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牙を剥き出しにしたスコルが王子の足に噛みつく。
リーゼロッテ様が扇子を振って生み出した風の刃と、王子自身の魔法による炎によってそのスコルは絶命した。

素早い対処もあって噛みつかれた傷も深手ではなさそうだが、血の匂いに反応してか、それとも弱ったところから狙おうというのかさらに数匹の魔獣達が二人へ向かう。

「ラインハルトッ!!」

足を怪我した王子を守ろうとリーゼロッテ様がドレスをひるがえしそのおみ足でスコルをふっ飛ばし、扇子を振るう方向へと、友の名を叫んで駆け寄るレイヴァンとアレン。

ピィィィと甲高くも美しい声が響いた。
そして焦燥をあらわにした二人の前できらりと青が煌めいた。

スコルの群れを倒そうと手にした剣を、魔法を放つ腕をかかげる二人。

「え……?」

「おい……?」

呆然としたリーゼロッテ様と王子の声。

二人の声が漏れるより早く、違和感を感じ取ってすぐ視線を向けたのは上空だった。

「カイルッ!!アレンを抑えろっっ!!早くっ!!」

一番アレンと距離の近かったカイルへと叫び、自分はレイヴァンへと拘束魔法を放った。
光の輪のような拘束魔法がレイヴァンの腕ごとその身を絡み取る。

「えっ?はっ?あっ、ああ!!」

混乱しながらも飛びかかるようにカイルがアレンを羽交はがめにした。
アレンは暴れるが兄の方が力が強く拘束を振りほどくことはできないようだ。

両手を指揮者のように振って複数の魔法を放った。

鮮やかな羽がひらひらと舞い散る。
そして数枚の羽を舞い散らせる夜啼き鳥の影にいた小鳥がピャッと甲高い声を上げて真っ二つに地に落ちた。

カイルとアレンへと向けて放った魔法が彼らの顔面近くでパァンンッ!と爆ぜた。

破裂音にビクリと体を震わせ、やがてその目が真ん丸に開かれる。
「え?」と困惑を顔中に張り付けて互いを見合った。

レイヴァンはアレンの居る方向を。

アレンはレイヴァンの居る方向を。

そして互いの間に位置する王子とリーゼロッテ様を。

自分たちが攻撃を放とうとしていたその対象を呆然と見やった。

「夢幻鳥です」

それは俺がほふった小鳥の名前。

「夜啼き鳥と共存関係であることが多く、夜啼き鳥の派手さと巨体に隠れて幻覚を見せる。宝石のような青い目で見たものに幻覚を与え、同士討ちを誘う。心が乱れているとそれだけ暗示にかかりやすくなります、気をつけて」

「……幻覚」

一羽だけであってほしいが、まだいないとも限らない。
俺は呆然としてるみんなに注意を告げた。

真っ二つになった夢幻鳥の青い瞳が空虚に空を眺める。
まるで宝石をあしらい作られた細工物のような小鳥は結構な値段がつくが、傷つけないように手加減してる余裕もなかったししゃーない。

そんでもって、呆然としてる余裕もない。
まだまだ魔獣は殺意も剥き出しにこちらを狙っているんだから。

「来ますよ。構えて」

拘束魔法をといて短く告げた。

さぁ、死にたくなければ抗え_____。


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