行方不明の幼馴染みが異世界で勇者になってたらしい

肉球パンチ

文字の大きさ
上 下
44 / 44
第1章

閑話 邂逅(ノバラの視点)

しおりを挟む
こんにちは。ノバラです! 
フォンド村にある唯一の宿屋兼食堂&酒場である『赤い狐亭』の娘です。ちょっとうちの家族を紹介すると、お父さんは人族で、腕のいい料理人。お母さんは狐人族で、村一番の美人さんです。わたしもお母さんと同じ狐人族でフワフワの尻尾が自慢なの! なんだけど、顔はお母さんに似てないんだよね……。髪の色はお父さんと同じ赤だし。
あ、別に、わたしが赤い髪で狐人族だから『赤い狐亭』ってわけじゃないんですよ。フォンド村がある山には赤い毛色の狐『クリムゾンフォックス』が生息していて、このお店を始めたご先祖様が、その狐を飼ってたらしいんです。その子が名前の由来。だから、お店の看板にも、クリムゾンフォックスの特徴である3本の尻尾が描かれてるんですよ。

そんなわたし達だけど、実はうちの一族には秘密があります。なんと! 私の曽祖父ひいおじいちゃんは『地球』というところからやって来た異世界人だったんです!!

って言っても、わたしが生まれる前に曽祖父ひいおじいちゃんは亡くなってて、異世界人なんて言われてもピンとこなかったんですよねー。他の異世界人にも会った事なかったし。そーいうわけで、曽祖父ひいおじいちゃんの話なんてホントは作り話なんじゃないの? くらいに思ってたんですよねー。――あの日までは。

あれはほんの数日前のこと。この田舎のフォンド村に行商人以外の人が来るのは久しぶりのことだったんだけど、4人の旅人さんが突然やってきました。話した感じ、悪い人には全然見えなかったんだけど、なーんか怪しい人達だなって思ってたんです。だって、隣のトリス村から来るにしても、国境の山を越えてノストラーダ王国から来るにしても、途中で絶対野宿してるはずなんです。なのに、この人達は強そうには見えないのに護衛はいないし、荷物も少ないし。それに、小奇麗だけど変わった格好だし……。ね? 怪しさ満点でしょ?

そう思ってたら翌日の朝、3部屋に別れて泊まってたその人達が、みんなで1部屋に入っていくのを見ちゃって。だから、2階の客室前の廊下を掃除するフリをして、思わず聞き耳立てちゃったんですよね。もちろん、そんなことしちゃいけないのは分かってるんだけど。でもでも、集まって何か悪い計画でも立ててたらいけないと思って……。誓って言うけど、正義感からの行動なんですよ! 決して好奇心からじゃないですからね! 正義感! 

狐人族のわたしは、人族より耳がいいんです。だから、ちゃんと掃除しながら聞いてたんですよ? もちろん壁越しだから所々しか聞き取れないし、掃除道具を用意してたので最初の方は聞き逃しましたけど。
そしたら、スキルがどーのこーのとか、人捜ししてる風な事を言っていて。そこまではいいんだけど「野宿が心配」とか「お金を用意しなきゃ」とか言い出したんですよね。

うーん、やっぱりなんか怪しい。なんて考え込んでたら「異世界転移」って言葉が耳に飛び込んできたんです! へ? って感じでした。考え事してたし聞き間違いかな? って。でも気になって、部屋のドアに寄りかかるようにしてしっかり聞くことにしたんです。そしたら今度はお金を得るための算段をし始めて。

なーんだ、やっぱり聞き間違いかー。ってドアから離れようとしたら「この世界の情報が欲しい」だとか「魔法を使えるようになりたい」だとか、挙句、曽祖父ひいおじいちゃんのことまで……。聞き耳立ててる罪悪感と少しのスリルで、ずっとドキドキしてたんですけど、もう、心臓がバクバクいいはじめて! 今までの彼らの断片的な話とか、お母さんから聞いてた曽祖父ひいおじいちゃんの話とか、考え合わせたらもう、彼らが何者なのか、答えは一つしか浮かばなくて。

だけど、わたしは曽祖父ひいおじいちゃんの話を全部本当のことだなんて信じてなかったから、思い至った答えをすぐには認められなくて、頭がグルグルしてきちゃったんですよね。そしたらついに決定的な言葉が! 「地球から転移してきた」って! それを聞いた瞬間、もう認めるしかなかったんですけど、頭の中が真っ白になっちゃって、持ってたモップを落としてしまったんです。

――ヤバイ!! どうしよう!?

そう思ったけど体が固まって動かなくて。ドアの向こうも静かだし、このまま静かにしてたら音は気のせいだったと思ってスルーしてくれないかな? なんて淡い期待をしちゃいました。そしたら次の瞬間、もたれかかってたドアが急に開いて部屋の中に倒れこんでしまって。一瞬何が起こったのかわからなかったんです。だけどみなさんの視線に気付いたらサーっと血の気が引いていきました。もう何も考えられなくって、とりあえず謝るだけ謝って逃げ出してしまいました。

その後は厨房に逃げてお水を飲んで、少し気持ちを落ち着けました。とりあえずお母さんに知らせなきゃ! と思って探しに行きました。もちろん盗み聞きしたことは怒られるだろうけど、黙ってなんていられません。この時間なら、食材の仕入れにターナーさんの所へ行って、そろそろ帰ってくる頃です。そう思って裏庭へ出て、庭の裏口から敷地外へ出ました。余談ですが、食材を運んでくるときは、直接厨房に入れられる裏口を使うんです。案の定、2~3分走ったところでお母さんに会えたので、ヒソヒソとさっきのことを話しました。

こんなこと、色んな意味で大きな声では話せません。だってそうでしょ? 異世界なんて頭オカシイと思われそうだし、それを理由に彼らに危害が与えられないとも限らないし、宿の娘がお客様の部屋を盗み聞きしたなんて知られたらマズイし……。
ええ、もちろんガッツリ怒られましたよ。美人が笑顔で怒るのって、迫力ありすぎで本っっ当に怖いですね。こんなに怒られたのは、1年くらい前に『ウォーターアロー』の軌道を変える練習を裏庭でやって、失敗して井戸の桶に穴を開けてしまって以来でした。って、そんな失敗談はどうでもいいですね。

お母さんに話した後は、食堂で旅人さんたちとゆっくりお話しました。旅人さん達は本当に、曽祖父ひいおじいちゃんが住んでいたという異世界の「日本」という所から来たみたいです。お母さんの話す曽祖父ひいおじいちゃんの事に興味津々といった感じでした。

それで、もう1回ちゃんと謝っておこうと思って謝ったんだけど、盗み聞きしてしまったことは怒られませんでした。4人とも全然気にしてないって感じの表情で。それどころか、ずっと中心になって喋ってた男の人――ユースケさんというらしい――は、お店の信用に関わるから気をつけるように、と注意してくれました。最後は少し厳しい口調になってましたけど、心配するような優しい顔を向けてくれて。優しいお兄ちゃんって感じで、ちょっと嬉しくなっちゃいました!
だから、お母さんは曽祖父ひいおじいちゃんの遺言がなんとかって言ってましたけど、わたしはそんなの関係なく、何でも教えてあげよう! 力になろう! って思いました。

それからアリアのことを色々教えたり、逆に地球のことを教えてもらったり、魔法や戦いの訓練を一緒にしたり……。みんなと一緒にいるのはとっても楽しくて、みんなのことが大好きになっちゃいました! ミーコさんとサーヤさんに誘われて女子会というのもしたけど、なんだか変なテンションになっちゃって……、だけど本っ当に楽しかったな~!
せっかく仲良くなれたから、お別れはとっても寂しいです。でも、ミーコさんのお兄さんを捜す旅だから、引き留めることはできないですよね。お兄さんが見つかったら、またここに戻ってきてくれるといいなぁ。みんなもお兄さんも、どうか無事で会えますように……。
しおりを挟む
誠に勝手ながら、こちらの作品は、2017年12月1日の投稿をもって無期限の休止にさせていただきます。次話からは2章に突入予定でおりますが、また書き溜めができれば再開するかと思います。気長にお待ちいただければ幸いです。ここまで読んでくださってありがとうございました。
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン
ファンタジー
ブラック企業に勤めてたのがいつの間にか死んでたっぽい。気がつくと異世界の伯爵令嬢(第五子で三女)に転生していた。前世働き過ぎだったから今世はニートになろう、そう決めた私ことマリアージュ・キャンディの奮闘記。 ※この小説はフィクションです。実在の国や人物、団体などとは関係ありません。 ※2020-01-16より執筆開始。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

光のもとで1

葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。 小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。 自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。 そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。 初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする―― (全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます) 10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。

(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。

水無月あん
恋愛
本編完結済み。 6/5 他の登場人物視点での番外編を始めました。よろしくお願いします。 王太子の婚約者である、公爵令嬢のクリスティーヌ・アンガス。両親は私には厳しく、妹を溺愛している。王宮では厳しい王太子妃教育。そんな暮らしに耐えられたのは、愛する婚約者、ムルダー王太子様のため。なのに、異世界の聖女が来たら婚約解消だなんて…。 私のお話の中では、少しシリアスモードです。いつもながら、ゆるゆるっとした設定なので、お気軽に楽しんでいただければ幸いです。本編は3話で完結。よろしくお願いいたします。 ※お気に入り登録、エール、感想もありがとうございます! 大変励みになります!

処理中です...