えるだけで僥倖だ」
だよな。
王族らを迎えるにあたってラファエルの心配は一貴族として当然だが、殿下らは横暴じゃないし下手すりゃ馬車で一夜を明かすことを考えれば御の字だ。
あともう一個の心配ごとも告げなきゃとシエルくんの話題を出した。
最初に聞かされたときは吃驚したが、説明を受けてからマジマジ見れば確かに幼げな印象がした。
ってか、10歳も成長させる薬とかその発明家天才じゃね?
「あともうひとつラファエルが心配してて。シエルくんっていう親戚の子が一緒なんですけど、人見知りだし、あんま他人に慣れてないのもあってなんか粗相があっても大目に見てほしいってことで……」
そこまで言いかけた時、ドーンと大きな音が響いた。
間近で響いたその音に思わず立ち上がり外へ様子を見に行く。
店先に出れば突風で看板の柱が折れかけていた。
そのままでは危ないので一旦撤去する作業を店員とともに手伝ってラファエルと約束してた店内へと戻れば再び服はびしょ濡れだった。
そうして俺は……突然のアクシデントにシエルくんの実年齢のことを説明してないことになど全く気付いていなかった。
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