麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴

文字の大きさ
上 下
6 / 47

しおりを挟む


廊下を歩いていると生徒たちが遠巻きにこちらを見たり、挨拶してくる。

「アイツら完璧に騙されてるよな」

「仕方ないですよ。まさに姫、って美貌ですもん」

書記と弟子が話しているのは、僕を “眠り姫” と呼ぶ生徒たちのことだ。

眠くてよくふらふらしてるからか、生徒の大半は僕を病弱だと思い込んでいるらしい。
全校集会でも二回ほど倒れたことがあるしな。

校長の話が長すぎて、寝落ちした。

睡眠は人間の本質で、生物として当然の欲求だ。
なので仕方がないことな気もするが…………いつでもどこでも寝るのは貴族としてマズイらしい。

僕は貴族だ。
しかも公爵家なうえに容姿もいい。

体面とかいう面倒くさいものもあれば、なにより誘拐だの襲われたりの危険がある。

なので人前ではいつも頑張って起きているのだ。

僕、えらい。

家族や使用人たちからも身内のいない場では絶対に寝てはいけない、と厳命を受けている。
エリオットは身内枠。

そんな僕の涙ぐましい頑張りもあって、僕が常に寝たい派なことはおおやけになっていない。

半分意識が飛んでいるのは = 憂い気な表情。
ふらふらしたり寝落ちするのは = 貧血気味、病弱で儚い。

そんな感じに変換されているらしい。

「至って健康だがな」

病弱どころか風邪すらほとんどひいたことがない。
これぞ睡眠の力!!

「まぁ、お前はまだいいよな。姫なんて呼ばれててもいい方に勘違いされてるし。エリオットなんて “王子(笑)” だぞ」

書記の言葉に副会長たちもプッと吹き出した。

どうでもいいけどみんな(笑)ってどうやって発音しているんだろう?

エリオットから腹に肘内を食らわされた書記がうずくまった。
人目に触れないような一瞬の早業だった。

その表情は暴力をふるったなんて微塵も疑わせない完璧な王子さまスマイルで「大丈夫か?」なんて白々しい言葉をかけている。

この見た目は王子さまとして百点満点のエリオットが親しい者に “王子(笑)” と呼ばれる最大の原因は実は僕だ。

例の劇「sleeping beauty」で僕は姫を、エリオットは王子役をやった。

さて、ここで「sleeping beauty」の内容を知っているだろうか?

姫が魔女の呪いを受け、100年の眠りについた姫が王子のキスで目覚める。
一言で言うならそんな話だ。

呪いとはいえ、100年も眠り続けるなんてとんだお寝坊のお姫さまだ。

ところで飲まず食わずで体の方は大丈夫だったのだろうか?

……脱線した。

姫役の僕は前半部分で魔女の糸車で指を刺し、あとは王子がくるまでベッドの上だ。
瞳を閉じ、身動きもせずに寝たふり。

ここまで言えばその後の悲劇は予想できるのではないだろうか?

僕は寝てしまった。

ガチ寝した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

処理中です...