麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴

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器に盛られたゼリーとお茶が運ばれてきたころになって、ようやく書記令嬢が落ち着いた。

なんかいつもの発作が出たみたいで、部屋に入ってからさっきまで口を押さえてなんかぶつぶつ言ってたんだ。

「寝衣……」とか「……尊い」とか聞こえた。
よくわかんないけど、寝衣ってのは僕の格好のことだろう。

まだお外禁止な僕は頭からすっぽり被るタイプの寝巻き着用。ワンピースみたいなひらひらなやつ。
僕の格好に驚いたのかもだけど、お客さまがくるって知らなかったんだから着替えてなくても仕方がない。

……もうお昼すぎてるけど。

「取り乱して申し訳ありませんでした」

こほん、とひとつ咳をした書記令嬢は落ち着いた声で謝罪した。

正直、先ほどまでの不審行動との落差に違和感しかないけど、そこに触れさせない完璧な笑みは高位貴族令嬢としてのスキルなんだろうか。

副会長が「放っておいて大丈夫ですよ。むしろそっとしておいてあげてください」って言ってたし、書記令嬢の病気は深刻なものではないんだと思う。

「もうしばらくはエリオットたちも忙しそうですよ。なにせ国同士を巻き込む大事になるとこでしたからね」

なんでも今回の一件はラーニャ国を犯人に仕立て上げようとしていたらしい。

実際は無関係なことがほぼ判明してるけど、事実関係を調べたり対応に我が国もラーニャ国も大忙し。

王家であるエリオットたちはもちろん、宰相である父さまたちもだ。

「何日寝た?」

睡眠薬を盛られた仲間である書記令嬢に問いかければ、ちょっと困った顔を浮かべてそっと指を2本立てた。

2日か、勝った……と勝利を噛み締める僕に信じられないことを彼女は言った。

「2時間程ですわ」

「2時間っ?!日じゃなくて?」

驚きすぎて思わず「短っ!!」と叫んだ。

「私はあまりお茶を飲まなかったので早めに目覚めましたけど……他の方も4、5時間で目覚めましてよ?」

「ええ、だからなおさら心配していたんです。他の方たちが目覚めるなか、あなたは全く反応がありませんでしたから」

パチパチと瞬きする。
意味がわからない。

あんまり飲まなかったって言ってるけど、それなら僕なんか一口しか飲んでないし。

なんで僕だけ3日も眠り続けたんだ?
盛られた薬が違う?

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