行方不明の幼馴染みが異世界で勇者になってたらしい

肉球パンチ

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第1章

第39話 獣人

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マックスを伴って『赤い狐亭』に戻ってきた。

「ほんとに明日、出発しちゃうの?」

食堂の席につくなりマックスが尋ねてくる。しゅぅんと垂れた犬耳が可愛い。

「うん。全然遊んだりできなくてごめんね」

ミーコが申し訳なさそうに答える。

「それは、オレも畑の手伝いで忙しかったからしょうがないよ。でも、この国のこととか色々教えるって約束してたから……」

そういえば、サーヤが「教えてね」とか言ってたんだよな。まぁあの時だけでも色々教えてもらえて助かったんだけど。そう思っていると、今度はサーヤが俯いたマックスの顔を覗き込みながら言う。

「じゃあ、今日これから色々教えてくれる?」

「う、うん! もちろん! 何でも聞いてよ!」

とたん、マックスの顔がパァっと明るくなり、垂れていた耳もシャキっと立っている。感情が耳や尻尾に表れるのは、見ていて面白いな。

しかし、アリアやエステバン王国の一般常識やら大まかな地理やらは、既にアヤメさんやケビンさんに聞いている。今さらマックスに聞きたいことも思い浮かばないのだが……。サーヤは何を聞くつもりなんだろうか?

「それじゃあ、えーっと……、そうそう! 私達のいたところには人族しかいなかったから、獣人族についえ教えてくれるかな?」

おお! 俺としたことが、なぜ今までそれに思い至らなかったのか。サーヤ、ナイスだ!

「へ~、そうなの? でも獣人って、耳や尻尾があるだけで他は人族とほとんど同じだよ?」

「そうなの? でも耳と尻尾だけでも興味深いわ。前に耳は触られるとくすぐったいって言ってたよね? 尻尾はどんな感じなの?」

「尻尾か~。えっと、尻尾もちょっとくすぐったいかな。種族にもよるけど、たいていの獣人族は尻尾をとっても大事にしてるんだ! 尻尾がキレイじゃないとモテないわよ、って母さん言ってたし」

なるほど。確かにフワフワモフモフな尻尾は魅力的だな。

「マックスくんのシッポもフワフワで可愛いよね! シッポ触っていい?」

ミーコが、言いながら既に手を伸ばしている。俺も尻尾を撫でたい衝動にかられるが、マックスが嫌がっているようなので、動きかけた手を引っ込めた。

「えっ! ちょ、ちょっと待ってミーコ姉ちゃん!」
「いいじゃん、減るもんじゃないし」
「わっ、ま、待って、やめてー!」
「わ~、やっぱりフワフワ~!」
「ぎゃー!!」

減るもんじゃないから触らせろ、ってセクハラオヤジか。

「もー、ちょっとくらいいいじゃん。この前は耳も触ったし!」

「ダメなんだよぉ~。この前のこと母さんに話したら、耳や尻尾は簡単に触らせちゃダメって言われたんだ。触ったり触らせてもいいのは、恋人や夫婦だけだって……」

「「「……」」」

なるほど、要は獣人の耳や尻尾は敏感な性感帯のようなものだと。マックスはまだ10歳くらいだから「くすぐったい」と表現したが、そりゃあ気軽に揉み倒しちゃダメだろう。あー良かった、俺は思い止まって。
マックスは、またもや耳をしゅぅんと垂らし、尻尾を足の間に巻き込んで涙目になっている。その様があまりに可哀相で、皆でミーコに冷たい視線を送った。

「う、ご、ごめんねマックスくん。もう絶対触らないから! ホントごめん!」

「うん……。いいよ、ミーコ姉ちゃん知らなかったんだもんね!」

ミーコの必死の謝罪に、マックスはニコリと笑顔を向けた。

「あ、ありがと~、マックスくん!」「わっ、わぁっ! もう、危ないよミーコ姉ちゃん」

ミーコはホッとした顔でマックスにガバッと抱きつく。今度はマックスも、ミーコの勢いにビックリしただけで嫌がってはいないけど……それもセクハラだな。
まぁとりあえずこの話はここまでにして、他にも獣人について教えてもらわないとな。

「それでマックス、獣人族ってホントに耳や尻尾が違うだけなのか? 力が強かったり凄く鼻が利いたりとか、そういうのはないのか?」

「あっ、そうか! そうだね、熊人族のターナーさんなんかはすっごく力持ちだよ! あと、オレたち犬人族は鼻とか耳がいいかな~?」

「へ~、やっぱ獣の特徴が出るんっすね~」

「そうだ! フォンド村では出会ってないけど、猫の獣人さんとかもいるよね!? ね?」

ミーコが何やら目をキラキラさせてマックスに詰め寄る。ミーコは呼び名が猫っぽいからか、昔から猫好きだけど、この食いつきはなんだろう?

「いるよ。ずっと前にフォンド村に来た冒険者の中にもいたかなー」

「ホント!? ね、じゃあ、猫人族って、「な」が「にゃ」になったり語尾に「にゃ」がついたりする?」

おお! いい質問だミーコ!さすがセクハラ女子高生!

「にゃ? う、うーん、ごめん、ちょっとわかんないな」

マックスはちょっと引き気味で答える。わからないのは残念だが、まぁ、真相は今後の楽しみにとっておこう。
それはそうと、実はもう一つ気になっている事がある。そっちを聞いてみるか。

「なあマックス、獣人と人族の間にも子どもはできるんだよな? その場合、その子どもはハーフになるのか? あと、例えば犬人族と熊人族の間の子どもはどんな風になるんだ?」

一郎さんの子孫がノバラ達なんだから、異種族で子どもができないことはないはずだ。しかし、ノバラやアヤメさんは普通に獣人ぽいんだよな。それに、従兄のケインさんは、逆に完全に人族っぽいし。遺伝の法則とかが地球とは違うんだろうか。

「ハーフ? ってのが何かわかんないけど、獣人と人族の間の子どもなら獣人か人族かどっちになるかわかんないし、親が犬人族と熊人族なら子どもも犬人族か熊人族のどっちかになるかな」

「なるほど。混ざったりすることはないと……。じゃあ犬の耳に熊の尻尾とかの不思議獣人はいないわけだ」

「ぶっ! あはははは! ユウ兄ちゃんって意外とオモシロイこと言うんだね!」

え、そんな笑うとこ? いや犬耳×熊尻尾の人が実際いたら面白いかもしれんが……、いや、そうか。こっちにはもともとハーフなんて概念がなさそうだから、両親の特徴が混ざるっていう発想もないのかも? でも目は父親似で鼻は母親似とかってことはあるだろう? そんな変なこと言ったかな……。

その後、ノバラが運んできた料理を食べつつ色々ゆっくりと話した。獣人のこと以外にも、フォンド村にはいなかったエルフやドワーフなんかも存在していると聞いて、俺たちのテンションは上がった。ドワーフはともかく、エルフはやっぱりレアな存在のようだが、美形のエルフ(女性限定)には是非会いたい。

食事後にマックスを家に送って食堂に戻ると、ずいぶん客が少なくなっていた。いつもより少し早い時間な気がするが、今日はそろそろ閉店になるだろうか。
俺たちはアヤメさんに断って、食器洗いやテーブル拭きなどの手伝いをさせてもらった。色々教えてもらったり差し入れしてもらったりと散々お世話になったから、ちょっとしたお礼のつもりだ。それに、アヤメさん達の仕事が早く終われば、少し話す時間も取れるだろうし。

そういう訳で手伝いに励み、その後アヤメさんとノバラと一緒に少しゆっくり話をした。アヤメさんから、バスタナの町に行く機会があったら『銀皿亭』という食堂兼酒場に寄って、女将に手紙を渡して欲しいと預かった。他愛もない内容なので、行く機会がなければ渡さなくていいと言われたが、バスタナへはギルド登録のために行くつもりだ。そう遠くない内に届けられるだろう。
明日はいよいよ出発だ。2人にはしっかりお礼を伝えて、遅くならないうちに寝ることにした。
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誠に勝手ながら、こちらの作品は、2017年12月1日の投稿をもって無期限の休止にさせていただきます。次話からは2章に突入予定でおりますが、また書き溜めができれば再開するかと思います。気長にお待ちいただければ幸いです。ここまで読んでくださってありがとうございました。
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