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その後
やり過ぎには要注意 6
しおりを挟む深く頭を下げた海鈴は千姫たちに気付かれぬよう、一度陵王へ鋭い視線を投げ掛けた。
その視線に込められた意味「黙っていて下さいね」を正確に読み取った陵王は小さくコクリと頷く。
「主様の御身をご心配頂き、感謝の言葉もございません。ですが千姫様は勘違いをしておられます」
「私が勘違いを……?」
「さようでございます。胡蝶様が病弱であられるのは事実です。ですがそれは往来の身体の弱さであり、病とはまた別でございます。そして……女官が見たという血は胡蝶様のものではございません」
「何ですって?」
目を見開き声を上げる千姫。
陵王も驚きそうになったが慌てて表情に出さぬよう堪える。
確かに血は陵王のものではない。
恐らくは哀れな鶏のものだ。
だがそれを説明するのは元も子もない。
けれど梅鈴が語ったのは全く別のでっち上げだった。
「確かに胡蝶様は血を吐かれました。ですがそれは咳をしすぎて喉を傷めてしまわれたからです。その所為で血が混じってしまわれたのです」
「でも、それならあの大量の血は?」
「それはきっと胡蝶様付きの女官の血です」
「……えっ?」
「体調を崩されたおり、胡蝶様は激しく咳き込み倒れてしまいました。その際、茶器が巻き込まれてしまったのです。破片で御身が傷を負われでもしたら一大事と、とっさに女官は素手で破片を薙ぎ払って崩れ落ちた胡蝶様をお守りしたのです。その際に腕に怪我を……」
ちらり、と梅鈴の視線が背後の女官へと向いた。
頷く女官。
この間、僅か1秒。
きっと彼女から後ほど連絡がまわり、宮で仕事中の女官の一人が怪我人に仕立て上げられるのだろう。
「幸い胡蝶様の体調もその後に落ち着きを取り戻しました。元々、季節の変わり目はご体調を崩しやすいのです。ですのであれは病による吐血などではございません」
千姫たちはと言えば、「まぁ、そうだったの」と驚きつつも納得していた。
陵王と女官二人は心の中で梅鈴に拍手喝采だ。
「ではお姉さま、本当にお具合は平気ですのね?」
「え、ええ。もちろんですわ。今日もほら、花見を楽しみにしておりましたのよ?」
おほほ、と淑やかに笑いつつほっと胸を撫で下ろす。
後日、千姫と、彼女を問い質して話を聞きつけた妃嬪たちから大量の贈り物が届いた。
喉にいい蜂蜜や花梨、滋養のある食べ物などが陵王の元へ。
そして「胡蝶お姉さまを身をもって守った」とされる女官の元へはその行動を称え褒美の品が山ほど贈られた。
怪我などしていないのに腕に包帯をぐるぐる巻きつける羽目になった女官のそれがとれるまでには、数週間の時間を要したらしい。
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