麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴

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「我が国は寒いのでジャムを落として飲むのですよ。そうすると体が温まるんです」

小瓶にはいった綺麗なジャムが運ばれてきた。
隣の義兄さまが「入れてごらん?セレナードは好きだと思うよ」ってささやいたのでたっぷり投入。

甘いのは好きだし、僕の好みを周知している義兄さまが言うなら美味しいという確信がある。

しかもザッハトルテやチョコレートまで運ばれてきた!

「ザッハトルテやチョコ菓子も我が国の名物です。皆さまどうぞお召し上がり下さい」

どうやらこれらはラーニャ国の人たちが用意してくれたらしい。わーい!
あれ、でも……?

「……賞味期限」

副会長はザッハトルテはお土産は難しいって言ってた。
現に義兄さまのお土産にはなかったし、だから弟子が代わりを買ってきてくれたんだ。

思わず呟いてしまった瞬間、テーブルの下でエリオットに手を叩かれた。

はっと口を押さえようとするも遅い。
僕の呟きはばっちりアギア殿下らに聞こえていた。

だけど殿下は全然怒っていないどころか笑っている。

「これはラーニャ国のチョコを使ってシェフが今日作ったばかりです。なのでお腹を壊したりしませんよ?」

からかうように告げられてほっぺが赤くなったまま謝る。

「ラーニャ国名物のザッハトルテは日持ちの関係でお土産に買ってこれなかったからね。この子はずいぶんと残念がってたんだ」

やりやがった、って目を向けてくるエリオットと違い、僕をフォローしてくれる義兄さまの発言もあって非難の視線どころか向くのは微笑ましそうなそれだけだからセーフ。

「可愛らしいとは聞いていたが本当に可愛いな。お気に召しましたらまた用意させましょう」

前半は義兄さまに、後半は僕へ顔を向けて紡がれたその言葉にぱあっと笑みが浮かぶ。

なんていい人!!

キラキラした瞳を向けたらアギア殿下の白い肌が赤くなった。
ついでに義兄さまの機嫌が僕らにしかわからないくらいにちょっぴり低下し、エリオットからは自重しろとばかりに手をぎゅっとされた。いたい。

「さ、食べないのかい?」

義兄さまに促されて意識を目の前に切り替える。

ザッハトルテも楽しみだけどまずはお茶とカップに手をかけた。

みんなが「おいしい」と声を漏らしてたから僕も早く飲みたかったけど、僕は猫舌だからまだ口をつけてなかったんだ。
いつもならスプーンでぐるぐるしたり、ふぅふぅして冷ますけど、この場でやるにはお行儀悪いから。

たぶんもう大丈夫だろう。
うっすらと湯気が立ち上るカップの中身に慎重に口をつけた。お茶の香りだけじゃなく、ジャムの果実の香りがふわりと香った。

あ、甘くておいしい!

そう思った次の瞬間……頭がぐらっとした。

カップが手から滑り落ち、体が傾ぐ。
すぐ近くで義兄さまやエリオットがひどく慌てた声で僕を呼ぶ声が聞こえたけど、視線を向けることさえ出来ない。
暗転するように意識は塗りつぶされていった。
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