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しおりを挟む「愛してるよ、セレナード」
「知ってる」
何度だって繰り返し紡がれる愛の言葉たち。
きっといくら紡いでも足りないほどにギルは僕を愛しているし、大切にしてくれる。
そのことを僕は誰よりも知っている。
大切だからこそ不安になって、臆病になって、また狂おしいほどに僕を求める。
いまだって、ほら。
「セレナードは?」
僕の答えだって知っているくせに、それを求めて、乞わずにはいられないギルは案外心配性で甘えん坊だ。
食べていたお菓子をひとつ、ギルの唇へと押し当てた。
微かに開いた唇の隙間に押し込んで、チュッと伸びあがってキスをする。
あっ、ちょっとお菓子の味がする。
甘い味に思わずその唇をぺろりと舐めて、離れようとしたけどぎゅっと僕の頭を押さえたギルの手に阻まれて出来なかった。
口いっぱいに甘いお菓子の味がした。
息を切らし、ギルの胸にもたれながらむぅっと睨んだ。
たぶん僕の顔は真っ赤だと思う。
だって僕はまだあのチューには慣れていないのだ。
いつものチューよりなんか恥ずかしいし、なによりあのチューは物理的にも息が苦しい。
「ごめんね。機嫌をなおして?セレナード」
「…………」
ぷいっ!と顔を背けた僕にギルは困り顔だ。
「ほら、あーん」
お皿から一口サイズのチーズケーキをつまみあげ、僕の口元へと運ぶ。
お菓子なんかで僕の機嫌をとれると思ったら大間違いだ。
ムスッと口を引き結んでいた僕だが、お菓子に罪はないからおとなしく口は開ける。
キューブタイプのチーズケーキはビスキュイ生地となめらかで濃厚なチーズの風味が絶妙で、思った以上に本格的なチーズケーキだった。
なんだこれ、美味しい!
お口の中のチーズケーキがなくなった頃合で、また口元へと運ばれたそれにパクリと食いつく。
「美味しい?」
「すごい美味しい」
微笑ましそうににこやかに問われ、にこにこ笑顔で頷いたあとでハッとした。
しまった……!
お菓子のおいしさにつられてつい……。
くそぅ、ギルめ。策士だな。
悔しさを感じつつも、三度差し出されたそれはもちろん食べる。
だってお菓子に罪はないし、おいしいは正義だから仕方がない。
濃厚なのを続けて食べたから喉が渇いた。
そう思ったところでグラスが目の前に現れた。
差し出してくれたのはもちろんギルだ。
グラスを支えられたまま、ストローからチューと啜る。うん、お口すっきり。
さっきまでの不機嫌もどこへやら、すっかり僕の機嫌は治っていた。
相変わらずギルは僕の扱いが上手い。
エリオットがここに居れば「単純なだけだろ」とかまた失礼な発言をしそうだけど、ギルは僕をとことん甘やかしてくれるから絆されてしまうのは仕方がない。
背もたれみたいにぽすんと寄りかかる僕の頬をギルの手の甲が撫でる。
「約束通りたくさん甘やかしてあげるし、誰よりもなによりも大切にするよ」
プロポーズのときの約束を繰り返し、甘いハチミツみたいだと評判の瞳が懇願するように僕を覗き込む。
「だからどうかいつまでも私の腕の中に居て?君の眠りも幸せも、きっと私が守るから」
ゆっくりと言葉と共に降りてくる唇。
「愛しい私の 眠り姫」
やっぱりエリオットよりもギルの方が王子役は向いてるな。
そんなことを思いながら返した返事は当然のように_________________。
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