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その後
いまはもはやただの趣味 1
しおりを挟む墨が乾くのを待って、書類の束を整えた。
机の上にはやってもやっても終わらない仕事の山。
正直、見ているだけでいやになる。
だが手をつけなければ際限なく増えていくだけ。
眉間を指で揉み、黒曜は再び筆を手にとった。
持ち込まれる案件を片付け続け、響いた鳥の声にふと顔をあげればいつの間にか窓の外はすっかり茜色に染まっていた。
「もうこんな時間なのですね」
同じく書類と睨みあっていた周瑜もいま気付いたらしい。
筆を置き、肩をぐるぐると回す。
ひどく凝った首筋を擦りながら書類の山へと目をやれば、小山が二つ。
どうにか目処がつきそうだ。
人を呼べば、顔を出した宦官に茶を所望する。
すぐさま運ばれてきた香り高いそれを味わいつつ、深い呼吸を一つ。
一時期に比べれば随分とマシになったとはいうものの、やはり疲労は溜まっているようだ。
ちなみに、その一時期とは後宮争いが熾烈を極め、黒曜が媚薬を盛られたり、後宮の花が刺客に狙われたり、その調査や処罰の事後処理などに追われていた時だ。
「陵王様は劇薬のような方ですね」
またも同じことを考えていたようでぽつりと周瑜が呟いた。
劇薬、言い得て妙だ。
黒曜の弟である陵王は良くも悪くも周囲を掻き回す。
たぐいまれな美貌に生まれもった才覚と人を惹き付ける気質。
後先を考えないやらかしも多いが、それでも彼の周りには常に多くの人が集うのはある種のカリスマといえるだろう。
茶器を手で弄びながら浮かんだ茶柱を眺め黒曜は口を開いた。
「一昨々日、後宮に訪れたら妃嬪たちと茶をしていたんだが…………」
後宮の花たちが囀ずるその光景は麗しいが、場所を考えれば何故だ……と疑問を覚えずにはいられない。
「あれが一番目を惹いた」
どこか遠い目で一昨々日の光景を思い出す黒曜。
あれとはもちろん、彼の弟の陵王のことだ。
国中からかき集められた美女たちの中に居て、その中でも抜きん出て人目を惹き付けてやまない佳人が女装して潜り込んでいる弟だという事実に何ともいえない。
妃嬪たちに全く疑われないのもわかるぐらいの美女だった。違和感が仕事をしてない。
「あの方の美しさは群を抜いてますからね……」
そう相槌を打つ周瑜も微妙な表情だ。
好みだとか、女性としての魅力云々を別にして「誰が一番美しいか?」と問われれば大多数が陵王を指すだろう。
なお、黒曜としては弟と陵王を可愛く思うものの、妻となる女性には劇薬ではなく安らぎを求めたい。切実に。
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