麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴

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「茶に睡眠薬を仕込んで、控え室で眠りについた令嬢たちを拐おうとしたんだが……ここでも小細工が裏目に出た。
ラーニャ国の関与を匂わせるためにわざわざ茶会で提供されるあの国の茶にそれを仕込んだ。もっとも、茶会のあとだと出された茶や菓子に手をつけない令嬢もいるかもって理由もあったみたいだがな。茶会の席で、しかも来賓客の国のものだ。全員が確実に口にするだろう。そのためにわざわざ遅延性の睡眠薬を仕込んだんだ」

「「「「睡眠薬……」」」」

「ああ、睡眠薬だ。睡眠……ものすっごくどこかの誰かさんを連想させる単語だろ?」

「で?」

「いいか、遅延性だ。薬の効き目が現れるのは約一時間後。早くても三十分以上は後だ。なのにセレナードは一口飲むなりぶっ倒れ、そのまま三日間眠り続けた」

「「「「……」」」」

な、なんだその目はっ?!

「会場は大騒ぎた。毒物でも混入されたかと人だって大勢集まる。警備だって厳しくなって犯人が逃げ出せるような状態じゃないし、第一犯人たちも取り乱しはじめた。なんせ奴らにとっても予想外の出来事だからな。
しかも倒れたのは急遽ターゲットに加えたそいつだ。薬の量を間違ったんじゃないかとか余計な心配でもしたんだろう。んで、挙動の可笑しい奴らを尋問……ま、あの段階だと事情聴取か、のために捕らえたりしている間にフラフラしたり倒れたりする令嬢たちが続々と現れるだした」

「ちょうどお茶を口にしてから一時間ほどでしたわね。立っていられないほどの眠気が襲いましたの」

「騎士を振り払って逃げ出そうとした犯人を捕まえたり、現場は大騒ぎでしたね」

「「「「……」」」」」

「そんな目で見るなっ!仕方ないだろう、一口飲んだら堪えられない眠気がきたんだ!だいたいっ、もし僕が倒れなかったらみんなまんまと誘拐されてたかもしれないんだからなっ!?」

注がれる生ぬるい視線に耐えかね、バンッと机に手をついて立ち上がり吠える。

なんだかわかんないけど、すごく居たたまれなくなる系の視線は下手に笑われるよりダメージだ……おうちに帰りたい。
帰って義兄さまに慰めてもらうんだ。

拗ねると副会長たちが慰めてくれた。
書記令嬢も「お陰様で助かりましたもの」って褒めてくれるなか、失礼コンビは相変わらずだ。

「さすがは神に愛されしアホ。幸運とミラクル度合いがハンパねぇな」

「ああ、さすがはアホ」

「あほじゃなーい!!」

とくにエリオット!
枕ことば外したらただの悪口っからな?
ついてても大概だけど!

ぷんぷんしながら席を立った。

デザートも食べ終わったしお昼寝の時間、こうなったらもうふて寝だふて寝!!

「おやすみ」と言い捨てて隣の部屋へと向かう。

「でも本当に無事で良かったですね」

「ああ、胆が冷えた」

ドアの向こうからうっすら響く声にむず痒い気分でベッドに潜り込む。
むきゅっと枕を抱きしめた。

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