11 / 16
その後
いまはもはやただの趣味 2
しおりを挟む「高官たちが噂の美姫を一目見ようと浮き足だっています」
頭が痛そうに周瑜が言った。
普段は外界と縁のない後宮の花たちだが、公式な行事があればまた別だ。
催しにかこつけて噂の寵妃、蝴蝶を目にしようという輩は多い。
現に黒曜も散々お披露目の機会を問われたものだ。
「直に会わすのは不味いしな……」
「ええ、不味いですね」
どうしよう、と顔を見合わす。
何が不味いって高官たちに会わせれば蝴蝶の正体が露見する可能性が高い。
なぜなら彼らは陵王の女装を見慣れている。妃嬪たちが蝴蝶の性別に気付かないのは陵王のたぐいまれな美貌のせいもあるが、男が女装しているという発想がそもそもないのが大きい。
本来なら広く知られていても可笑しくない陵王の女装癖をなぜ妃嬪たちが知らないかといえば、ひとえに彼の立場故に。
例えただの事実だろうと「皇帝の実弟は女装癖がある」などと発言すれば不敬罪にあたるからだ。
それ故の情報の少なさがある意味で陵王を守っているが……その点、仕事で顔を合わせることもある高官たちはそうもいかない。
なにせその目で見て知っているのだから。
「知っていてもバレなさそうな気もしないでもないんだかな」
それはそれでどうなんだ?と思わずにいられないが……。
「ああ、完成度……高いですしね」
パッと見、普段のの陵王の女装姿と蝴蝶はまるで別人だ。
きらびやかで派手系の美女がいつもの姿だとしたら、蝴蝶は清楚で儚げな印象の美女。
どちらも絶世のだの、傾国のだの枕詞がつくほどの美女なのにはかわりがないが。
「最近、よく聞かれるんですよ。陵王様と蝴蝶様、どちらがより美しいか?と」
どっちもこうも同一人物。
そしてまず、比較対象が可笑しい。
いくら美人とはいえ、そこは普通美女の名をあげるものではないか。
茶を飲み干し、黒曜は小さく溜息を吐いた。
「あの子がああなったのは朕の所為でもあるからな」
遠い昔を思い起こすように瞼を閉じれば脳裏に甦る幼い声。
とたとたと覚束ない足取りで必死に駆けてくる幼子。
まだ年端もいかないのに、既に完成した美貌を約束されたような幼子の背後では女官たちが転びやしないかとハラハラしつつその後を追っていた。
「あーうえっ!」
満面の笑みで幼い陵王は黒曜に抱きつく。
今にして思えば、陵王は寂しかったのかも知れない。
沢山の者たちに囲まれながらも、同年代の友はおらず、家族の縁も希薄だった。
皇帝としての父は忙しく、後継ぎの皇太子という存在に興味は示せど、子供自体にはなんの興味もなかった。
そして母は……二人の子を成そうとどこまでも“女”だった。
流石は百花繚乱の後宮の花の中で皇帝の寵愛を得ただけある雪の花のような美しい女性だった。
だからこそ、なのかも知れない。
子を産み、年を重ね、自らの美貌が衰えていくなか……彼女には陵王の美しさが受け入れられなかったのだろう。直接的な虐待こそなかったものの、母は頑として陵王を見ようとはしなかった。
幼い陵王は孤独だった。
陵王にとって黒曜はたった一人の家族だったのかも知れない。
そしてそれは黒曜にとっても。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
今日も聖女は拳をふるう
こう7
ファンタジー
この世界オーロラルでは、12歳になると各国の各町にある教会で洗礼式が行われる。
その際、神様から聖女の称号を承ると、どんな傷も病気もあっという間に直す回復魔法を習得出来る。
そんな称号を手に入れたのは、小さな小さな村に住んでいる1人の女の子だった。
女の子はふと思う、「どんだけ怪我しても治るなら、いくらでも強い敵に突貫出来る!」。
これは、男勝りの脳筋少女アリスの物語。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
たまごっ!!
きゃる
キャラ文芸
都内だし、駅にも近いのに家賃月額5万円。
リノベーション済みの木造の綺麗なアパート「星玲荘(せいれいそう)」。
だけどここは、ある理由から特別な人達が集まる場所のようで……!?
主人公、美羽(みう)と個性的な住人達との笑いあり涙あり、時々ラブあり? なほのぼのした物語。
大下 美羽……地方出身のヒロイン。顔は可愛いが性格は豪胆。
星 真希……オネェ。綺麗な顔立ちで柔和な物腰。
星 慎一……真希の弟。眼光鋭く背が高い。
鈴木 立夏……天才子役。
及川 龍……スーツアクター。
他、多数。
千里香の護身符〜わたしの夫は土地神様〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
キャラ文芸
ある日、多田羅町から土地神が消えた。
天候不良、自然災害の度重なる発生により作物に影響が出始めた。人口の流出も止まらない。
日照不足は死活問題である。
賢木朱実《さかきあけみ》は神社を営む賢木柊二《さかきしゅうじ》の一人娘だ。幼い頃に母を病死で亡くした。母の遺志を継ぐように、町のためにと巫女として神社で働きながらこの土地の繁栄を願ってきた。
ときどき隣町の神社に舞を奉納するほど、朱実の舞は評判が良かった。
ある日、隣町の神事で舞を奉納したその帰り道。日暮れも迫ったその時刻に、ストーカーに襲われた。
命の危険を感じた朱実は思わず神様に助けを求める。
まさか本当に神様が現れて、その危機から救ってくれるなんて。そしてそのまま神様の住処でおもてなしを受けるなんて思いもしなかった。
長らく不在にしていた土地神が、多田羅町にやってきた。それが朱実を助けた泰然《たいぜん》と名乗る神であり、朱実に求婚をした超本人。
父と母のとの間に起きた事件。
神がいなくなった理由。
「誰か本当のことを教えて!」
神社の存続と五穀豊穣を願う物語。
☆表紙は、なかむ楽様に依頼して描いていただきました。
※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。
後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜
菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。
私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ)
白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。
妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。
利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。
雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる