15 / 33
14話 バレンタイン
しおりを挟む
二月十四日。女子はもちろんのこと男子も盛り上がるイベントの日。
僕たちの教室、五年一組もまた例外ではなく盛り上がりを見せていた。
「チョコ作ってみたんだけど、帰ったら渡すね」
「あ、私も作ってみたよ。猫を作ろうとしたんだけど、ちょっとライオンみたいになっちゃったんだよね」
「ライオンもかわいいよね」
「あたしはフレークと絡めたやつにしてみたよ。味はお父さんのお墨付きだから美味しいはずよ」
「みんな作ってたんだね」
「じゃあさ、みんなで何処かに集まって食べあおうよ」
「うん、そうしましょう」
女子たちは作ったチョコの話で盛り上がりながら、友チョコを食べあう約束をしていた。一方で男子はと言うと、女子の会話に耳を傾けるもの、さり気なく机の中を探るもの、大胆にも女子にねだりに行くものなどが蔓延っていた。
「まだだ、まだその時ではないだけなんだ。きっと本番は帰りの靴箱なんだ……」
遂には怨念めいた言葉まで聞こえ始めた。内心呆れつつも念の為、机の中を確認する。
「マルも興味があるんだな」
このクラスで唯一、浮足立っていない者――後ろの席に座るヒロキ君が声をかけてきた。
「興味というか、入ってたら回収してあげないとって感じかな。原則、学校に持ち込みは禁止だからまずないとは思うんだけどね」
「そう言われればそうか。渡す側ではないからすっかり忘れてたよ」
ヒロキ君の言葉に反応して、幾人かの男子から鋭い視線が送られる。だけど、ヒロキ君はそんな視線などものともせずに落ち着いていた。
(苑珠君たちから、直に『リア充め』なんて言われてたらそうもなるよね)
怨嗟を浴びることになれてしまったコウキ君を羨ましく思っていると、佐々木君が歩み寄ってきた。
「マル、ちょっといいか?」
「うん、いいけど」
返事をすると、佐々木君が僕の耳元に手を当てながらささやき始める。
「実は姉ちゃんからマルにって預かっているものがあってさ。ここじゃ何だから帰りに渡すよ」
僕がこくりと頷くと、佐々木君は「んじゃ、そういうことだから」と言って自身の席へと戻っていった。
佐々木君のお姉さんから預かっている物。そして、今日というバレンタインの日。間違いない。帰りに渡されるのはチョコだ。本命? それとも義理かな。どちらの場合もお返しって返すんだっけ?
人生初のことでそわそわしていると、後ろから祝福の言葉が聞こえてくる。
「マル、良かったな」
「う、うん」
周りに感づかれないようにさりげなく返したつもりだったけど、今日ばかりは一部の男子の感度が鋭くなっているようで、怨嗟の視線がこちらに向かってくる羽目になってしまった。
物の怪とかの視線なら気にならないのにな。僕がこの視線に耐えられるようになるには、まだまだ経験不足らしい。かと言って、ヒロキ君のように慣れたいとは思わないけど。
「まぁ、そのうち慣れるよ」
僕の心境を察してかヒロキ君は苦笑いをしていた。
◇
佐々木君から例のモノを受け取るべく、二人で下駄箱に向かっていると後方から誰かの声が聞こえてくる。
「おーい、二人とも俺を置いていくなんて酷いじゃないか」
振り返ると、そこにはコウキ君が立っていた。
「いや、お前と帰る約束してないからな」
「つれないこと言うなよ。幼馴染だろ」
そう言いながら、コウキくんは佐々木君の肩に腕を回して絡み始めた。
「今日はいつにも増して鬱陶しいな。マル、こいつを引きはがしてくれ」
「りょうかい」
苦笑いしながらも、僕はコウキくんを引きはがした。
「マルはいいよな。このあとチョコが貰えるんだから」
引きはがしたコウキ君のテンションはダダ下がりし、何故知っているのか分からない情報をもとに愚痴をもらし初めてた。
「何で知ってるの?」
「ああ、それは、こいつが朝に来て、俺が姉ちゃんにチョコを預かるところを見たからだよ」
「俺の分はなかったんだよなぁ」
「――まさか、朝早くに俺の家にきたのはチョコが目的だったのか」
何ていう執念なんだろう。まさか、チョコの亡者を生み出してしまうとは、バレンタイン恐るべき日なのかもしれない。
「まだ貰えないと決まったわけじゃないよ。下駄箱に入っている可能性もあるからね」
「そ、そうだった。まだ俺にも希望が残されていたんだな」
「いや、その希望。校則で望み薄だからな」
「く、チョコ貰えたからって余裕ぶりやがって。俺だって仲間入りするんだから見てろよな」
そう言うと、コウキ君は下駄箱目指して駆け出してしまった。
「俺ももらってないから」
横でため息をついている佐々木君とともに後を追う。
「クソ、終わっちまったよ。俺のバレンタイン……」
下駄箱につくと、靴箱の扉を開けたまま硬直しているコウキ君の姿があった。
「やっぱり、校則の影響だと思うよ。ほら、僕のも入ってなかったし」
僕が慰めている間、隣では佐々木君が靴箱から素早く何かを取り出して、鞄の中へと入れていた。そんな中、いついたのかも分からない男子生徒が僕たちのすぐ近くで項垂れていた。
「ない、ここにもない。なんで? どうして?」
チョコがなかったことに対してなのか、男子生徒はうわ言の様に呟いていた。
「お、お前もなのか。そうだよな、今時下駄箱に入っているなんて幻想なんだよな」
コウキ君が同調するように、彼の背中へと手を置く。すると、うわ言を繰り返すばかりの男子生徒が突如立ち上がり、コウキ君へと詰め寄った。
「お前か? お前が俺のチョコを取ったのか?」
振り向いたことで全貌が見えた男子生徒の顔は血の涙で赤く染まっていた。文字通り、血の涙を流している姿を見てしまったコウキ君は、恐怖のあまり崩れ落ちるようにして地へと伏してしまう。
「おい、大丈夫か?」
「コウキ君大丈夫?」
コウキ君が倒れたことで興味を失ったのか、また下駄箱を眺めて呟くだけになってしまった男子生徒を余所に僕たちはコウキ君へと呼びかけた。
「気を失ってるだけみたいだな」
「うん、頭も打ってなかったみたいだし大丈夫そうだね」
僕たちがほっと胸をなでおろしていると、校舎の入り口から何者かの息遣いが聞こえてくる。
「はぁはぁ、ま、待たせてしまったね」
聞きなれない男の声に僕たちは、一斉に振り向く。すると、そこには初代校長の像が籠を背負って立っていた。
「はい、キミ達にプレゼントだよ」
そう言って籠に入っていた包みを、僕、佐々木君、コウキくんに渡してきた。理解に苦しむ中、佐々木君から言葉が漏れた。
「チョコ宮金次郎」
うん。確かにぱっと見はそうと言えるのかもしれない。でも、実際はチョコで出来た校長の像が籠を背負っていて、籠の中には四角い箱を包んだような物が入っているだけだからまったくの別物だと思うよ。
「はぁはぁ、はい、キミにもプレゼントだよ」
チョコ宮は、呟くだけになってしまった男子生徒へと包みを差し出した。
「これは……義理。ちがう……これじゃない……俺が欲しいのは……本命ダアアア」
興奮するように叫び始めた男子生徒は凄まじい勢いで血の涙を垂れ流した。
「はぁはぁ、ほ、本命? なら、仕方ない。ひとつしかないけどよく味わって食べるんだよ」
チョコ宮は自身の頭に手をのせる。そして、手にしたものを勢いよく男子生徒の口へとねじ込もうとした。
「本命……チガウ……うう、そ、それは……かつらだああ!」
理性を取り戻したのか、男子生徒は口へと突っ込まれそうになったチョコかつらを回避して校庭へと逃げだした。贈呈先を取り逃がしたチョコ宮が急いで後を追う。
「なぁ、今のって?」
「チョコタイ……じゃなかった。不審者だね」
「そ、そうなのか。ってそっちはそうかもしれないけど、さっきの男子生徒って体調不良で早退したやつだよな」
「うん、そうだね」
「なんで学校に? それにあの血って……」
「チョコが気になりすぎて戻ってきたんじゃないかな。血は多分鼻血だと思うよ」
「鼻血って……」
佐々木君は納得していなそうだったけど僕は聞き流すことにした。
まさかチョコ欲しさで生霊が生まれてしまうとは。やはりバレンタインは恐ろしい日なのかもしれない。などと考えていると、コウキ君が目を覚ます。
「う、うーん。あれ? 俺は一体……」
「コウキ君目が覚めたんだね。チョコが貰えて喜んだと思った次の瞬間には気絶しちゃうんだもん。僕たちびっくりしちゃったよ」
「え? チョコ?」
「うん。ほらこれだよ」
僕の分も上乗せして差し出す。すると、便乗して佐々木君も渡してきた。
「すごいな。三つも貰えるなんてよ」
「うお、マジか。夢……じゃないんだよな?」
「うん、夢ではないよ」
「そうか。バレンタインって最高なんだな。あ、良かったら皆で食べるか? 俺だけこんなに食べるのも悪いし」
「いや、俺は遠慮するよ。送ってくれた相手に悪いしな」
佐々木君が爽やかな笑みを浮かべながら告げた。僕も便乗する。
「僕も同じく遠慮するよ」
「そ、そうか。なんか悪いな」
コウキ君は申し訳なさそうな顔をしていたが、口元はあふれ出す喜びを隠しきれてはいなかった。
「か、かつらが口の中にー」
校庭から誰かの叫びが聞こえてきたかと思うと、今度は校長たちの怒鳴り声が聞こえてきた。
「な、なんだ? 叫び声が聞こえたけど?」
「不審者が出たんじゃないかな」
コウキ君が慌てる中、僕は冷静に告げた。
「不審者ってやばいじゃん」
「かつらとか食べさせる不審者なのかもな」
佐々木君の一言で僕は笑ってしまった。同じく言った本人も笑ってしまう。
「なんでお前ら笑ってるんだよ。俺にも教えてくれよ」
しばしの間、校内では僕らの笑い声が木霊し、外では先生たちの怒鳴り声が響いていた。
僕たちの教室、五年一組もまた例外ではなく盛り上がりを見せていた。
「チョコ作ってみたんだけど、帰ったら渡すね」
「あ、私も作ってみたよ。猫を作ろうとしたんだけど、ちょっとライオンみたいになっちゃったんだよね」
「ライオンもかわいいよね」
「あたしはフレークと絡めたやつにしてみたよ。味はお父さんのお墨付きだから美味しいはずよ」
「みんな作ってたんだね」
「じゃあさ、みんなで何処かに集まって食べあおうよ」
「うん、そうしましょう」
女子たちは作ったチョコの話で盛り上がりながら、友チョコを食べあう約束をしていた。一方で男子はと言うと、女子の会話に耳を傾けるもの、さり気なく机の中を探るもの、大胆にも女子にねだりに行くものなどが蔓延っていた。
「まだだ、まだその時ではないだけなんだ。きっと本番は帰りの靴箱なんだ……」
遂には怨念めいた言葉まで聞こえ始めた。内心呆れつつも念の為、机の中を確認する。
「マルも興味があるんだな」
このクラスで唯一、浮足立っていない者――後ろの席に座るヒロキ君が声をかけてきた。
「興味というか、入ってたら回収してあげないとって感じかな。原則、学校に持ち込みは禁止だからまずないとは思うんだけどね」
「そう言われればそうか。渡す側ではないからすっかり忘れてたよ」
ヒロキ君の言葉に反応して、幾人かの男子から鋭い視線が送られる。だけど、ヒロキ君はそんな視線などものともせずに落ち着いていた。
(苑珠君たちから、直に『リア充め』なんて言われてたらそうもなるよね)
怨嗟を浴びることになれてしまったコウキ君を羨ましく思っていると、佐々木君が歩み寄ってきた。
「マル、ちょっといいか?」
「うん、いいけど」
返事をすると、佐々木君が僕の耳元に手を当てながらささやき始める。
「実は姉ちゃんからマルにって預かっているものがあってさ。ここじゃ何だから帰りに渡すよ」
僕がこくりと頷くと、佐々木君は「んじゃ、そういうことだから」と言って自身の席へと戻っていった。
佐々木君のお姉さんから預かっている物。そして、今日というバレンタインの日。間違いない。帰りに渡されるのはチョコだ。本命? それとも義理かな。どちらの場合もお返しって返すんだっけ?
人生初のことでそわそわしていると、後ろから祝福の言葉が聞こえてくる。
「マル、良かったな」
「う、うん」
周りに感づかれないようにさりげなく返したつもりだったけど、今日ばかりは一部の男子の感度が鋭くなっているようで、怨嗟の視線がこちらに向かってくる羽目になってしまった。
物の怪とかの視線なら気にならないのにな。僕がこの視線に耐えられるようになるには、まだまだ経験不足らしい。かと言って、ヒロキ君のように慣れたいとは思わないけど。
「まぁ、そのうち慣れるよ」
僕の心境を察してかヒロキ君は苦笑いをしていた。
◇
佐々木君から例のモノを受け取るべく、二人で下駄箱に向かっていると後方から誰かの声が聞こえてくる。
「おーい、二人とも俺を置いていくなんて酷いじゃないか」
振り返ると、そこにはコウキ君が立っていた。
「いや、お前と帰る約束してないからな」
「つれないこと言うなよ。幼馴染だろ」
そう言いながら、コウキくんは佐々木君の肩に腕を回して絡み始めた。
「今日はいつにも増して鬱陶しいな。マル、こいつを引きはがしてくれ」
「りょうかい」
苦笑いしながらも、僕はコウキくんを引きはがした。
「マルはいいよな。このあとチョコが貰えるんだから」
引きはがしたコウキ君のテンションはダダ下がりし、何故知っているのか分からない情報をもとに愚痴をもらし初めてた。
「何で知ってるの?」
「ああ、それは、こいつが朝に来て、俺が姉ちゃんにチョコを預かるところを見たからだよ」
「俺の分はなかったんだよなぁ」
「――まさか、朝早くに俺の家にきたのはチョコが目的だったのか」
何ていう執念なんだろう。まさか、チョコの亡者を生み出してしまうとは、バレンタイン恐るべき日なのかもしれない。
「まだ貰えないと決まったわけじゃないよ。下駄箱に入っている可能性もあるからね」
「そ、そうだった。まだ俺にも希望が残されていたんだな」
「いや、その希望。校則で望み薄だからな」
「く、チョコ貰えたからって余裕ぶりやがって。俺だって仲間入りするんだから見てろよな」
そう言うと、コウキ君は下駄箱目指して駆け出してしまった。
「俺ももらってないから」
横でため息をついている佐々木君とともに後を追う。
「クソ、終わっちまったよ。俺のバレンタイン……」
下駄箱につくと、靴箱の扉を開けたまま硬直しているコウキ君の姿があった。
「やっぱり、校則の影響だと思うよ。ほら、僕のも入ってなかったし」
僕が慰めている間、隣では佐々木君が靴箱から素早く何かを取り出して、鞄の中へと入れていた。そんな中、いついたのかも分からない男子生徒が僕たちのすぐ近くで項垂れていた。
「ない、ここにもない。なんで? どうして?」
チョコがなかったことに対してなのか、男子生徒はうわ言の様に呟いていた。
「お、お前もなのか。そうだよな、今時下駄箱に入っているなんて幻想なんだよな」
コウキ君が同調するように、彼の背中へと手を置く。すると、うわ言を繰り返すばかりの男子生徒が突如立ち上がり、コウキ君へと詰め寄った。
「お前か? お前が俺のチョコを取ったのか?」
振り向いたことで全貌が見えた男子生徒の顔は血の涙で赤く染まっていた。文字通り、血の涙を流している姿を見てしまったコウキ君は、恐怖のあまり崩れ落ちるようにして地へと伏してしまう。
「おい、大丈夫か?」
「コウキ君大丈夫?」
コウキ君が倒れたことで興味を失ったのか、また下駄箱を眺めて呟くだけになってしまった男子生徒を余所に僕たちはコウキ君へと呼びかけた。
「気を失ってるだけみたいだな」
「うん、頭も打ってなかったみたいだし大丈夫そうだね」
僕たちがほっと胸をなでおろしていると、校舎の入り口から何者かの息遣いが聞こえてくる。
「はぁはぁ、ま、待たせてしまったね」
聞きなれない男の声に僕たちは、一斉に振り向く。すると、そこには初代校長の像が籠を背負って立っていた。
「はい、キミ達にプレゼントだよ」
そう言って籠に入っていた包みを、僕、佐々木君、コウキくんに渡してきた。理解に苦しむ中、佐々木君から言葉が漏れた。
「チョコ宮金次郎」
うん。確かにぱっと見はそうと言えるのかもしれない。でも、実際はチョコで出来た校長の像が籠を背負っていて、籠の中には四角い箱を包んだような物が入っているだけだからまったくの別物だと思うよ。
「はぁはぁ、はい、キミにもプレゼントだよ」
チョコ宮は、呟くだけになってしまった男子生徒へと包みを差し出した。
「これは……義理。ちがう……これじゃない……俺が欲しいのは……本命ダアアア」
興奮するように叫び始めた男子生徒は凄まじい勢いで血の涙を垂れ流した。
「はぁはぁ、ほ、本命? なら、仕方ない。ひとつしかないけどよく味わって食べるんだよ」
チョコ宮は自身の頭に手をのせる。そして、手にしたものを勢いよく男子生徒の口へとねじ込もうとした。
「本命……チガウ……うう、そ、それは……かつらだああ!」
理性を取り戻したのか、男子生徒は口へと突っ込まれそうになったチョコかつらを回避して校庭へと逃げだした。贈呈先を取り逃がしたチョコ宮が急いで後を追う。
「なぁ、今のって?」
「チョコタイ……じゃなかった。不審者だね」
「そ、そうなのか。ってそっちはそうかもしれないけど、さっきの男子生徒って体調不良で早退したやつだよな」
「うん、そうだね」
「なんで学校に? それにあの血って……」
「チョコが気になりすぎて戻ってきたんじゃないかな。血は多分鼻血だと思うよ」
「鼻血って……」
佐々木君は納得していなそうだったけど僕は聞き流すことにした。
まさかチョコ欲しさで生霊が生まれてしまうとは。やはりバレンタインは恐ろしい日なのかもしれない。などと考えていると、コウキ君が目を覚ます。
「う、うーん。あれ? 俺は一体……」
「コウキ君目が覚めたんだね。チョコが貰えて喜んだと思った次の瞬間には気絶しちゃうんだもん。僕たちびっくりしちゃったよ」
「え? チョコ?」
「うん。ほらこれだよ」
僕の分も上乗せして差し出す。すると、便乗して佐々木君も渡してきた。
「すごいな。三つも貰えるなんてよ」
「うお、マジか。夢……じゃないんだよな?」
「うん、夢ではないよ」
「そうか。バレンタインって最高なんだな。あ、良かったら皆で食べるか? 俺だけこんなに食べるのも悪いし」
「いや、俺は遠慮するよ。送ってくれた相手に悪いしな」
佐々木君が爽やかな笑みを浮かべながら告げた。僕も便乗する。
「僕も同じく遠慮するよ」
「そ、そうか。なんか悪いな」
コウキ君は申し訳なさそうな顔をしていたが、口元はあふれ出す喜びを隠しきれてはいなかった。
「か、かつらが口の中にー」
校庭から誰かの叫びが聞こえてきたかと思うと、今度は校長たちの怒鳴り声が聞こえてきた。
「な、なんだ? 叫び声が聞こえたけど?」
「不審者が出たんじゃないかな」
コウキ君が慌てる中、僕は冷静に告げた。
「不審者ってやばいじゃん」
「かつらとか食べさせる不審者なのかもな」
佐々木君の一言で僕は笑ってしまった。同じく言った本人も笑ってしまう。
「なんでお前ら笑ってるんだよ。俺にも教えてくれよ」
しばしの間、校内では僕らの笑い声が木霊し、外では先生たちの怒鳴り声が響いていた。
1
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合系サキュバス達に一目惚れされた
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
青い祈り
速水静香
キャラ文芸
私は、真っ白な部屋で目覚めた。
自分が誰なのか、なぜここにいるのか、まるで何も思い出せない。
ただ、鏡に映る青い髪の少女――。
それが私だということだけは確かな事実だった。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる