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しおりを挟む「すみません。あんまりおいしかったからつい……」
「いいえ。お気に召して頂けて嬉しい限りです。よろしければ他のお菓子もどうぞ?」
そう言って手のひらで示されたたくさんのお菓子。
アギア殿下はいい人だ。
義兄さまがお土産に買ってきてくれてすごく気に入ったお菓子に手をのばす。
お茶会は和やかに進んだ。
おいしいお菓子は食べればなくなってしまう。
僕のお皿のうえのザッハトルテはあと一口分。
……いつの間に。
ぱくりと口に入れれば、そのおいしさにほっぺが緩むとともに空っぽのお皿が切なくて眉毛が下がった。
「おかわりするかい?」
「セレナード殿のために用意したものですからお好きなように。お腹がいっぱいならあとで召し上がられてもいいですし」
義兄さまとアギア殿下の言葉に使用人が「どうなさいますか?」と箱を差し出してくれる。
「ん……あとでにします」
「いいのかい?」
不思議そうに義兄さまが首を傾げるのは、いつもなら嬉々として提案にのるのと……言葉とは裏腹に僕の視線が箱の中のザッハトルテに釘付けだからだろう。
仕方ないじゃないか、おいしそうだし、実際においしいことも知っているんだから。
「食い意地張ったお前にしては珍しいな。いつも欲張って腹が痛いとか騒ぐくせに」
「エリオットッ!!」
まさかの暴露に両手を握って叫んだ。
胸の前にあげたその拳でぽかぽか叩いてやりたいが、お客さまの前だから堪える。
アギア殿下たちの前でなんてこと言うんだ!まったくっ!
ちろりと目で窺えばラーニャ国の人たちはクスクスと笑っていた。
さらに口元に手を当てて、笑いを堪えつつ堪えられてないアギア殿下が聞き捨てならない発言をした。
「ギルバートからセレナード殿のお話はよくお聞きしていましたが、本当に甘いものがお好きなんですね」
「義兄さまっ?!」
まさかの裏切り。
エリオットはともかく、義兄さままで僕が食いしん坊だって言いふらしてるなんて……。
ガーン!とショックを受けた顔を向けても義兄さまはどこ吹く風だ。
「悪口じゃないよ?私のセレナードは可愛いって自慢してただけだし」
そういう問題じゃない。
結局、僕がお菓子に目がないことは話してるんじゃないか?!
ぷくっと膨れたいけど人前だから唇をちょっと尖らすだけでガマンする。
「遠慮してるのかい?」
「ちがう」
「お腹がいっぱい?」
「……今日、父さまが帰ってくるから。あとでにする」
ホールケーキは全部で8つ。
僕と義兄さまとエリオットとアギア殿下が食べたから残りは4つだ。
今日はお仕事が忙しかった父さまが久しぶりに帰ってくる。
疲れたときは甘いものがいいって言うし、ごはんのあとでみんなで食べようと思ったんだ。
……こどもっぽい理由だからアギア殿下たちの前で言うつもりはなかったのに。
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