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しおりを挟む数はだいぶ減らしたとはいえ、眼前には魔王のごとく君臨するマーナガルム。
どうするんだ?という意味を込めて向けられた視線に、マーナガルムから視線を逃さないまま「大丈夫だ」と答えた。
別に気休めのたぐいではない。
勝算は確かにあった。
「もう少しだけ持ち堪えろ。それとアイツの周りの雑魚どもを少しでも減らすんだ。もう少しでゼリファン隊長が来てくれる」
俺の口からでた英雄の名にみんなが瞳を見開いた。
「ルシウスの映像からこっちの現状は伝わっている。戦闘がはじまってもうすぐ十分。そろそろ応援がかけつける筈。それにさっきあっち側で赤い閃光が見えた。あれはゼリファン隊長の魔力によるものだ」
ルシウスっていうのはあのシュールファンシーな一つ目ちゃんの名前。
視界を黄緑色の物体が過ったのは戦闘直前だからその時点では巡回を行ってるクラウ・ソラスも教師陣もマーナガルムの出現は予想もしていないだろう。
だが現れたスコルの群れはそれなりな数だった。
それこそただの学生たちにとっては命取りになりかねない相手だ。
ましてはここには王子や公爵令嬢たちが居るんだ。きっとあの時点で動き出していることだろう。
「マーナガルムは私たちの手に負えない。だからこの場を凌ぐだけでいい。奴の攻撃を凌ぎながら、ゼリファン隊長たちがマーナガルムに集中できるよう環境を整える。それが私たちの最善だ」
「わかった。お前ら、もうちょい頑張れ!」
年長者らしくカイルが発破をかける。
みんな疲労もそろそろピークに達しているだろうが、頷き表情を引き締めた。
のらりくらりと攻撃を躱し続ける俺たちに、苛立ったようにマーナガルムが大口を開けて咆哮と炎を撒き散らす。
幻影の炎とはいえ喰らえば普通にダメージを受けるそれを防ぎながら体制を整える。
飛行するホーンモモンガにハイキックの一撃を喰らわせたリーゼロッテ様の体が揺れた。
疲労が極限に達して踏ん張りが効かなかったんだろう。
ぐらりと揺れた体が膝をつく。
「ロッティ!!」叫んだ王子が駆け寄る上空に別のホーンモモンガが飛びかかる。
振り向いた俺は圧縮した空気の弾丸でそいつを打ち抜いた。
そして意識が逸れた俺へと急降下して襲い掛かるマーナガルム。
マーナガルムへと攻撃を放とうとするレイヴァンに俺は叫んだ。
「前方十一時と二時!!スコルを仕留めろ!!」
そして俺自身も空気の弾丸を放つ。
真っ赤な口腔を覗かせて襲い掛かるマーナガルム。
その後方に浮かんだ夜啼き鳥たちを狙って。
人の掌ぐらいありそうな長い牙が俺へと届くその寸前、
仄かに赤い閃光が走った。
耳を覆いたくなるような断末魔。
誰かの腕が俺の胴を掴み、降りしきる血の雨から逃すように降り立った先は数歩先の地面。
血の滴る剣を払い、アイスブルーの瞳が至近距離から俺を見下ろす。
「大丈夫か?」
薄い唇から、色気のあるバリトンボイスが漏れた。
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