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29話 天空会場
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「マルたち、聞いてくれよお‼︎ 俺、今朝見ちまったんだよ! ああ、もうお終いなんだぁ~」
一時間目の終わりを告げるチャイムと共に、コウキ君が現れた。気のせいかもしれないけど、瞳からは一筋の帯が薄らと見えた気がした。
「いやいや、急にそんなことを言われても分からないからな! 一体何を見たんだよ」
佐々木君が手慣れた様子でツッコミを入れた。
「何かを見てしまったからお終いってことなの?」
要領を得ない会話の中から、僕は手探りながらも何とか言いたそうなことがらを見出してみた。
「そうなんだよ。今朝俺が見たのは、家の屋根から、別の屋根に飛び移る黒い影を見たんだよ」
「なんだそれ? 泥棒が飛び移るところを見たって言うことなのか?」
「そんなんじゃないって。 何たって俺が見てしまったのは大人の人の二倍はある巨体だったんだから」
コウキ君は怯えながらも、窓の外へと視線を移す。何もいなかったせいか、彼はホッと胸をなでおろした。
「つまり、怪奇現象の類いを見てしまったってこと?」
「そう! そうなんだよ! 流石マル、怪奇現象と言ったらやっぱりマルに聞くのが一番だな!」
何故僕なんだろうという疑問を投げかける間も無く、佐々木君が続く。
「で、何でソイツを見たら終わりなんだ?」
「う、それは……」
コウキ君は、見る見るうちに青ざめていき、やがて重たい口を開いた。
「そいつを見たら近いうちに不幸が訪れるって言うんだよ」
「不幸ってどういうことだ?」
佐々木君は首を傾げながらも尋ねるが、僕には心当たりがあった。
見たら必ず不幸になるという黒い影。そいつは屋根の上から見下ろしていて、目が合ったものを不幸な目に遭わすそうだ。最悪の場合だと、死んでしまうこともあるらしい。
「最悪の場合だと……死ぬらしい……」
「マジか!」
「もしかしたらさ、見間違いってこともあるんじゃない? ほら、屋根の修理してたとかさ」
そう言いながら窓の外の方に視線を動かすと、遠くの方で何かが動いた様な気がした。
「そ、そうかもしれないよな」
「うん、きっとそうだよ」
僕は、コウキ君を安心させるために満面の笑みで答えた。と、そこで二時限目の始まりを告げるチャイムの音が鳴り響く。
「もう時間なのか。あのさ、二人とも帰りに俺の家に遊びに来ないか? 菓子とかも出すからさ」
僕と佐々木君は顔を見合わせたあとに答える。
「怖いから来てって素直に言えばいいだろ」
「うん、僕たちの中なんだからさ、そんなに遠慮なんかしなくても大丈夫だよ」
「そうか、二人ともありがとう。じゃあ、帰りは頼むよ」
コウキ君は、手を挙げながら去っていった。
「なあ、マル。大丈夫なんだよな?」
佐々木君は何故か真剣な表情で尋ねて来たけど、僕は先ほどまで何かが動いていた場所を見つめた後に一言だけ答える。
「大丈夫だよ。本当にそんな怪奇なんてものがいたとしてもね」
◇
放課後。三人で歩いていると、ふいに空を見上げた佐々木君が口を開いた。
「なあ、本当に見たのか? どこにも影なんて見当たらないんだけど、ん? あれは……何だ鳥の群れが飛び立っただけか」
佐々木が見かけたのは、屋根の上に何羽か止まっていたのが飛び立つところだった。だけど、飛び立った理由には問題があった。一つの影が跳躍してきたからだ。
「う、うわああ、でた! あいつだよ、あいつ!」
コウキ君は必死に指で示すが、佐々木君には見えていないのか伝わることはなかった。
「何も見えないんだが……マルはどうだ?」
問われたので僕は答えずにはいられなくなってしまった。なので、答える。
「多分、アレのことじゃないかな?」
僕は先ほどとは異なる影を指し示した。
「げっ! なんだよアレは⁉︎ あれは怪奇じゃなくてただの変態じゃないか?」
そう、佐々木君の言う通り紛れもない変態だった。サンバの衣装に身を包んだヘンタイさんがそこにいたのだ。
手にはダチョウの衣装を持ち、屋根から屋根へと跳躍していた。そして、遂に獲物を捕獲して新たなヘンタイを生み出してしまった。
「……ごめん。俺の見間違いだったらしい」
強制的にタンゴを踊らされ始めた怪異を目の当たりにしてしまって、コウキ君が引いた目をしながらも謝罪を入れて来た。
「良かったじゃないか。怪異なんかじゃなくてさ」
佐々木君が、コウキ君の背中をポンと叩く。
「そうだね。それに誰だって間違いはあるからね」
そう、誰にでも……。
この町に来てしまったこと自体が間違いである存在から目を背けて、僕らは日常へと戻っていった。
一時間目の終わりを告げるチャイムと共に、コウキ君が現れた。気のせいかもしれないけど、瞳からは一筋の帯が薄らと見えた気がした。
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佐々木君が手慣れた様子でツッコミを入れた。
「何かを見てしまったからお終いってことなの?」
要領を得ない会話の中から、僕は手探りながらも何とか言いたそうなことがらを見出してみた。
「そうなんだよ。今朝俺が見たのは、家の屋根から、別の屋根に飛び移る黒い影を見たんだよ」
「なんだそれ? 泥棒が飛び移るところを見たって言うことなのか?」
「そんなんじゃないって。 何たって俺が見てしまったのは大人の人の二倍はある巨体だったんだから」
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「そう! そうなんだよ! 流石マル、怪奇現象と言ったらやっぱりマルに聞くのが一番だな!」
何故僕なんだろうという疑問を投げかける間も無く、佐々木君が続く。
「で、何でソイツを見たら終わりなんだ?」
「う、それは……」
コウキ君は、見る見るうちに青ざめていき、やがて重たい口を開いた。
「そいつを見たら近いうちに不幸が訪れるって言うんだよ」
「不幸ってどういうことだ?」
佐々木君は首を傾げながらも尋ねるが、僕には心当たりがあった。
見たら必ず不幸になるという黒い影。そいつは屋根の上から見下ろしていて、目が合ったものを不幸な目に遭わすそうだ。最悪の場合だと、死んでしまうこともあるらしい。
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そう言いながら窓の外の方に視線を動かすと、遠くの方で何かが動いた様な気がした。
「そ、そうかもしれないよな」
「うん、きっとそうだよ」
僕は、コウキ君を安心させるために満面の笑みで答えた。と、そこで二時限目の始まりを告げるチャイムの音が鳴り響く。
「もう時間なのか。あのさ、二人とも帰りに俺の家に遊びに来ないか? 菓子とかも出すからさ」
僕と佐々木君は顔を見合わせたあとに答える。
「怖いから来てって素直に言えばいいだろ」
「うん、僕たちの中なんだからさ、そんなに遠慮なんかしなくても大丈夫だよ」
「そうか、二人ともありがとう。じゃあ、帰りは頼むよ」
コウキ君は、手を挙げながら去っていった。
「なあ、マル。大丈夫なんだよな?」
佐々木君は何故か真剣な表情で尋ねて来たけど、僕は先ほどまで何かが動いていた場所を見つめた後に一言だけ答える。
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