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05話 狙うモノ、狙われるモノ
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僕は塾終わりに街灯が殆どない暗がりの中を歩く羽目になっていた。
今までは、こんな路地裏を夜中に通ったことはなかったのだが、通っていた塾の場所が今日から変わってしまい、通らざる負えなくなってしまったのだ。
厄介な類のモノが出なければいいんだけどと思いながらも、人気のない夜道を突き進んでいく。
塾から家まで半分の距離まで差し掛かったところで、僕は前方にいくつかの人影があることに気づいた。遠目ながらも人影のある場所を見据える。街灯の真下には自販機があり、その前には長いコートを着込んだマスク姿の女性が立っていた。
僕はその姿を見て、担任の言葉を思い出す。
『最近不審者が出ているので気を付けてください』
そう告げた後に付け加えられた特徴は、前方にいる髪の長い女性と一致していた。
これは、もしかして……噂になっている……。
僕の鼓動が少しだけ早くなっていく。
(そういえば、遭遇した男子生徒の一人が、僕たちに対して語ってくれたっけ)
遭遇した生徒が語る瞬間を思い出す。
彼は興奮するような顔で語ってくれた――『凄かった』の一言だけを。
僕の鼓動が更に加速していく。
凄かったとは一体どれだけ凄いことなのだろうか。僕には到底理解が及ばない。実際に彼から詳細を問いただそうとした人もいたけど、彼は口を閉ざして何も語りはしなかった。故に、その詳細は自分自身で確かめるしかないのだ。
僕の足は、鼓動と共に加速していった。
僕が女性のすぐ近くまで行くと、その時が来たとばかりに女性が動きを見せた。僕は思わず唾を飲み込む。
「わたしキレイ?」
女性が聞いてくるので、僕は財布を取り出して隣にある自販機へと金を入れた。
「ねえ、わたしキレイ?」
その言葉に反応して、僕らの向かい側で佇んでいるモノが動き出す。
「ハァハァ、す、すばらしい」
気配を殺して佇んでいたモノ――つまり、ヘンタイさんである。
「……これでも?」
僕が答えたわけでもないのに、女性はマスクを外して裂けた口を僕に見せつけてくる。対して僕はというと、自販機に映り込む彼女を無視してジュースを選んでいた。
「ハァハァ、その可愛らしい口でボクの耳を噛んでくれないかな」
ヘンタイさんが、僕と彼女の間に入り込んで、耳を押し付け始めた。
「ウソヲツクナァー!」
いつから手に持っていたのか分からないハサミが、ヘンタイさんの首元を襲った。
だが、血しぶきの代わりに、首から空気が抜けていくような音が聞こえてくる。
「ハヤクゥゥゥカンデェェェ」
萎んでいくヘンタイさんが、彼女の裾を掴む。
「ヒィ、こっちに来るなぁ」
彼女は怯えながらもしわしわになってしまったヘンタイさんを振りほどこうとしていた。そんな二人をよそ眼に、僕はジュースを一気に飲み干す。
「さて、水分補給もすんだし、早く帰ろっと」
僕は二人を背にして、再び家へと向けて歩き始めた。
今までは、こんな路地裏を夜中に通ったことはなかったのだが、通っていた塾の場所が今日から変わってしまい、通らざる負えなくなってしまったのだ。
厄介な類のモノが出なければいいんだけどと思いながらも、人気のない夜道を突き進んでいく。
塾から家まで半分の距離まで差し掛かったところで、僕は前方にいくつかの人影があることに気づいた。遠目ながらも人影のある場所を見据える。街灯の真下には自販機があり、その前には長いコートを着込んだマスク姿の女性が立っていた。
僕はその姿を見て、担任の言葉を思い出す。
『最近不審者が出ているので気を付けてください』
そう告げた後に付け加えられた特徴は、前方にいる髪の長い女性と一致していた。
これは、もしかして……噂になっている……。
僕の鼓動が少しだけ早くなっていく。
(そういえば、遭遇した男子生徒の一人が、僕たちに対して語ってくれたっけ)
遭遇した生徒が語る瞬間を思い出す。
彼は興奮するような顔で語ってくれた――『凄かった』の一言だけを。
僕の鼓動が更に加速していく。
凄かったとは一体どれだけ凄いことなのだろうか。僕には到底理解が及ばない。実際に彼から詳細を問いただそうとした人もいたけど、彼は口を閉ざして何も語りはしなかった。故に、その詳細は自分自身で確かめるしかないのだ。
僕の足は、鼓動と共に加速していった。
僕が女性のすぐ近くまで行くと、その時が来たとばかりに女性が動きを見せた。僕は思わず唾を飲み込む。
「わたしキレイ?」
女性が聞いてくるので、僕は財布を取り出して隣にある自販機へと金を入れた。
「ねえ、わたしキレイ?」
その言葉に反応して、僕らの向かい側で佇んでいるモノが動き出す。
「ハァハァ、す、すばらしい」
気配を殺して佇んでいたモノ――つまり、ヘンタイさんである。
「……これでも?」
僕が答えたわけでもないのに、女性はマスクを外して裂けた口を僕に見せつけてくる。対して僕はというと、自販機に映り込む彼女を無視してジュースを選んでいた。
「ハァハァ、その可愛らしい口でボクの耳を噛んでくれないかな」
ヘンタイさんが、僕と彼女の間に入り込んで、耳を押し付け始めた。
「ウソヲツクナァー!」
いつから手に持っていたのか分からないハサミが、ヘンタイさんの首元を襲った。
だが、血しぶきの代わりに、首から空気が抜けていくような音が聞こえてくる。
「ハヤクゥゥゥカンデェェェ」
萎んでいくヘンタイさんが、彼女の裾を掴む。
「ヒィ、こっちに来るなぁ」
彼女は怯えながらもしわしわになってしまったヘンタイさんを振りほどこうとしていた。そんな二人をよそ眼に、僕はジュースを一気に飲み干す。
「さて、水分補給もすんだし、早く帰ろっと」
僕は二人を背にして、再び家へと向けて歩き始めた。
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