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しおりを挟むこの場に留まることはしなくともきっとこのあとお城にご招待して……とか色々あるんだろう。
だけど義兄さまは僕のうたた寝が馬車に乗ってる間くらいじゃ足りないことをわかってる。
普段ならそれなりに礼儀正しいし配慮も見せる義兄さまだが今回は別だ。
義兄さまはいつでも僕ファースト。
相手が王族だろうとその優先順位は揺るがない。
ほぼ初対面の王族を押し付けられたエリオット。
がんばれ!
なんだかんだで王子としては優秀だからきっとなんとかなるはず。
ギルの僕ファーストはよく知っているから怒りや呆れたの中にも諦めを見せるエリオットと違い、アギア殿下は唯一の知り合いである義兄さまを引き止めているが当然のようにスルー。
「行こうか、セレナード」
エリオットから僕の鞄を受け取り促す義兄さまに「ちょっと待って」と声をかけてたったっと走り出す。
向かう先は弟子のところだ。
明日明後日はお休みだからもしかすると忘れてしまうかもしれない。
弟子はわりと抜けてるとこがあるからな。
ぐいぐいと腕を引いて体勢を崩させる。
弟子は弟子の癖に師匠の僕より背が高いのだ。
「な、なんです?!」
つま先立ちして口元を弟子の耳に寄せ「ザッハトルテ」と囁いた。
親切に耳打ちしてあげた僕にぶんぶんと首がとれそうな勢いで頷く弟子。
「お持ちします!お持ちしますんでちょっと離れてもらっていいですか!僕の命が危ないんでっ!!」
どうした?なにをそんなに慌てているんだ?
赤くなったあとでざぁっと青くなった弟子の挙動不審を心配していると義兄さまに呼ばれた。
たたっと戻ると「なにを話してたんだい?」と聞かれたけどラーニャ国の人たちもいるので「あとで」って答えた。
元はと言えばラーニャ国の名物が日持ちしないザッハトルテだからでた話だしな。
僕は気が使えるんだ!
エリオットが義兄さまに「害はないから平気だ」ってボソッと言ってたけどなんのことだろう?
弟子はなにかしたんだろうか?
ラーニャ国の皆さんにご挨拶して、生徒会メンバーにもバイバイしたあとでようやく馬車へと乗り込んだ。
いつもより遅いから僕はおねむだ。
こしこしと目をこすっていると義兄さまが僕の頭をこてんと自分の肩に導いてくれた。
「寝てていいよ。着いたら運んであげる」
優しく頭を撫でられて僕の瞼はもう限界だった。
眠りに落ちてしまう前にぐりぐりと懐きながらこれだけは伝える。
「お帰り。ギルに会えてうれしい」
二度目のお帰りと心からの気持ち。
眠りに落ちる意識の中で包みこむ腕とギルの香りを感じた。
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