上 下
33 / 33

31話 吹き荒れる雪山

しおりを挟む
 雪山で遭難してしまったら、どうすると思う?
 体が冷えないように、温めてようとするはずだ。
 僕らは基本に倣って、かまくらを作って温まろうとしていた。

「ふぅ~、やっと完成だね」
「ああ、これで拠点は問題ないな」

 えんじゅ君は、サバイバルゲームでもしているかのように、楽しそうな笑みを浮かべながら言った。

「それじゃあ、次は大玉作りで勝負だな!」

 遭難する羽目になった元凶であるはずのガイ君は、既に自身の腰付近まで大きくした雪玉を転がしていた。

「おい、ガイ! 先に作り始めるなんてズルいぞ!」

 えんじゅ君は、そう言うや否や雪が吹雪く中を駆け出した。

「二人とも、せっかくかまくらが出来たのに、そんなに離れたら更に遭難しちゃうよ」

「うおお、負けねえー!」
「お、やるな! こっちも負けんぞ!」

 二人は、僕の静止など聞かずにどんどんと離れていく。

「う~ん、あの二人なら更に遭難しても何とかなるかな」

 僕は考えを改め直し、震える体を摩りながらかまくらの中へと入る。中は思っていたよりも幾分かは温かかった。スキーの板を出入り口付近に置いてうずくまる。

「あの二人、暗くなってきたけど大丈夫かな」

 外は先程よりも闇夜が広がっていた。吹雪いているせいで分かりづらいけど、どうやら完全に暮れてしまったらしい。

「あっ、そういえば、あの二人って洞窟でも目が見えるんだっけ」

 二人の人間離れした特技を思い出して、改めて僕は普通なんだなと思い知らされた。その証拠に僕の体はさっきよりも震えていた。

「さ……さむいよ……」

 僕は、このまま凍え死んでしまうのではないか。そんな考えが過ぎった時、外の方に微かな青白い光が見えた。

 (なんだろう? えんじゅ君たちなのかな)

 徐々に近づいてくることによって、僕の予想は間違えであることが分かった。

 光の正体。それは着物を纏った白い肌の女の人だった。

 僕はこの人を知っている。そして、この後に起こりうることもよく知っていた。
 懸命に生きようとしている為か、僕の鼓動は徐々に早くなっていく。

 女の人は、着物を少しだけはだけて、両手をこちらへと伸ばしてくる。
 彼女の正体。それは男性を氷漬けにしてしまうことで有名な雪女だった。

 (このままだと氷漬けにされてしまうかもしれない……だけど、今は……)

 僕は今、とてつもなく寒いのだ。寒くて寒くてたまらない。故に僕は今、人肌が猛烈に恋しのだ。

 僕の後頭部に、彼女の手が触れる。ヒンヤリとして、少しだけ温まり過ぎた体には心地よく感じられた。

 僕を抱きしめた両手は、徐々に彼女の胸元へと近づいていく。

 (あっ! あ、あたたかい。これが彼女の温もり……)

「ーー!」

 見上げると、彼女の顔は驚きの表情をしていた。それに僕はいまだに彼女に触れてすらいなかった。

「ハァハァ、どう? 二人とも温かいかなあ?」

 僕は嫌でも状況を理解してしまった。そして、望んだものが手に入らないことも理解してしまった。

 (と……とけてる。そ……そんな……。せめて、一瞬だけでも)

 僕の顔が触れたもの。それは彼女が残していった着物の感触だけだった。

「う……ううう……なんてことを……」

「嬉しくて泣いてるんだね。それなら、もっと温かくしてあげるよ」

 僕はなすすべもなく、ヘンタイさんの毛皮に包まれた。頭上には、雪男の口から顔を出しているヘンタイさんの息遣いが聞こえてくる。

 悪夢に次ぐ、悪夢。

 (あ……ちょっと目眩が……)


「おーい、マル。こんなところで眠ると死ぬぞ」

「う、う~ん。……えんじゅ君? それは、吹雪いてる雪山の中を走り回ってた二人もでしょ」
「ん? マル、それは何なんだ?」

 ガイ君が指摘したもの。それは、悪夢の主が置いていったものだった。

「夢じゃなかったんだ……」

「お! これって雪男じゃないか? 誰かUMAごっこでもしてたのか?」

 えんじゅ君は、抜け殻となった雪男を持ち上げながら全貌を確認していた。

「そうかもしれないね」

 僕は近場に落ちていた着物を掴んだあよにギュッと握りしめた。

 (ごっこだけだったら良かったんだけどね……)
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

ギガソード
2024.03.30 ギガソード

やべぇ、ホラー要素が全部ギャグになるとかワロタwww

更新が楽しみです♪

菖蒲月ゆふ
2024.04.06 菖蒲月ゆふ

初コメントありがとうございます。楽しんでいただけてるようでとても嬉しいです。

更新ですが、なろうの方に追いつき次第、暫くの間は毎日更新を続けていきますので、引き続き拙作を楽しんでいただけたら幸いです。

解除

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百合系サキュバス達に一目惚れされた

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。