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その後
絆されて、流された 2
しおりを挟む兄の為に力になりたいという想いに心動かされたこともある。
破天荒ながら憎めない人たらしの陵王に甘いということもある。
それでも止めるべきだった。
先日周瑜から苦言を頂戴した通り、自由人な陵王だからこそ周囲が良識を説いて止めるべきだったのだ。
そして皇帝兄弟を幼い頃から面倒を見ている梅鈴にはそれが出来た。
……が、しなかった。
全くしなかったわけではない。
わけではないが……最終的に女官一同ノリノリで絶世の美女を造り上げたのもまた事実。
自分たち史上最高の出来映えに遣りきった感満載の笑みを浮かべていた自覚はある。
もし言い訳が許されるのなら、彼女たちも陵王と同じくこう言うだろう。
「だってまさかこんなことになるとは思わなかった!」と。
陵王の企み通り全員途中離脱の前提だったのだ。
だって主である陵王の性別は男で……………以下略。
なのに気付けばライバルである筈の妃嬪たちからの絶大な推しにより、まさかの皇后候補筆頭に。
そんなバカな!な事態勃発である。
主人の美貌と人たらしっぷり、舐めてた。
充分に知り尽くしてるつもりだったけど、よもやこれほどとは……と一同思わずにはいられない。
まさに傾国の名に相応しい。
「貴女たち!わかっていますね?わたくしたちはこの事態をなんとかせねばなりません」
キリッて告げた梅鈴に他の女官たちも「はい、梅鈴さま!」とやや体育会系のノリで答えた。
「わたくし、他の宮の女官に蝴蝶様の病弱さをアピールして参りました」
「私は吐血を演出いたしました。血のついた衣を人気のないところで洗っていたことにしたのです。見られてはならぬところを見られてしまった迫真の演技が出来たと自負しておりますわ!でも女官が通りかかるまでひたすら待ち伏せしてたから手が荒れてしまって……」
握り拳をしつつ達成感溢れた顔をした若い女官はそういってやや眉を落とした。白い手は確かにあかぎれていた。
その根性と小細工に周囲は「やるわね!」「良くやりました!」「名誉の負傷ね。さ、この軟膏をお使いなさいな」と口々に賞賛と労わりを見せる。
ちなみに、血は鶏を捌いたときのものだ。農村の出の若い女官は生き物を絞めるのが得意だった。
「皆で団結してこの危機を乗り越えましょう」
力強い梅鈴の言葉に一同、大きく頷く。
「目指せっ!“脱”皇后候補筆頭!!」
高らかに腕を突き上げる陵王に動きに合わせ、女官、宦官たちも「おー!!」と雄叫びをあげつつ腕を突き上げる。
二度目になるが、大変バカバカしいやりとりこのうえないが二人も周囲も大真面目である。
もしもここに周瑜が居れば、その熱意と努力は認めつつ、あまりのアホらしさに頭を抱えて小言の一つも零してくれただろうが……禁断の花園であるこの後宮に去勢してない彼は居ない。
そもそも宮の主が去勢してない男という意味わからん事態だが……。
皇帝の寵愛を奪い合い、皇后を目指すべき後宮で「“脱”皇后!“脱”後宮!」を目指す皇后候補筆頭に、「蝴蝶お姉さまを皇后に!」と推し活に励むその他妃嬪たち。
華胥の国の後宮にて開かれたミスコン(語弊)は今日も混乱を極めていた。
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