行方不明の幼馴染みが異世界で勇者になってたらしい

肉球パンチ

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第1章

第38話 手紙

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予定していた通り、初日から合わせて5日間の実戦訓練を終えた俺たちは、それぞれまたレベルアップしていた。コータとミーコはレベル14、サーヤはレベル13、俺はレベル12だ。結局俺は魔力の流れを感じることができないままで、他の皆が魔法で経験値を得る分、レベルも少し伸び悩んだ感じになってしまった。それでもMPの値は4人の中でもサーヤに次いで多いのだから謎だ。
サーヤはやはり魔法の才能があったらしく、光魔法の他に水と風の適性もあることがわかった。旅の途中、いつでも安全な水が手に入るのはありがたい。

オークを狩りまくって充分に旅費も貯まったし、不意の襲撃でもずいぶんと落ち着いて戦闘できるようになった。ケインさんからも、ちゃんと街道沿いに移動すれば大丈夫だろうとのお墨付きももらった。明日は身体を休めるとともに旅に必要なものを買い揃え、明後日にはいよいよフォンド村とお別れだ。世話になった人達に挨拶もしておかないとな……。

ーーーーーーーーーー

翌朝、俺たちは朝食後に訓練場へと向かった。修行は昨日で終わりだったが、なんとなくじっとしているのが落ち着かないというのと、俺以外の皆は少しでも魔法の練習をしておきたいと意見が一致したからだ。ノバラも一緒に行きたいと言うので、一緒に来ている。

訓練場にはほんの数日来なかっただけだが、なんとなく懐かしい気さえする。それくらい、修行の日々は中身が濃かったということか。
最初にここで訓練を始めた時と同じく、訓練場を5周走ってみた。あの時は確か、ノバラが余裕で1番になり、なんとかコータが付いていけるくらい、ミーコは半周遅れで俺が1周遅れ、サーヤは2周遅れだったはずだ。
果たして今回の結果は、コータが1番で半周遅れてミーコ、それより少し遅れてノバラがゴールし、コータより1周と少し遅れて俺、2周遅れてサーヤがゴールした。今回はノバラもかなり息を切らしているから、皆相当速くなったんだろう。まぁあの時と比べれば、レベルが5~7アップしてるからな……。

その後は魔法の練習だ。俺はまだ魔法が使えないので一人置いていかれる……ということはなく、なぜか、新しい魔法を開発したいとヤル気に満ちたコータとミーコの突撃を受けた。

「優介さん、火魔法をもっと使いこなしたいっす! 何か新しいまほ「ユウ兄! 風魔法でもっと戦闘に使えそうなのないかな?」」

両側からそれぞれ手を握られ、熱い眼差まなざしを向けられる。なんか怖いんですけど……。

「ちょ、お前ら落ち着け」

「優介さん! 火魔法のアイディアくださいっす!」
「ユウ兄、あたしにピッタリの風魔法、なんか考えて!」
「ああ! 優介さんに……。ずるいミーコ! 私も! 私も相談に乗ってください!」

ノバラに水魔法について質問していたサーヤまで、ミーコを押しのけて詰め寄ってきた。退かせられたミーコは俺の後ろに回って両肩を掴んで揺さぶってくる。

「皆落ち着けっての! ミーコ、お前はケインさんに教えてもらったろ!」

「あれは、今のあたしのMPじゃ2~3回しか練習できないし、難しいんだもん!」
「はい! はいっ! 自分は勇者っぽい、こうちょっと派手でクールな感じの希望っす!」

「派手でクールとか勇者っぽいってなんだよ!?」
「そうだ合成魔法! 優介さんも興味ありますよね!?」

「合成魔法は興味アリアリだよ! けど俺は魔法使えないんだぞ! お前ら俺に何期待してんだ!?」

「できるかどうかは関係ないっすよ!」「そうよ! 実際やるんじゃないんだから。ユウ兄! お願い!」「お願いします、優介さん! 合成魔法の可能性を一緒に考えましょう!」

「あー、もー、分かったから順番だ! ほら、さーいしょーはグー」
「えっ!? ちょ、ちょっと待って!」「ジャンケンっすか!」「絶対勝ちます!」

「じゃーんけーん、ほい!」「ああっ! あいこだ」
「何ですかソレ? じゃーん……ほい? 何かわかんないけど面白そうです~! わたしにも教えてください!」

「あいこでしょ! しょ! しょ!」
「えーっっ!」「やったー!」「うっし!」「しょ? しょ??」

「サーヤちゃん、いくっすよ!」「はい! 負けません!」
「ユウ兄、今のうちにコッソリ……」「「ミーコ(ちゃん)!」」

ジャンケンは何かもの凄く白熱しているし、興味津々で目をキラキラさせたノバラまで加わって、完全にカオスだ。
はぁ、もう放っといて帰ろうかな……。

ーーーーーーーーーー

結局4人から逃げられるわけもなく、ジャンケンで決めた順に相談に乗っていった。なぜか、ノリでノバラにまでじゃんけんを教えさせられた。っつーか、ソレって俺じゃなくてもよくね?
3人それぞれにいくつかアイディアを出したものの、一朝一夕にモノになるわけもなく、ほぼ成果はナシといった感じだった。けど多少の手ごたえはあったから、そのうち実を結ぶかもな……。

皆のMPが残り少なくなってから、いよいよ旅の準備のための買い物へと向かった。今までもお世話になった『ドラム鍛冶工房』でフライパンや鍋などの調理器具、『ターナーズマーケット』で調味料類と干し肉、『クラリス雑貨店』では服や道具袋や背負子、最低限の食器などを買い、明日旅立つ旨を伝えて軽く挨拶していった。

買い物の後は、一旦『赤い狐亭』に荷物を置いてケインさんのところへ行った。もともとお礼に行くつもりだったが、ケインさんからも話があるからと呼び出されていたのだ。
ケインさんの家に入るなり、一通の手紙を渡された。

「この周辺の町や村は覚えてるか?」

「はい。確か一番近いのがトリス村で、そこから街道が3方向に分かれるんでしたよね」

「どこに向かうか決めてるのか?」

「いえ、人探しが目的ですから、情報次第ですね。何も情報がなければ領都に向かおうと思いますが」

「そうか。なら、メリルの町や途中の村での目撃証言でもない限りは、とりあえずバスタナの町に向かえ」

「バスタナですか?」

「村や町の入り口ではステータスを確認されるのはわかってるな? 大きな街に入る時には所属もしっかりチェックされる」

「……それはマズイです、かね? 俺たちは空欄になってます」

「だろうな。だがエステバン王国では空欄の者は極端に少ない。すぐに牢屋入りなんてことはないが、必ず兵士に目を付けられる。空欄の理由も色々聞かれるだろうから、怪しまれれば監視下に置かれるだろう」

「チェックを受けないようにコッソリ侵入するとか……無理ですよね、はい」

ケインさんはヤレヤレと大きく息を吐いて、目線で先ほどの手紙を指し示す。

「バスタナでも、その間にある村でも空欄で大丈夫なはずだ。その手紙を持ってバスタナの冒険者ギルドへ行け」

「ギルドですか?」

「冒険者ギルド証があれば、ステータス確認されず街に入れる。だが、ギルド登録時にはステータスチェックがある。そこでも、『所属ナシ』は、根掘り葉掘り聞かれることになる」

「「「「……」」」」

「バスタナのギルドマスターとは良く知った仲だ。その手紙を持っていけば、便宜べんぎを図ってもらえるはずだ」

「「「「!!!」」」」
「ありがとうございます、ケインさん!」

「ただし、冒険者登録には登録料がかかるし、毎年更新料を払って更新しなきゃならんぞ。まぁ詳しいことは、ギルドで説明があるはずだ」

「「「「はい。ありがとうございます!」」」」

別にやましい事があるわけではないが、兵士に目を付けられるとかギルドで色々聞かれるとか、そんなの嫌な予感しかしない。うまい言い訳なんかもできないだろうし、異世界から来たとか言って信用してもらえるかと言えば、まず無理なんじゃなかろうか。それを全部パスできるというなら、これ程ありがたいことはない。ギルドマスターに便宜を図ってもらえるなんて、さすが元高ランク冒険者だな。

それからもうしばし話をして、改めて手紙やこれまでの修行などの礼を言い、ケインさん宅を後にした。
その後はマックスのところへ行った。これまで2~3度顔を合わすことはあったものの、俺たちは修行で忙しく、マックスは母親の手伝いで畑仕事をしていたので、初日以来ゆっくりと話すことがなかったのだ。マックスはアリアに来て最初に出会っただ。初日は本当に世話になったし、本当はもっと早く、ゆっくり話す機会が欲しかった。もうフォンド村で過ごすのも最後なので、今日は夕食に誘うことにしたのだ。
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誠に勝手ながら、こちらの作品は、2017年12月1日の投稿をもって無期限の休止にさせていただきます。次話からは2章に突入予定でおりますが、また書き溜めができれば再開するかと思います。気長にお待ちいただければ幸いです。ここまで読んでくださってありがとうございました。
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