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08話 フィッシュ!
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僕は寒空の中、友人たちと釣りをしているのだがバケツの中には水だけが入っている状態が続いていた。
「おーい、マル。調子はどうよ?」
少し離れた場所で釣りをしていた友人の一人である佐々木君が声をかけてきた。渋い顔をしているところを見るに僕と同じく結果はよくない様子。
「見ての通り、全然だめだよ」
僕はバケツの方を見ながら苦笑いした。
「お前もダメか。やっぱ早朝だから魚も寝てるのかね」
「そうかもしれないね」
「そういや、釣れそうな場所を探してくるとか言ってた奴らはどうなってるんだろうな」
「んー、僕の予想だと大量に釣れてそうな気がするよ。こないだ一緒にやったゲームでも気付けば大量に釣ってたし」
「あー、フルダイブの釣りゲーか。俺も先週あいつらに勝負を挑んでぼろ負けだったんだよな。釣りゲーなのに素潜りしだした挙句に、鮫と格闘し始めた時には改めてあいつらの格の違いを思い知らされたよ」
「ははは、あのゲーム、素潜りも出来からね。でも、釣りゲーなだけあって尋常じゃない力とかないのによくあんなこと出来るよね。僕だったらすぐに溺れて終わりそうだよ」
「だよな! 普通は溺れるよな。俺もあいつらの真似したら溺れたし……」
どうやら、目の前の彼は既に経験したらしい。僕も彼に倣って今度挑戦してみようかな。もちろん、結果は見えているだろうけど……。
「お、二人ともまだここで釣ってたのか。あっちの方はかなり釣れるぞ。お前らも向こうに行こうぜ!」
釣れる場所を求めて旅立っていたはずの一人が、僕たちを誘いに戻ってきてくれたらしい。
「噂をすればなんとやらだな」
「そうだね」
僕は佐々木君の言葉に相槌をうちながら、迎えに来た友人を見つめた。言われた友人は何のことだと言わんばかりに首をかしげていた。
「ところでガイのやつも一緒に行ったんじゃないのか?」
佐々木君がこの場にいない最後の一人について尋ねた。
「一緒に場所を探したんだけどさ、あいつ場所を見つけてすぐ『ちょっと走りたくなってきたから走ってくる』とか言い出したんだよ。今頃は何処かのコンビニから帰ってきてる頃だと思うぞ」
ガイ君は、相変わらず体を動かすことが好きなようだ。それにしてもコンビニから帰ってきてる頃とは、何かお使いでも頼んだのだろうか。
「コンビニからってお前、ついでだからって買い物頼んだな」
佐々木君が呆れ顔で言った。
「ああ、寒いからホットなやつをな。もちろん二人の分も頼んでおいたぞ」
本当にお使いを頼んでいたようだ。でも、僕が思うにその頼みは叶わない気がするな。何せ頼んだ相手が相手だしね。
「お、気が利くな。ちょうど温かい物でも買おうかと思っていたところだから助かるわ」
佐々木君はガイ君のことをよく分かっていないのか、嬉しそうに言った。
「ありがとう、お金はあとで払うね」
僕はあまり期待をしていないけど、お礼を言っておいた。
「じゃあ、そろそろ移動しようぜ」
「すぐ支度するから少し待ってて」
僕と佐々木君は、それぞれ仕掛けていた竿を回収した後によく釣れるという場所へと案内してもらった。
「ここなんだが……ってさっきまで人がいなかったのに一人増えてるな」
案内してくれた友人が、僕らのすぐ近くで釣りをしている人を視界に捉えながら言った。そして、その捉えている人は僕が知っているモノでもあった。
「あの人って確か、マルの家の下に住んでいる人じゃなかったか?」
友人は窓から覗いたことのある姿を思い出したらしい。
「そうかな」
僕はとりあえずはぐらかした。
「なあ、あの人凄い釣竿を使ってるけどプロなのか?」
佐々木君は、僕らのすぐ近くで釣りをするモノが持つ竿を見つめながら言った。その竿は、かなりの大物を釣る用の竿でとても太いものだった。そして、それを持つモノも太かった。
「流石にプロじゃないんじゃないかな」
僕は竿を持つ小太りの男を少しだけ見た後に言った。
「きっと人魚を釣るためだぞ」
突如、今までいなかった人物の声が僕らの後方から聞こえてきた。皆で後ろを振り向くと、そこには汗まみれになっている人物がさわやかな笑みを浮かべていた。
「お、ガイか。って流石に人魚はないだろ」
佐々木君がガイ君にツッコミを入れた。その一方でガイ君にお使いを頼んでいた者が疑問を投げかける。
「頼んでいたものは?」
「ん? あっ! すまん、パンだけ買って忘れた」
ガイ君は手に持っている袋を見せながら謝ってきた。
「仕方ない。本当はおでんが良かったけど、自販機で何かあったかい飲み物でも買うか」
「何が売ってるか分からないし俺も行くわ」
「俺も行くぞ」
三人が次々に声をあげていく。
「マルはどうする?」
佐々木君が尋ねてきた。
「僕は……」
僕はガイ君の言葉を聞いてからとあるモノを見つめ続けていた。それは、ヘンタイさんが持つ太い竿だった。
人魚。もしそんな物が釣れるモノがいるとするならば、僕らのすぐ近くにいるヘンタイさんしかいないはずだ。そして、そんな光景を見れるとしたら……。
「僕は、ここで待ってるよ」
「そうか。なら何か適当に買ってくるけどそれでいいか?」
「うん。それでお願い」
僕は心ここにあらずの状態で返事をした。そんな僕を置いて三人は自販機へと向けて歩いて行く。
彼らが行ってから数分が経過するとヘンタイさんの竿が揺れ始める。それとともに僕も息を飲み込む。
もしも、人魚であるならば一体どのような姿をしているんだろうか。やはり、一般的に言われている人の体に魚の下半身が付いたものなのだろうか。だとすると、下は魚なので何も纏っていないのは当然として上はどうしているのだろう。貝殻を着けているのか。それとも水着のようなものを着けているのか。はたまた、何も纏っていないとか。
ガイ君の言葉を聞いてから早くなっていた鼓動が更に加速していく。
固唾をのんで見守る中、ヘンタイさんによって太い竿が勢いよく持ち上げられていく。その一方で海面には人の頭らしきものが見えてきていた。僕の鼓動がこれ以上はどうにかなってしまいそうなほどに激しく高鳴っていく。
「フィィィィシュ!」
ヘンタイさんの掛け声とともに、竿にかかっていたモノの全貌が顕わになる。竿にかかっていたのは僕の想像していたよりもきれいな女性の人魚で、胸には何かの海藻が巻きついた様に絡まっているだけだった。僕の鼓動はこれまで体験したことのない領域へと突入する。
僕はヘンタイさんを除いて人類初となるであろう、この歴史的瞬間を脳裏に焼き付けるべく、一人だけを凝視した。だが、僕の瞼が限界をきたして閉じた次の瞬間には、信じられない光景が見えてしまった。
今までいたはずの金髪の美女である人魚が、姿を消してしまっていたのだ。その代わりに、今まで人魚がいた場所にはカッパのコスプレの着ぐるみを纏った女性が座っていた。
そう、ヘンタイさんの仕業で人魚はカッパの着ぐるみを着させられてしまったのだ。
「こんなのって……あんまりだ……」
僕と同じ感想を抱いたのか。人魚だったモノは、ヘンタイさんを突き飛ばしながら海へと帰っていった。多分、この先あの人魚が釣れることはないだろう。そう思ったら、僕の目から涙があふれ出てきてしまった。
「おーい、マル。おしるこ買ってきたぞー。ってなんでマル泣いてるんだよ」
「どうしたんだ? 針でも刺さったのか?」
「おーい、大丈夫か? だめだ、反応が返ってこない。一体何があったっていうんだよ」
友人たちが声をかけてくるが、僕はしばらくの間放心状態となり、涙を流し続けるだけしか出来なかった。
「おーい、マル。調子はどうよ?」
少し離れた場所で釣りをしていた友人の一人である佐々木君が声をかけてきた。渋い顔をしているところを見るに僕と同じく結果はよくない様子。
「見ての通り、全然だめだよ」
僕はバケツの方を見ながら苦笑いした。
「お前もダメか。やっぱ早朝だから魚も寝てるのかね」
「そうかもしれないね」
「そういや、釣れそうな場所を探してくるとか言ってた奴らはどうなってるんだろうな」
「んー、僕の予想だと大量に釣れてそうな気がするよ。こないだ一緒にやったゲームでも気付けば大量に釣ってたし」
「あー、フルダイブの釣りゲーか。俺も先週あいつらに勝負を挑んでぼろ負けだったんだよな。釣りゲーなのに素潜りしだした挙句に、鮫と格闘し始めた時には改めてあいつらの格の違いを思い知らされたよ」
「ははは、あのゲーム、素潜りも出来からね。でも、釣りゲーなだけあって尋常じゃない力とかないのによくあんなこと出来るよね。僕だったらすぐに溺れて終わりそうだよ」
「だよな! 普通は溺れるよな。俺もあいつらの真似したら溺れたし……」
どうやら、目の前の彼は既に経験したらしい。僕も彼に倣って今度挑戦してみようかな。もちろん、結果は見えているだろうけど……。
「お、二人ともまだここで釣ってたのか。あっちの方はかなり釣れるぞ。お前らも向こうに行こうぜ!」
釣れる場所を求めて旅立っていたはずの一人が、僕たちを誘いに戻ってきてくれたらしい。
「噂をすればなんとやらだな」
「そうだね」
僕は佐々木君の言葉に相槌をうちながら、迎えに来た友人を見つめた。言われた友人は何のことだと言わんばかりに首をかしげていた。
「ところでガイのやつも一緒に行ったんじゃないのか?」
佐々木君がこの場にいない最後の一人について尋ねた。
「一緒に場所を探したんだけどさ、あいつ場所を見つけてすぐ『ちょっと走りたくなってきたから走ってくる』とか言い出したんだよ。今頃は何処かのコンビニから帰ってきてる頃だと思うぞ」
ガイ君は、相変わらず体を動かすことが好きなようだ。それにしてもコンビニから帰ってきてる頃とは、何かお使いでも頼んだのだろうか。
「コンビニからってお前、ついでだからって買い物頼んだな」
佐々木君が呆れ顔で言った。
「ああ、寒いからホットなやつをな。もちろん二人の分も頼んでおいたぞ」
本当にお使いを頼んでいたようだ。でも、僕が思うにその頼みは叶わない気がするな。何せ頼んだ相手が相手だしね。
「お、気が利くな。ちょうど温かい物でも買おうかと思っていたところだから助かるわ」
佐々木君はガイ君のことをよく分かっていないのか、嬉しそうに言った。
「ありがとう、お金はあとで払うね」
僕はあまり期待をしていないけど、お礼を言っておいた。
「じゃあ、そろそろ移動しようぜ」
「すぐ支度するから少し待ってて」
僕と佐々木君は、それぞれ仕掛けていた竿を回収した後によく釣れるという場所へと案内してもらった。
「ここなんだが……ってさっきまで人がいなかったのに一人増えてるな」
案内してくれた友人が、僕らのすぐ近くで釣りをしている人を視界に捉えながら言った。そして、その捉えている人は僕が知っているモノでもあった。
「あの人って確か、マルの家の下に住んでいる人じゃなかったか?」
友人は窓から覗いたことのある姿を思い出したらしい。
「そうかな」
僕はとりあえずはぐらかした。
「なあ、あの人凄い釣竿を使ってるけどプロなのか?」
佐々木君は、僕らのすぐ近くで釣りをするモノが持つ竿を見つめながら言った。その竿は、かなりの大物を釣る用の竿でとても太いものだった。そして、それを持つモノも太かった。
「流石にプロじゃないんじゃないかな」
僕は竿を持つ小太りの男を少しだけ見た後に言った。
「きっと人魚を釣るためだぞ」
突如、今までいなかった人物の声が僕らの後方から聞こえてきた。皆で後ろを振り向くと、そこには汗まみれになっている人物がさわやかな笑みを浮かべていた。
「お、ガイか。って流石に人魚はないだろ」
佐々木君がガイ君にツッコミを入れた。その一方でガイ君にお使いを頼んでいた者が疑問を投げかける。
「頼んでいたものは?」
「ん? あっ! すまん、パンだけ買って忘れた」
ガイ君は手に持っている袋を見せながら謝ってきた。
「仕方ない。本当はおでんが良かったけど、自販機で何かあったかい飲み物でも買うか」
「何が売ってるか分からないし俺も行くわ」
「俺も行くぞ」
三人が次々に声をあげていく。
「マルはどうする?」
佐々木君が尋ねてきた。
「僕は……」
僕はガイ君の言葉を聞いてからとあるモノを見つめ続けていた。それは、ヘンタイさんが持つ太い竿だった。
人魚。もしそんな物が釣れるモノがいるとするならば、僕らのすぐ近くにいるヘンタイさんしかいないはずだ。そして、そんな光景を見れるとしたら……。
「僕は、ここで待ってるよ」
「そうか。なら何か適当に買ってくるけどそれでいいか?」
「うん。それでお願い」
僕は心ここにあらずの状態で返事をした。そんな僕を置いて三人は自販機へと向けて歩いて行く。
彼らが行ってから数分が経過するとヘンタイさんの竿が揺れ始める。それとともに僕も息を飲み込む。
もしも、人魚であるならば一体どのような姿をしているんだろうか。やはり、一般的に言われている人の体に魚の下半身が付いたものなのだろうか。だとすると、下は魚なので何も纏っていないのは当然として上はどうしているのだろう。貝殻を着けているのか。それとも水着のようなものを着けているのか。はたまた、何も纏っていないとか。
ガイ君の言葉を聞いてから早くなっていた鼓動が更に加速していく。
固唾をのんで見守る中、ヘンタイさんによって太い竿が勢いよく持ち上げられていく。その一方で海面には人の頭らしきものが見えてきていた。僕の鼓動がこれ以上はどうにかなってしまいそうなほどに激しく高鳴っていく。
「フィィィィシュ!」
ヘンタイさんの掛け声とともに、竿にかかっていたモノの全貌が顕わになる。竿にかかっていたのは僕の想像していたよりもきれいな女性の人魚で、胸には何かの海藻が巻きついた様に絡まっているだけだった。僕の鼓動はこれまで体験したことのない領域へと突入する。
僕はヘンタイさんを除いて人類初となるであろう、この歴史的瞬間を脳裏に焼き付けるべく、一人だけを凝視した。だが、僕の瞼が限界をきたして閉じた次の瞬間には、信じられない光景が見えてしまった。
今までいたはずの金髪の美女である人魚が、姿を消してしまっていたのだ。その代わりに、今まで人魚がいた場所にはカッパのコスプレの着ぐるみを纏った女性が座っていた。
そう、ヘンタイさんの仕業で人魚はカッパの着ぐるみを着させられてしまったのだ。
「こんなのって……あんまりだ……」
僕と同じ感想を抱いたのか。人魚だったモノは、ヘンタイさんを突き飛ばしながら海へと帰っていった。多分、この先あの人魚が釣れることはないだろう。そう思ったら、僕の目から涙があふれ出てきてしまった。
「おーい、マル。おしるこ買ってきたぞー。ってなんでマル泣いてるんだよ」
「どうしたんだ? 針でも刺さったのか?」
「おーい、大丈夫か? だめだ、反応が返ってこない。一体何があったっていうんだよ」
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