1 / 33
01話 ヘンタイさん
しおりを挟む
「何度やっても勝てる気がしないよ」
「いやいや、マルが弱いだけだろ」
僕の家で友人とパズルゲームをしているのだが、何度やっても彼には勝てなかった。でも、それは仕方のないことなのだ。僕と友人とでは腕前に差がありすぎている上に、彼は僕たちが通う小学校で『ゲーム四天王』とまで呼ばれる程の腕前なのだから。
「今度は、協力プレイのやつやらない?」
いつまでも彼に勝てそうにないので、協力ものを提案してみた。
「協力か。いいぜ」
彼の返答を聞いてから、FPS系統のパッケージからディスクを取り出し、ゲーム機の中の物と入れ替える。
「それにしても、マルってレトロな物好きだよな。今はフルダイブ型が主流なのに」
「レトロにも良さがあるんだよ。例えば今やってるゲーム機だけど、こうやってお菓子とか食べながら出来るでしょ」
「あー、なるほどな。フルダイブじゃ友達の家に行って菓子を食いながらやるってこと出来ないもんな」
彼はそう言いながら、皿の上に載っている最後のクッキーを食べた後に、コップに入ったジュースを一気に飲み干した。隣に座っている僕も同様にジュースを一気に飲み干して立ち上がる。
「ジュースのお代わりと追加のお菓子を持ってくるよ。ちょっと待っててね」
「お、サンキューな」
僕は台所に着くと、お盆をテーブルの上に置いてから冷蔵庫の方を振り向いた。すると、僕の視界には明らかにこの世の者とは思えない手が映りこむ。それは、冷蔵庫の前の床から伸びていた。
僕は気づかぬ振りをして、冷蔵庫からジュースを取り出しテーブルまで戻る。そして、二つのコップにジュースを注いでいると、手の主がついに床から突き抜けてきて顔を覗かせる。その手の主は、もの言いたげな顔をしている女性だった。
コップに注ぎ終わり、器にお菓子を追加していると、視界の片隅では女性が徐々に上がってきていた。体が上半身ほど出かけたところで、何故かその全身は勢いよく下へと沈んでいった。
何事もなかったようにジュースを冷蔵庫に入れなおして、お盆を持って友人の待つ部屋へと戻る。
「お待たせ」
「なあ、さっきから下が騒がしいんだけど何かあったのか?」
友人は、何か面白いことがあるんじゃないかというような顔をして聞いてきた。
「さあ、どうだろうね」
僕は素っ気なく返事をした。下の様子を見に行ってみようと言われては困るからだ。
僕が住んでいるアパートの下――つまり一階にはヘンタイさんが住んでいる。その彼には関わってはいけないのだ。
「気になるなぁ」
ぶつぶつ言っている友人を受け流し、僕はお盆を床に置こうとした。のだが、置こうとしていた場所から、突如二つの丸い何かが突き出てくる。
僕は動じずに、本来置こうとしていた場所の横にお盆を置いて座り込む。友人は早速皿の上のお菓子に手をつけ始めていたが、その横では着実にその物体が伸びていた。
僕も友人に倣って菓子を食べていると、ついにその物体の正体が明らかになった。それは、ウサギの耳を頭から生やした先ほどの女性だった。目元にはうっすらと涙を浮かべている。だがしかし、その顔はまたしても勢いよく沈んでしまった。
僕の鼓動が早くなっていくのを感じる。
「また騒がしくなったな、様子見に行ってみようぜ」
友人は唐突に立ち上がり声をかけてきた。
ウサギか……。
ゴクリと唾を飲み込んだ後に、決心して口を開く。
「そんなに気になるなら仕方ないなぁ。外から様子を見てみようか」
「お、それじゃ早速行こうぜ!」
友人は速足で外へと向かっていった。その後を追うように僕も外へと向かう。
外へ出て階段を下りたあと、すぐに僕の家の真下――つまりヘンタイさんがいるであろう部屋の窓までやってきた。
「ここか、一体何をしているんだ?」
友人が窓に近づいていく。僕は少し離れた場所から中の様子を窺う。
中にはヘンタイさんだけがいて、涙を流しながらうなだれていた。そして、その傍らにはバニースーツが落ちていた。
「アイツなにやってるんだ?」
友人は呆れた顔で彼を見ている。
あれ……なんだろう? もらい泣きかな。
僕の目から涙が溢れてくる。
僕は拳をギュッと握り、涙がこぼれない様に空を見上げた。すると、そこには天へと昇っていくウサミミを生やした女性の姿があった。
「えっ!? なんでマルまで泣いてるんだよ?」
「いやいや、マルが弱いだけだろ」
僕の家で友人とパズルゲームをしているのだが、何度やっても彼には勝てなかった。でも、それは仕方のないことなのだ。僕と友人とでは腕前に差がありすぎている上に、彼は僕たちが通う小学校で『ゲーム四天王』とまで呼ばれる程の腕前なのだから。
「今度は、協力プレイのやつやらない?」
いつまでも彼に勝てそうにないので、協力ものを提案してみた。
「協力か。いいぜ」
彼の返答を聞いてから、FPS系統のパッケージからディスクを取り出し、ゲーム機の中の物と入れ替える。
「それにしても、マルってレトロな物好きだよな。今はフルダイブ型が主流なのに」
「レトロにも良さがあるんだよ。例えば今やってるゲーム機だけど、こうやってお菓子とか食べながら出来るでしょ」
「あー、なるほどな。フルダイブじゃ友達の家に行って菓子を食いながらやるってこと出来ないもんな」
彼はそう言いながら、皿の上に載っている最後のクッキーを食べた後に、コップに入ったジュースを一気に飲み干した。隣に座っている僕も同様にジュースを一気に飲み干して立ち上がる。
「ジュースのお代わりと追加のお菓子を持ってくるよ。ちょっと待っててね」
「お、サンキューな」
僕は台所に着くと、お盆をテーブルの上に置いてから冷蔵庫の方を振り向いた。すると、僕の視界には明らかにこの世の者とは思えない手が映りこむ。それは、冷蔵庫の前の床から伸びていた。
僕は気づかぬ振りをして、冷蔵庫からジュースを取り出しテーブルまで戻る。そして、二つのコップにジュースを注いでいると、手の主がついに床から突き抜けてきて顔を覗かせる。その手の主は、もの言いたげな顔をしている女性だった。
コップに注ぎ終わり、器にお菓子を追加していると、視界の片隅では女性が徐々に上がってきていた。体が上半身ほど出かけたところで、何故かその全身は勢いよく下へと沈んでいった。
何事もなかったようにジュースを冷蔵庫に入れなおして、お盆を持って友人の待つ部屋へと戻る。
「お待たせ」
「なあ、さっきから下が騒がしいんだけど何かあったのか?」
友人は、何か面白いことがあるんじゃないかというような顔をして聞いてきた。
「さあ、どうだろうね」
僕は素っ気なく返事をした。下の様子を見に行ってみようと言われては困るからだ。
僕が住んでいるアパートの下――つまり一階にはヘンタイさんが住んでいる。その彼には関わってはいけないのだ。
「気になるなぁ」
ぶつぶつ言っている友人を受け流し、僕はお盆を床に置こうとした。のだが、置こうとしていた場所から、突如二つの丸い何かが突き出てくる。
僕は動じずに、本来置こうとしていた場所の横にお盆を置いて座り込む。友人は早速皿の上のお菓子に手をつけ始めていたが、その横では着実にその物体が伸びていた。
僕も友人に倣って菓子を食べていると、ついにその物体の正体が明らかになった。それは、ウサギの耳を頭から生やした先ほどの女性だった。目元にはうっすらと涙を浮かべている。だがしかし、その顔はまたしても勢いよく沈んでしまった。
僕の鼓動が早くなっていくのを感じる。
「また騒がしくなったな、様子見に行ってみようぜ」
友人は唐突に立ち上がり声をかけてきた。
ウサギか……。
ゴクリと唾を飲み込んだ後に、決心して口を開く。
「そんなに気になるなら仕方ないなぁ。外から様子を見てみようか」
「お、それじゃ早速行こうぜ!」
友人は速足で外へと向かっていった。その後を追うように僕も外へと向かう。
外へ出て階段を下りたあと、すぐに僕の家の真下――つまりヘンタイさんがいるであろう部屋の窓までやってきた。
「ここか、一体何をしているんだ?」
友人が窓に近づいていく。僕は少し離れた場所から中の様子を窺う。
中にはヘンタイさんだけがいて、涙を流しながらうなだれていた。そして、その傍らにはバニースーツが落ちていた。
「アイツなにやってるんだ?」
友人は呆れた顔で彼を見ている。
あれ……なんだろう? もらい泣きかな。
僕の目から涙が溢れてくる。
僕は拳をギュッと握り、涙がこぼれない様に空を見上げた。すると、そこには天へと昇っていくウサミミを生やした女性の姿があった。
「えっ!? なんでマルまで泣いてるんだよ?」
1
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合系サキュバス達に一目惚れされた
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
青い祈り
速水静香
キャラ文芸
私は、真っ白な部屋で目覚めた。
自分が誰なのか、なぜここにいるのか、まるで何も思い出せない。
ただ、鏡に映る青い髪の少女――。
それが私だということだけは確かな事実だった。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる