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しおりを挟む手の甲に唇を当てたまま、義兄さまは恭しく告げた。
「愛しいセレナード。どうか私を君の人生の伴侶に選んで欲しい」
告げられたその言葉にびっくりして目を見開く。
それってもしかして…………。
「プロポーズ?」
「そうだよ。私はこれからもずっと誰よりも君の近くに居たい。兄としてだけでなく、君の一番の特別でありたい。可愛くて愛しいセレナードを誰にも渡したくないんだ」
甘く優しいエメラルドの瞳が一瞬だけほの昏く陰った。
その眸は前にも見たことがある。
僕に大量の縁談が舞い込みはじめたときや、パーティーでダンスの誘いが殺到したときと同じだ。
届いた釣書を引き裂いきながら、僕の代わりに丁寧ながらもはっきりとしたお断りをしながら……笑顔の奥で昏さをたたえたあの瞳の色。
だけどそれはほんの一瞬で、僕に向けられる瞳はどこまでも甘く優しい。
「結婚……?」
プロポーズということはきっとそうなのだろう。
特にいやとかはないのだがあまりピンとこない。
縁談が舞い込みはじめようと、父さまと義兄さま、あとときどき使用人たちが片っ端からお断りしてくれてたから結婚というのはまだまだ先のことだと思ってた。
実際、父さまは「まだ早い!」ってお断りしてたし。
「そうだね。ゆくゆくはそうしたいけど、とりあえずまずは婚約かな?虫よけにもなるし」
僕の手をぎゅっと包んだ義兄さまはどうかな?と笑いかけた。
「私は父上の仕事の手伝いもしているからね、セレナードが家を継いだあとも領地の経営なんかも問題ない」
「義兄さまが継ぐんじゃないの?」
てっきりそうだと思ってた。
養子とはいえ父さまたちにとっても義兄さまは大事な息子に代わりない。
だけど義兄さまは首を振った。
「侯爵家の直系はセレナードだからね。この家を継ぐのは君だ。セレナードだってその方がきっといいよ。今まで通りこの家で父上や母上、使用人たちとも一緒に居られる。
セレナードが私をお婿さんに選んでくれるなら必要なことは全て私がやろう。君のサインが必要な場合や、どうしても表舞台に出なくてはならないとき以外は、好きなだけ眠っていてもいいよ」
「好きなだけ」
素敵すぎる言葉に思わず前のめりになる僕にふふっと義兄さまが笑う。
「そう、好きなだけ。ただし、私の傍でね。君が私の傍に居てくれるなら、それだけで私は幸せだから。たくさん甘やかしてあげるし、絶対に大切にする。だからどうか……」
祈るように義兄さまのエメラルドの瞳が僕を見つめた。
「私を選んで?」
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