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その後
やり過ぎには要注意 5
しおりを挟む「名医をつれて参ります」
「……え?」
両拳を握り、きりりと表情を引き締めた千姫に思わず呆ける。
「薬もどれだけでも取り寄せます。この国のものが効かぬなら、外国からとて取り寄せますわ。我が家の財力をもって、必ずやお姉さまをお救いしてみせます!!」
そういう千姫の実家は莫大な財を成す豪商である。
陵王は慌てた。
慌てに慌てた。
だって医者なんか呼ばれた日には仮病がバレるだけでなく、性別がバレる。
「ま、待って。その必要はないわっ。血を吐いたといってもあの時だけでっ、それにほんのちょこっとだけだもの」
親指と人差し指で“ちょこっと”と示して大丈夫アピールするも「そんなわけないじゃないですかっ!!」と千姫が叫んだ。
大声にこちらを伺っている妃嬪たちが一斉にこちらに来そうだったので今度はそちらに両掌を向けて大丈夫アピールをし、千姫には唇に指を立てしーと忙しい。
はっと口を押さえた千姫は一度強く瞼を閉じると涙の滲んだ瞳で弱々しく睨み付けながら、今度は消え入りそうな声で「そんなわけ、ないじゃですか」と繰り返す。
「元の色もわからないくらい、一面真っ赤だったと聞きました…………どれほどの血を吐けば、あのようなことになるのかというほどの……」
千姫の言葉に今度は陵王が叫びそうになった。
なんなら梅鈴含む三人の女官も。
その心は一つ、
やりすぎーー!!
先日褒め称えた件の女官に対し心の中でそう叫ぶ。
いやもう、どんだけ血塗れにしたんだよ?!
派手に鶏でも掻っ捌いたんだな?そうなんだろ?!
心の中で盛大にそうツッコみながら、この場をどう切り抜けるか必死に頭を働かせる。
どうする?
どう誤魔化せばいい??
「本当に大したことないのよ?」
そんな一言は当然なんの説得力もなかった。
そりゃそうだ。
そんな大量の吐血をしたことにして大したことはないが無理があるよな。
言った本人である陵王もそう思う。
「畏れながら……」
テンパる陵王の耳に頼もしい声が響いた。
進み出た梅鈴が恭しく一礼する。
「発言をお許し頂けますでしょうか」
本来なら妃嬪同士の会話に女官が口を挟むことなど許されないが、陵王は「天の助け!」とばかりに許可を出した。
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