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8 (※)レイヴァン

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流麗な動作で礼をして、去り行く背中を呆然と眺めた。
美しい姿勢は前を向いたままで、こちらへの未練などその背にも歩みにも微塵みじんも窺えない。

「あーあ、またフラれたし」

軽く溜息をついたカイルの声が聞こえた。

「まぁ、仕方ねぇか。確かにかなり混み会ってるし早く並んだ方がいいっすね。リーゼロッテ様あそこの席取っといてもらえますか?ラインハルト様もご一緒に。飯なににします?俺とアレンが注文しときますんで」

「悪ぃですけど、レイヴァン様はご自分でお願いしていいですか?」という問いにはもちろんと頷いた。

肝心の食べる時間がなくなりそうな行列に、メニューを悩む時間もなさそうだと結局全員が “今日のおすすめ” にした。
メニューがあらかじめ決まっていて生徒たちが注文に悩む時間がない分、一番列の進みが早かったからだ。

教えられたテーブルは確かに穴場だった。
丁度いい具合に観葉植物などが目隠しになって煩わしい周囲の視線が和らいでいた。

パスタと肉料理がメインのおすすめを食べながら、自然に脳裏に浮かぶのは先程あったばかりの人物。

穏やかな物腰の品のいい上級生だった。
非の打ちどころのない所作に、さり気無い気遣いと独特の雰囲気。

覚悟はしていたが、学生生活の初日は思った以上に疲れるものだった。

無遠慮に向けらる視線に、どうにか近づこうと声をかけてくる者達。
立場やメンバーを考えれば仕方のないことだというのはわかる。
だけど辟易へきえきしていたのも確かで……。

食事を共に、と誘われた時そんな感情が滲みでてしまったのかも知れない。
だけど当の本人は嫌な顔をするでもなく、申し出をあっさりと辞退した。

正直、驚いた。

決して礼を失うことのない丁寧な対応はこちらのことを知っているからだろう。
それなのに驚くほどに取り入ろうという野心も、興味や下心、敵愾心てきがいしんや拒絶すら見えなかった。

「さっきの、あの先輩が兄貴がいってた?」

同じくあの人物が気になったのかアレンがカイルへ話しかけた。

「そーそー。仲良くなろうと目下努力中のお相手。成績優秀・品行方正・強さもそこそこ。目立つ奴じゃないけど密かな有名人」

「カイルの友人にしては随分と行儀が良さそうな男だな」

「ラインハルト様……」

直球なラインハルトの言葉にリーゼロッテ様がたしなめるように眉を下げる。

「まぁ最初は俺もあんま自分からお近づきになるタイプじゃないかなっと思ったんですけど……宿題やテスト前もむちゃくちゃ世話になっててラファエル様様っすよ」

カイルらしい言葉にテーブルに笑いが漏れた。
クルクルっとパスタをフォークに巻いて豪快に口に放り込んだカイルは「でも……」と空になったフォークを振りつつ、口の中のものを飲み込んだ後で唇を尖らせる。

「そーいうの置いといてもダチになりたい相手なんすけどね。わりとツレないんすよ。邪険にはされないけどさっきみたいな対応っつうか」
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