【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴

文字の大きさ
上 下
35 / 143

35 (※)ゼリファン

しおりを挟む
 3行でわかる前回のぐじへんは
 哀憐により自分の外観を奪われてしまったアイドル笹倉静葉であったが達樹、卓夫達の活躍により憎愚を撃破に成功。無事美麗な姿を取り戻したのであった。

 ――――――――――
「えぇっと……」

 目の前で行われた壮絶な死闘の前に呆気に取られる静葉。
 余りの非現実な模様に言葉を失ってしまう。

「大丈夫でござるよ静葉ちゃん。拙者もよくわかっておりません」

 二人の説明どうぞと言わんばかりの視線が達樹へ突き刺さる。

「あっ……えっと……そうだな。何から話しゃいいんだろ」

 あからさまに困惑する達樹の前に一瞬にして最愛恋が現れる。

「無事片付いたみたいだね」

「恋さん!恋さんもあいつ倒せたんだな!」

「あぁ。でもあんまり手応えがなかった。余力を残してた可能性があるから正直微妙かな……とまぁそんな事はさておき」

 達樹に変わって恋が仲介に入る。

「君達は口が硬いかな?」

 へ?っと二人してリアクションの後にこくりと頷く。

「この化物達のことに関しては一切他言無用。万が一にも漏れないようにルールとしてこの一件の記憶は書き換えないと行けないんだけど。
 正直俺はあんまり意味を感じてなくてね。君達が馬鹿みたいに言いふらすようにも見えないしこのままで良いと思ってる」

「い、いいのか!?」

「俺はある程度偉いから融通が効くの。達樹達がやったらめーっちゃ怒られるから真似しない方がいいよ」

(そもそも記憶の書き換え方とかわかんねぇよ……)
 とさも当たり前かのように言う恋に達樹は脳内でツッコミを入れる。

「笹倉静葉ちゃん。今回の件はこちらの対処が遅れてしまった事で、君の人生に多大なる負担をかけてしまった。本当に申し訳ない」

「そんな……謝らないでください。私の身体を元に戻す為に皆さん頑張ってくださったんですよね?皆さんがいなかったら今笹倉静葉としての私はここにはいないから。心から感謝してます」

 澄んだ瞳で微笑みかける静葉。その言葉の節々から静葉の優しさが伝わってくる。

「静葉ちゃん……やっぱりアイドルはやめてしまうのでござるか?」

「こんな事があったしね。事実無根ですなんて言っても信じてもらえないだろうし……」

 その言葉に続く内容は容易に想像がついた。また一人推しの姿が見れなくなってしまうと。卓夫は俯き切なげな顔で沈黙する。

「しっかり心と身体を休ませて……ほとぼりがさめたら戻って来たいな」

「ほ、本当でござるか!?」

「うん。大変な事もいっぱいあるだろうけど……やっぱり私はアイドルが好きだから」
 
 静葉のその言葉からは固く熱い信念が伝わって来た。
 いつか来る再びアイドルとしての笹倉静葉が見れる日を卓夫は待ち遠しく感じた。
 アイドルとして人として強くあろうとする静葉を見て卓夫は安堵し先ほどまで抱いていた不安が消え去る。
 夜も更け女の子一人で帰るのは危ないと恋がタクシーを呼び出す。
 静葉がタクシーに乗り込む直前こちらを振り向く。

「卓夫くん。最後に一つだけお願いしてもいい?」

「なっ!何でも言いなされ!!?パパが何でも買っちゃるけん!!?」

「なんで博多弁なんだよ」

「いつになるかわからないけど……私絶対アイドルとして戻ってくるから。だからその時はまた、私と歌って踊る姿、見に来てくれる?」

 愛する推しからのお願い事。たったひとつの願い。嘘偽りのない一人の笹倉静葉としての願い。卓夫の答えは決まっていた。

「もちのロンでござるっ!!」

「絶対だよ!良かったら達樹さん達もご一緒に!」

 そう言い残し優しく微笑みを残して静葉はタクシーと共に夜道を去っていった。

「強い子だね。彼女ならきっと再びアイドルとして返り咲く事ができるよ……きっと」

「……再び帰って来てくれたとしても、またさっきのような怪物が彼女を襲うかもしれない……違いますか?」

 先ほどまでの嬉々として溌剌とした態度とは一変し卓夫は事の深刻さを理解していた。
 その際に起こる最悪なケース。死に至る可能性までも想像に難しくなかった。

「……察しがいいね。さっきの化物達はアイドルに関した人間を襲う。アイドル自身、それに携わる人間全てが対象だ。君も一度襲われている」

 恋は一度憎愚により暴走させられた前田けいに卓夫自身が襲われた事実を教える。その際に達樹により助けられた事も知り感謝の意を示す。

「ではその憎愚は拙者の推しだけに留まらず、その関係者、家族すらも手にかけるど畜生であると。こうしてる間にも拙者の推しが命の危機に晒されていると言うわけでございますか?」

「あぁ。憎愚の活性化は止まる勢いを知らない。俺達も全力を尽くしてはいるが……手が届かない命もある」

 奏者の数と憎愚の数は拮抗していない。
 日々アイドルが産み出されるペースが右肩上がりの現状。数多に産み出される憎愚に奏者の数が追いついていない。
 その事実を理解した上で卓夫は決意する。

「拙者も!!拙者も戦いたいでござる!!拙者見ての通り運動も全然で!身体もブヨブヨでござるが!それでも拙者の推し達が理不尽に傷ついている事実を見て見ぬフリなど、断じて出来ませぬ!!」

 (卓夫……)

 この事実を聞いた上で激怒する事は想像出来た。だが自分も命を賭して戦うとまで言い出すとは思っていなかった。
 卓夫が誰かに暴力を振るっている姿を見た事がない。あってもじゃれ合いくらいのものだった。
 臆病で決して争い事は嫌うようなタイプだと思っていた友人がここまで決意を胸に異形に立ち向かおうとしている。
 その事実に達樹は胸を打たれたが一つだけどうにもならないだろう問題点が頭をよぎった。

「卓夫の気持ちは凄くわかる。でも俺達みたいに戦うにはアイドル因子ってやつが必要でそれが無いと憎愚とは戦えねぇんだ」

「で、では拙者にもそのアイドル因子を!!」

「アイドル因子は人為的に付与できるものじゃ無い。持つ者か持たざる者か。
 ふとした時に何の前触れもなくアイドル因子は覚醒する。
 君の中にも仮にアイドル因子があったとしても今は観測出来ない以上、今の君にアイドル因子を宿した戦いは出来ない」

 卓夫は沈黙する。立ち向かい戦いたい意思。アイドルを強く愛する卓夫にとっては達樹達以上にアイドルを護りたいという気持ちは強いだろう。
 非力な自身に怒りを覚えるが恋から一つ提案が入る。

「顔を上げて。別にアイドル因子が無いと憎愚と戦えないなんて言ってないでしょ」

「そ、それはどう言う意味ですか?」

「どう言う意味だよ!?」と達樹も驚きを隠す事ができず恋に食いつく。

「君みたいにアイドル因子が無くても憎愚を倒したい。憎愚から人々を護りたいって思考の人間は勿論いる。
 そんな人達の為にアイドル因子の研究を重ねて作られた武装を使用して憎愚と戦うファイターチームがある。名を『抗者ネトゥ・ニヒト』」

「今の君からしたら何度も心が折れそうになる程の心身共に辛いトレーニングや訓練を受ける事になるだろう。俺達がやってる事は文字通り命がかかってくるからね。
 その上でも君は茨の道を歩きたいと、憎愚と戦いたいと思うかい?」

 卓夫は決して運動が得意では無い。体力もあるわけでも無く力が特別あるわけでも無い。
 ランキングをしてもすぐ息切れをしダイエットに勤しんでも3日持たずすぐ投げ出してしまう程だった。
 地獄のようなトレーニングを熟せる自分は想像出来ない。だがそれ以上に卓夫を突き動かす物が確かに存在した。

「やり遂げて見せます……絶対に!男に二言はありませぬ。心が折れそうになったその時は推しの動画を見て自身を鼓舞します。誰に何と言われても拙者は強くなる事から逃げませぬ!推しが悲しむ姿は……絶対に見たく無いから!!」

「……決まりだね。思い立ったが吉日!明日の放課後達樹と一緒にDelightまで来てくれ。入社手続きって奴を済ませないとだからね」

「お、押忍!!」

 こうして卓夫も憎愚と戦うべくDelightに所属する事になった。アイドル因子を持たずして憎愚と戦うファイターチーム『抗者ネトゥ・ニヒト』とは何なのか。
 大丈夫かと心配な気持ちも湧く達樹であったが、友人の意外な男としての強さを垣間見れた事に喜びを感じながらその日の夜は眠りについた。
 
――――to be continued――――
 
 


 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます

餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。 まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。 モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。 「アルウィン、君が好きだ」 「え、お断りします」 「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」 目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。 ざまぁ要素あるかも………しれませんね

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

処理中です...