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その後
いまはもはやただの趣味 6
しおりを挟む「まさかいきなり女装に走るとは思ってもみませんでした……」
当時のことを思い出し、しみじみ周瑜は呟いた。
若干、遠い目だ。
「俺としてはお前から聞いたあいつの話にも驚いたがな」
ある日、いきなり弟が女装をはじめた。
なにやら事情を知っていそうな周瑜を問い詰め、黒曜は驚きとともに頭を抱えた。
女装だけでなく、陵王は破天荒に振る舞いはじめた。
元々天才型特有の自由人な気質があったが、それでも成人前の陵王はそれなりに常識があった。
だけどあの一件以来、陵王はそれを捨てた。
黒曜こそが皇帝に相応しいと暗に見せつけるそのために。
「まぁ、あの方のあれはもはや趣味ですし、破天荒さも本質ではあるので陛下がお気に病む必要はないかと」
慰めるように口にした周瑜だが、その言葉は本心だった。
切っ掛けは自分を推す面倒な輩を黙らせる目的があったが、陵王の破天荒さは演技ではなくただの本質。
そして皇位継承も無事に済み、地盤を築いた黒曜が確固たる足場を築いたいまとなっても女装を続けたままなのは、周瑜の言う通りもはやただの趣味だからに他ならない。
陵王は全力で美を愛している。
そのことは衣装やメイクへの並々ならぬこだわりからも容易に察せる。
胡蝶に至ってはその真骨頂といってもいい。
普段の陵王の女装は彼が陵王だとわかるものだ。
元々の目的が自分の評価を下げるためでもあったので、彼が彼だとわからなければ意味がなかった。
なので知らない人間が見れば絶世の美女で本気で恋に堕ちてしまう事態も多々あるが、知る者が見ればその正体は一目でわかる。……それでも惑ってしまう者もいる美しさだが。
…………が。
後宮へと入り込むために作り込んだ胡蝶は違う。
「見て見てー。これスゴくね?感触や揺れ感までマジ本物!」
女官たちが徹夜で作り上げた偽パイを触らされたのはもう数カ月前。
手を掴まれ、胸を触らされた挙句感想を求められた黒曜と周瑜が無言しか返せなかったのは言うまでもない。
誰かに見られたら壮絶な誤解を生む光景だった。
陵王と、そして女官たちのこだわりに二人は引いた。
ドン引いた。
「全然似てない癖に、あの美への拘りは間違えなく母上譲りだな」
「ええ、性格は全然似てませんのにね」
鬼籍に入った故人を思い浮かべ小さく息を吐いたところで扉が鳴った。
「大家、宜しいでしょうか」
扉の向こうから聞こえた黒曜付きの宦官の声は聞こえた。
大家とはだんなさま、つまりは皇帝である黒曜を指す。
黒曜が宦官に応えている途中で扉が開いた。入室許可の途中で明るい声をあげながらずかずかと入ってきたのは噂をしていたその人だった。
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