行方不明の幼馴染みが異世界で勇者になってたらしい

肉球パンチ

文字の大きさ
上 下
37 / 44
第1章

第36話 装備

しおりを挟む
話しているうちにケインさんの家に着き、あと4日ケインさんのもとで修行させて欲しいと皆で頭を下げた。ケインさんは少し困惑したような、それでいて少し嬉しそうな微妙な表情を見せたものの、乗りかかった船だから仕方ない、と引き受けてくれた。

それから昨日素材を売った代金を受け取って、できるだけ装備を整えたいので相談に乗って欲しいむねを話し、ドラムさんのいとなむ『ドラム鍛冶工房』に向かった。鍛冶工房は金鎚の音が響くからか、村の外れ、自警団の元訓練場の近くにある。店の前を通ったことはあるが、中に入るのは初めてだ。

「おはようございます、ドラムさん」

「お! 兄ちゃん達どうした? ウチになんか用か? ん? ケインさんがなんで一緒に?」

明るい調子で挨拶に応じたドラムさんだが、ケインさんの姿を見た瞬間に大きく目を見開いた。意外な取り合わせだったからかな?

「あー、武器がだいぶいたんできたんで買い替えたくてですね。ケインさんには修行をつけてもらってるんですよ」

「修行!? そーかいそーかい! そら、フォンド村じゃあケインさんが一番だからな! って、兄ちゃん達、今日は客か! そんじゃーホレこっちこっち! まぁゆっくり見てってくれや!」

ドラムさんは、ケインさんに修行をつけてもらうと聞いて驚いていたが、なぜかとても嬉しそうに俺の背中をバンバン叩いてきた。そして謎のハイテンションのまま、後ろから肩を掴まれグイグイ押されて武器防具コーナーに案内された。

後でアヤメさんにこの話をしたところ、ドラムさんはケインさんが『修行』というような事情で人と関わっていることが、単純に嬉しかったんだろうと言っていた。
ドラムさんとケインさんは、ケインさんが冒険者になって村を出るまでとても仲が良かったらしく、その後数年してドラムさんが街の工房に修行に出ていた頃にも親交があったそうだ。ケインさんが冒険者を引退して村に戻ってきてからずっと、人との関わりは最低限で自分自身を責めているかのように沈み込み続けているのを、とても心配していたらしい。
アヤメさんが、俺たちの修行をケインさんにお願いしたのも、ケインさんがもっと人と関わるきっかけになるように、との思惑があったのかもしれないな……。

ドラムさんの店は表側が商品を並べた店で、裏に鍛冶場があるようだ。店内は10畳ほどの広さで商品が所狭しと並んでいる。向かって右側は武器や防具が並び、左側には金属製の調理器具やら日用品と思われるものが並んでいた。武器類は木製のものや金属製のもの、モンスターの牙や角が使われたものもあり、防具類も木製、金属製、革製と、品揃えは広く浅くという印象だ。
今日はとりあえず装備品を見る予定だが、旅の間にも使える鍋とかの調理器具も必要になるだろうか。そのへんも後でケインさんに聞いてみよう。

武器防具類はざっと見たところ、中古品と思わしき、ちょっと傷みのあるものは3千リアから1万リアほど。新品は1万リアから5万リアくらいまでといった感じだ。さすがに新品をそろえるには金が足りないが、中古品なら一通り揃えられなくもないといった感じだろうか。

武器類については一応話し合っていたものを各々手に取り、重さや長さを確かめながらケインさんに相談して決めていく。コータは1mちょっとの両手剣、ミーコは片手で扱えるショートソード、サーヤは1.5mくらいの槍だ。コータとミーコは金属製のもの、サーヤの槍は、穂先にホーンラビットの角を使っているものを選んだ。俺の武器は当面、もともと持っていたナイフを使うことにした。このナイフは武器とするには小さすぎるのだが、切れ味という点ではアリアのものよりかなりいい。もっとレベルが上がって、盾を扱いながら攻撃もしっかりできるくらいになったら、改めて武器を購入するので充分だろう。

防具類についてはどうしたらよいか全く分からなかったので、ほぼケインさん任せになってしまった。とりあえず、盾役の俺だけは当然ながら盾を購入した。金属オンリーのものは、今の俺にはさすがに重くて使い勝手が悪く、丈夫な革を何枚か重ねて表面に薄い金属板を付けたものを選んだ。
あとは、全員に肩から背中と胸にかけてを守るレザーアーマーを購入しようとなったが、結局手持ちの金では足りず、それはまた明日にでも、ということになった。

欲を言えば、ミーコには片手で持てる程度の小さく軽い『バックラー』と呼ばれるたぐいの盾を、前衛の3人には腕に付ける防具を、そして4人全員に、つま先部分に金属板の入った皮製のブーツがあれば…と言われたが、冒険者になるわけでもないので、そのへんは余裕のある時に追々おいおい揃えるということになった。

購入後は訓練所に移動して、手に入れた武器の感触を試したり、魔法の練習をしたりして昼まで過ごし、昼食をとってから昨日と同じく草原の奥の森で実戦訓練を行った。昨日の帰り際、森に入る獣道を隠すために改めてケインさんが設置した大岩を、今日もまた一瞬で崩していく。そういえば、せっかく岩を崩した砂を持ち帰っていたのに、昨日は疲れきっていて、結局考えるのも忘れていたな。まぁ、考えたところで検証のしようもないんだけど。

武器が木製から金属製になったことで、倒すのにかかる時間がかなり短縮され、その分、疲労も昨日ほどはなかった。やはり装備を整えるのは大事だな。それで、今日はオークを4体、ゴブリンを7体倒したのだが、帰りの荷物運び用に草原まで台車も持ってきていたこともあり、ケインさんが仕留めた1体を含めたオーク5体分の肉と素材も無理なく持って帰ることができた。

ただ、『赤い狐亭』ではもう、保冷庫がいっぱいいっぱいだとのことで、村で唯一の食料品店である『ターナーズマーケット』にもオーク1体を持ち込んだ。こちらの方が大きな保冷庫があるらしく、これからはこちらに持ち込むことになりそうだ。応対してくれたのは、店の主人である熊の獣人のターナーさん。本当に熊のような立派な体格でいかつい顔なのだが、頭にちょこんと乗っかった丸く可愛らしい熊耳と、これまたお尻にちょこんとくっついている丸い小さいモコモコ尻尾が、大変ミスマッチである。パーツだけ見るととても魅力的なのだが、さすがにモフモフしたいとは思わなかったな。

この日の夕食には、昨日のホーンラビットが煮込み料理で出てきた。人気のホーンラビットは、仕入れがあったらだいたいその日のうちになくなってしまうため、すぐに出来る炒め物や焼き物で出すことが多いらしい。しかし、昨日は3匹分あったため、残った肉がトロトロに煮込まれ、ビーフシチューのような料理になっていた。口に入れると、上顎うわあごと舌で挟んだだけでほぐれていくような柔らかさで、とろみのあるスープ(?)がよく絡んで絶品だ。昨日のソテーも美味かったが、この煮込み料理は別格だな。時間がかかる分お高いが、これは高くてもまた絶対食べくなる一品だった。今度ホーンラビットと出会ったら、ミーコなんかは「シチュー!」とか叫びながら嬉々として倒しに走るんじゃなかろうか。ケインさん、ホーンラビットをおびき寄せるような薬品の調合法知らないかな……。

ーーーーーーーーーー

翌朝、肉と素材の買い取り金で、保留していたレザーアーマーを買い足した。これでとりあえずの装備は整ったし、戦闘にもだいぶ慣れてきた、と意気いき揚々ようようと実戦訓練に出かけた。昨日武器類を手にした時も勿論テンションが上がっていたが、全員でレザーアーマーを装着した姿はまたいつもと違う雰囲気で、俺たちは少々浮かれていた。ワイワイと草原への道を歩く俺たちは、はたから見れば遠足途中の小学生のようだったかもしれない。

「お前ら、慣れてきたからって油断するなよ」

見かねたケインさんから、ギロリとにらまれ、げきがとぶ。

「「「はい!」」」「うっす!」

その後はさすがに、はしゃぐことはなかったが、いつもの森の広場へと続く獣道を進み出しても、どこか浮かれた気分は残っていたように思う。広場までの道のりの3分の2程を進んだ頃、突然、先頭を歩くコータの焦った声が届いた。
しおりを挟む
誠に勝手ながら、こちらの作品は、2017年12月1日の投稿をもって無期限の休止にさせていただきます。次話からは2章に突入予定でおりますが、また書き溜めができれば再開するかと思います。気長にお待ちいただければ幸いです。ここまで読んでくださってありがとうございました。
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

光のもとで1

葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。 小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。 自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。 そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。 初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする―― (全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます) 10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで220万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉
ファンタジー
真白山脈に棲むフェンリル三兄弟、末っ子ゼフィリアは元人間である。 どうでもいいことで山が消し飛ぶ大喧嘩を始める兄二匹を「兄たん大好き!」幼児メロメロ作戦で仲裁したり、たまに襲撃してくる神獣ハンターは、人間時代につちかった得意の剣舞で撃退したり。 そう、最強は末っ子ゼフィなのであった。知らないのは本狼ばかりなり。 ブラコンの兄に溺愛され、自由気ままに雪原を駆ける日々を過ごす中、ゼフィは人間時代に負った心の傷を少しずつ癒していく。 スノードームを覗きこむような輝く氷雪の物語をお届けします。 ※今回はバトル成分やシリアスは少なめ。ほのぼの明るい話で、主人公がひたすら可愛いです!

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

処理中です...