麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴

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「アギア……?」

「わかってるっ!手をだす気は毛頭ないからその顔やめてくれ、こわい」

「?」

振り返って義兄さまを見るもいつもの笑顔だ。

「気にするな」

微妙な顔つきでエリオットが言った。

エリオットはなにか見たんだろうか?

「それよりセレナード、折角だから早速頂くかい?」

義兄さまの提案に一も二もなく頷くと箱をメイドにパス。
すぐさまホールのケーキをカットしてくれた。

「もしよろしければお茶もご一緒にいかがですか?」

ダマスク模様のお茶の缶と真っ赤な果実のジャムの瓶をアギア殿下が手のひらで示す。

「……抵抗がおありでなければ、ですが…………」

眉を下げてそう続けたのはお茶を飲んだあとに倒れたことへの気づかいだろう。

「いただきます」

にっこり笑ってそう答えた。

倒れたのはお茶に盛られた睡眠薬のせいで、お茶そのものにはなにも害がない。
それどころか……。

「甘くてとても美味しかったので嬉しいです」

お茶はラーニャ国のお付きの人がいれてくれた。
やっぱり蒸らし時間とか淹れ方が少し違うらしい。

安全性を示すようにアギア殿下がまずカップに口をつけた。
最初っからためらいもなにもない僕は気にせずジャムを大さじで投入してたからあんま見てなかったけど。

僕がカップを口元に運んだ瞬間、場に緊張が走った。

なにも危なくなんてないってわかっているはずなのに、あの時のことを思い出してしまうのか義兄さまの顔も強ばっている。

こくり、と一口。
柔らかな甘さが口中に広がった。

「すごく美味しいです」

笑顔を浮かべればようやく空気がほぐれた。

さぁ、いよいよザッハトルテだ!

ワクワクしながらフォークを入れる。
みっちりした濃厚さが手触りから伝わってきた。
あーんとお口をあけてぱくり。

ん~~っ、とほっぺを押さえた。

ねっとりとした舌触りは予想通り超濃厚。
チョコの風味は濃厚なんだけど、使っているのがビターめのチョコなのか思ったよりもかなり甘さは控えめ。だから甘いお茶と合わせてもくどくない。

弟子が買ってきてくれたザッハトルテも美味しかったけど、こっちもおいしい。

こくん、と口の中のものを飲み込んでふと気づいた。
向けられるいくつもの視線。

しまった!!
お客さまの前だった!!

あわあわしながらほっぺを押さえていた手を放す。

エリオットが口の動きだけで「ばか」と伝えてきた。
呆れた顔とその言葉に、ぐぬぬ……ってなるもののお茶菓子のおいしさにお客さまの存在を忘れてたのは事実だからなにも言い返せない。
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