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22 (※)ゼリファン
しおりを挟むこの状況での怪我人。
しかも傷は映像越しでもそう浅いものではない。
喰いつかれた状態でスコルが肉を嚙みちぎる前に即死させた状況判断は見事というよりなく、そのお陰で腕が千切れることはなかったが溢れる血が半身を染めていた。
状況はさらに落ち込んでいた。
そのはず、だった。
だが、先程までとはまるで別人のような動きで魔獣を屠っていく彼ら。
いいや、違う。
個々の戦闘スタイルは今までと変わったわけじゃない。
だが明らかに動きの無駄がなくなり、連携した彼らの戦闘力は目を見張る程に格段に上がっていた。
傷を負った黒髪の青年の指揮によって。
スクリーンからの映像は音声がないのではっきりとはわからない。
だが青年の指示がこれ以上ないほどに的確だということは彼らの闘いぶりからわかった。
そして、彼らが持ち直したことに安堵しかけた折に現れた……。
「マーナガルムだとっ……」
一体、どうなっている?!
最悪からさらに最悪へと落ち込んでいく状況に思わず毒づく。
目の前に現れた魔獣の群れを斬り捨てる時間さえ惜しく、魔力を纏わせた剣で薙ぎ払う。
ようやく辿り着いた彼らの元。
襲いかかるマーナガルムを前に青年は躊躇いなく叫んだ。
「前方十一時と二時!!スコルを仕留めろ!!」
そして自身も見慣れぬ魔法で迷いなく夜啼き鳥を狙った。
目の前の脅威へではなく放たれたそれは俺の邪魔になる魔獣共を屠るためのもの。
現に後で殿下たちに聞いたところによると、自分たちの手に負えないマーナガルムは俺に任せ、俺が奴に集中できる環境作りと凌ぐことだけ考えろと指示されていたという。
なんという的確な状況判断。
俺の中で青年への興味が沸いた。
残党を倒し、怪我をしている黒髪の青年、ラファエル・エバンスに肩を貸しつつ広場へと戻る。
どうやら死者はいないようだ。
それから、魔法陣の人数制限の関係で重傷者だけ先に転移魔術で学園へと移動されることになった。
転移の直前、青年・エバンスは殿下らに深い礼をした。
まるで手本のように非の打ちどころのない礼だった。
「申し訳ありません」
垂れた黒髪が僅かに揺れる。
「大変なご無礼を致しました。出過ぎた真似、並びに相応しくない言動を心より謝罪致します。許可なくお名前をお呼びしたことも」
その言葉に目を見開いて驚いた。
「何卒、緊急事態だったということでご容赦頂ければ幸いです」
申し訳なさそうに詫びるエバンスに殿下らが慌てて否定を返す。
むしろその場の者達が互いに謝罪をはじめ、謝罪合戦のようなよくわからない状況になった。
てっきり、旧知の仲だと思っていた。
それぐらいエバンスの攻撃指示は的確だった。
なのに実際は……同学年のカイルはともかく、他の面々は彼の前で闘ったのは今日がはじめてだという。
それなのにあの状況かであれほど冷静にあれだけの指揮を?
ラファエル・エバンス。
見覚えのなかった青年の名は、俺の中で深く刻み込まれた。
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