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31話 吹き荒れる雪山
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雪山で遭難してしまったら、どうすると思う?
体が冷えないように、温めてようとするはずだ。
僕らは基本に倣って、かまくらを作って温まろうとしていた。
「ふぅ~、やっと完成だね」
「ああ、これで拠点は問題ないな」
えんじゅ君は、サバイバルゲームでもしているかのように、楽しそうな笑みを浮かべながら言った。
「それじゃあ、次は大玉作りで勝負だな!」
遭難する羽目になった元凶であるはずのガイ君は、既に自身の腰付近まで大きくした雪玉を転がしていた。
「おい、ガイ! 先に作り始めるなんてズルいぞ!」
えんじゅ君は、そう言うや否や雪が吹雪く中を駆け出した。
「二人とも、せっかくかまくらが出来たのに、そんなに離れたら更に遭難しちゃうよ」
「うおお、負けねえー!」
「お、やるな! こっちも負けんぞ!」
二人は、僕の静止など聞かずにどんどんと離れていく。
「う~ん、あの二人なら更に遭難しても何とかなるかな」
僕は考えを改め直し、震える体を摩りながらかまくらの中へと入る。中は思っていたよりも幾分かは温かかった。スキーの板を出入り口付近に置いてうずくまる。
「あの二人、暗くなってきたけど大丈夫かな」
外は先程よりも闇夜が広がっていた。吹雪いているせいで分かりづらいけど、どうやら完全に暮れてしまったらしい。
「あっ、そういえば、あの二人って洞窟でも目が見えるんだっけ」
二人の人間離れした特技を思い出して、改めて僕は普通なんだなと思い知らされた。その証拠に僕の体はさっきよりも震えていた。
「さ……さむいよ……」
僕は、このまま凍え死んでしまうのではないか。そんな考えが過ぎった時、外の方に微かな青白い光が見えた。
(なんだろう? えんじゅ君たちなのかな)
徐々に近づいてくることによって、僕の予想は間違えであることが分かった。
光の正体。それは着物を纏った白い肌の女の人だった。
僕はこの人を知っている。そして、この後に起こりうることもよく知っていた。
懸命に生きようとしている為か、僕の鼓動は徐々に早くなっていく。
女の人は、着物を少しだけはだけて、両手をこちらへと伸ばしてくる。
彼女の正体。それは男性を氷漬けにしてしまうことで有名な雪女だった。
(このままだと氷漬けにされてしまうかもしれない……だけど、今は……)
僕は今、とてつもなく寒いのだ。寒くて寒くてたまらない。故に僕は今、人肌が猛烈に恋しのだ。
僕の後頭部に、彼女の手が触れる。ヒンヤリとして、少しだけ温まり過ぎた体には心地よく感じられた。
僕を抱きしめた両手は、徐々に彼女の胸元へと近づいていく。
(あっ! あ、あたたかい。これが彼女の温もり……)
「ーー!」
見上げると、彼女の顔は驚きの表情をしていた。それに僕はいまだに彼女に触れてすらいなかった。
「ハァハァ、どう? 二人とも温かいかなあ?」
僕は嫌でも状況を理解してしまった。そして、望んだものが手に入らないことも理解してしまった。
(と……とけてる。そ……そんな……。せめて、一瞬だけでも)
僕の顔が触れたもの。それは彼女が残していった着物の感触だけだった。
「う……ううう……なんてことを……」
「嬉しくて泣いてるんだね。それなら、もっと温かくしてあげるよ」
僕はなすすべもなく、ヘンタイさんの毛皮に包まれた。頭上には、雪男の口から顔を出しているヘンタイさんの息遣いが聞こえてくる。
悪夢に次ぐ、悪夢。
(あ……ちょっと目眩が……)
「おーい、マル。こんなところで眠ると死ぬぞ」
「う、う~ん。……えんじゅ君? それは、吹雪いてる雪山の中を走り回ってた二人もでしょ」
「ん? マル、それは何なんだ?」
ガイ君が指摘したもの。それは、悪夢の主が置いていったものだった。
「夢じゃなかったんだ……」
「お! これって雪男じゃないか? 誰かUMAごっこでもしてたのか?」
えんじゅ君は、抜け殻となった雪男を持ち上げながら全貌を確認していた。
「そうかもしれないね」
僕は近場に落ちていた着物を掴んだあよにギュッと握りしめた。
(ごっこだけだったら良かったんだけどね……)
体が冷えないように、温めてようとするはずだ。
僕らは基本に倣って、かまくらを作って温まろうとしていた。
「ふぅ~、やっと完成だね」
「ああ、これで拠点は問題ないな」
えんじゅ君は、サバイバルゲームでもしているかのように、楽しそうな笑みを浮かべながら言った。
「それじゃあ、次は大玉作りで勝負だな!」
遭難する羽目になった元凶であるはずのガイ君は、既に自身の腰付近まで大きくした雪玉を転がしていた。
「おい、ガイ! 先に作り始めるなんてズルいぞ!」
えんじゅ君は、そう言うや否や雪が吹雪く中を駆け出した。
「二人とも、せっかくかまくらが出来たのに、そんなに離れたら更に遭難しちゃうよ」
「うおお、負けねえー!」
「お、やるな! こっちも負けんぞ!」
二人は、僕の静止など聞かずにどんどんと離れていく。
「う~ん、あの二人なら更に遭難しても何とかなるかな」
僕は考えを改め直し、震える体を摩りながらかまくらの中へと入る。中は思っていたよりも幾分かは温かかった。スキーの板を出入り口付近に置いてうずくまる。
「あの二人、暗くなってきたけど大丈夫かな」
外は先程よりも闇夜が広がっていた。吹雪いているせいで分かりづらいけど、どうやら完全に暮れてしまったらしい。
「あっ、そういえば、あの二人って洞窟でも目が見えるんだっけ」
二人の人間離れした特技を思い出して、改めて僕は普通なんだなと思い知らされた。その証拠に僕の体はさっきよりも震えていた。
「さ……さむいよ……」
僕は、このまま凍え死んでしまうのではないか。そんな考えが過ぎった時、外の方に微かな青白い光が見えた。
(なんだろう? えんじゅ君たちなのかな)
徐々に近づいてくることによって、僕の予想は間違えであることが分かった。
光の正体。それは着物を纏った白い肌の女の人だった。
僕はこの人を知っている。そして、この後に起こりうることもよく知っていた。
懸命に生きようとしている為か、僕の鼓動は徐々に早くなっていく。
女の人は、着物を少しだけはだけて、両手をこちらへと伸ばしてくる。
彼女の正体。それは男性を氷漬けにしてしまうことで有名な雪女だった。
(このままだと氷漬けにされてしまうかもしれない……だけど、今は……)
僕は今、とてつもなく寒いのだ。寒くて寒くてたまらない。故に僕は今、人肌が猛烈に恋しのだ。
僕の後頭部に、彼女の手が触れる。ヒンヤリとして、少しだけ温まり過ぎた体には心地よく感じられた。
僕を抱きしめた両手は、徐々に彼女の胸元へと近づいていく。
(あっ! あ、あたたかい。これが彼女の温もり……)
「ーー!」
見上げると、彼女の顔は驚きの表情をしていた。それに僕はいまだに彼女に触れてすらいなかった。
「ハァハァ、どう? 二人とも温かいかなあ?」
僕は嫌でも状況を理解してしまった。そして、望んだものが手に入らないことも理解してしまった。
(と……とけてる。そ……そんな……。せめて、一瞬だけでも)
僕の顔が触れたもの。それは彼女が残していった着物の感触だけだった。
「う……ううう……なんてことを……」
「嬉しくて泣いてるんだね。それなら、もっと温かくしてあげるよ」
僕はなすすべもなく、ヘンタイさんの毛皮に包まれた。頭上には、雪男の口から顔を出しているヘンタイさんの息遣いが聞こえてくる。
悪夢に次ぐ、悪夢。
(あ……ちょっと目眩が……)
「おーい、マル。こんなところで眠ると死ぬぞ」
「う、う~ん。……えんじゅ君? それは、吹雪いてる雪山の中を走り回ってた二人もでしょ」
「ん? マル、それは何なんだ?」
ガイ君が指摘したもの。それは、悪夢の主が置いていったものだった。
「夢じゃなかったんだ……」
「お! これって雪男じゃないか? 誰かUMAごっこでもしてたのか?」
えんじゅ君は、抜け殻となった雪男を持ち上げながら全貌を確認していた。
「そうかもしれないね」
僕は近場に落ちていた着物を掴んだあよにギュッと握りしめた。
(ごっこだけだったら良かったんだけどね……)
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むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
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