行方不明の幼馴染みが異世界で勇者になってたらしい

肉球パンチ

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第1章

第28話 友達

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ミーコとコータが初めて魔法を使った日から更に丸2日。俺たちは初日と同じように「魔法に関する特訓」と「戦闘訓練」を交互に繰り返した。

ミーコとコータの魔法は順調に上達し、それぞれ『エアカッター』と『ファイヤーボール』を5秒ほどで発動できるようになった。慣れてきたのでMP4を消費して威力を上げたものも試したらしいが、これならなんとか実践で使えるかなという感じらしい。

一方、俺とサーヤは未だ魔力の流れを感じることができずにいた。ノバラやアヤメさんに「あの2人が異常に早いだけで、自分達は半年くらいかかった」となぐさめられ、まぁあせっても仕方ないか、と地道に頑張っている。

戦闘訓練に関しては初日こそ木刀で素振りだけを集中的に行ったが、俺たちはそうのんびりもしていられないので、初日の夜に話し合って、翌日からはより実践に役立つような訓練をすることにした。

まず、全員が同じ木刀のような武器である必要はない。アヤメさんにも相談しながらそれぞれの得物えものを考え、それに合わせて訓練することにした。

サーヤは『槍術』スキルを活用するために槍を使ってもらうことになった。重いと扱えそうにないということで、とりあえずは身長よりも少し短い程度のショートスピアを想定している。

ミーコは速さを活かすために木刀より短く軽い剣にするつもりだ。たぶん、ショートソードとかブロードソードとか呼ばれるたぐいのものになるだろう。ミーコは「『双剣』とか『二刀流』とかカッコイイよね!」なんて言っていたが、不器用なミーコにできる気はしない。

コータは当然両手で扱う剣だな。竹刀の長さが120cmくらいとのことなので、そのくらいの長さが使いやすいだろう。その長さなら、バスターソードとかサーベルあたりが良さそうとアヤメさんが言っていた。

そして俺は、盾と片手で扱える程度の剣を装備することになりそうだ。本当は盾役とか向いていないと思うんだが、他に適任な人材がいないので仕方ない。主に盾役だが、盾が壊れた時などに武器も扱えた方がいいといういことで、剣も装備する。単純に、攻撃もやりたいからというのもあるが……。

そういうわけで、訓練場の隅の小屋から自分の得物(予定)に近いものを探して訓練をした。
俺とミーコは、コータに指導してもらって剣の扱いを学んだ。サーヤはアヤメさんに槍の基本を学んだ。その間、ノバラはアヤメさんの代わりに食堂の仕事を頑張ってくれたらしい。

慣れてきたところで、ゆっくりめの動きで打ち合いもしてみた。剣や槍なら素振りなんかでも訓練になるだろうが、やはり対人の方が学ぶことも多く経験値も入りやすい。それに、盾の扱いを学ぶにはやはり相手が必要だからな。

サーヤの槍は一人で立ち回るようなものでもないので、俺とペアになって1人を相手にしてみた。俺が盾で防いでいる間に隙をうかがって槍を突き込む感じで、連携を取って戦うのが基本だ。4人で実際に敵と相対する場合には、そこにコータとミーコが加わって更に攻撃が充実するだろう。将来的にはミーコが遊撃のような感じになってくれれば、攻撃の幅が広がりそうだ。敵が複数になれば俺がとにかく足止めして、他3人で1匹ずつ仕留めていくのが理想だ。そこに魔法が加わればもっと充実するだろう。

それにしても、盾の扱いというのはなかなか難しいものだった。アヤメさんによると、盾でただ攻撃を受け止めるのではすぐ壊れてしまうため、基本は攻撃をいなしたり盾を押し付けて攻撃をさせづらくするものらしい。そのタイミングとからせる方向だとか、そのあたりが上手くできないと逆に味方が危険になることもある。これはかなり特訓が必要そうだ。

ーーーーーーーーーー

訓練開始から3日目、転移から5日目の今日は、暗くなるまで訓練場での特訓にいそしんでいたため、宿に着いた時には真っ暗になっていた。村の夜は早く、朝も早い。俺たちが夕食を食べ終わる頃には、酒場といえどもそろそろ人が減ってくる時間帯だった。
人がまばらになった酒場は意外と居心地が良く、少しまったりしているうちにアヤメさんが近付いてきた。すぐ後ろの席に他の客がいるからか、俺の耳元に唇を寄せてそっとささやいてきた。

「あの、後で少しお話したいので、仕事終わりの時間になりますけどお部屋に伺ってもよろしいですか?」

美人のアヤメさん(しかも獣耳付き)にこんなことを囁かれ、一瞬ドキリとしてしまった。しかし、アヤメさんは人妻だ。家族仲もいいし、おかしな「お話」ではないだろう。そうは思いつつも若干浮き立つ心のまま、表面上は何ともない顔で答える。

「ええ、もちろんです」

「では、あと1時間ほどしたら伺いますので、みなさんを呼んでおいてくださいね」

アヤメさんは再びそう囁いて、今度は返事を待つことなく去っていった。ああ、分かってた。そうくるのは分かってたさ。

「アヤメさん、なんだって?」

ミーコが聞いてくるので俺の両隣のミーコとサーヤに先ほどの内容をそっと耳打ちした。それを更に、ミーコからコータへと耳打ちで伝える。伝言ゲームか。ミーコに囁かれたコータは少し赤くなっていたようだが、赤面する内容ではないはずだぞ……。

部屋に戻る際に、ノバラに用意してもらったお湯入り桶を自分達で運び、それぞれ部屋で身体を拭いてゆっくりしてから俺の部屋に集まった。全員集まってから10分ほどでアヤメさんとノバラが来たが、さすがにこの部屋には定員オーバーなので食堂に移動した。
真っ暗な広い食堂の中、3本のロウソクを囲んで小さく固まってヒソヒソ話すさまは、はたから見れば怪談話でもしているようかもしれない。

「それで、お話というのはなんでしょう?」

「今日、ノバラがレベルアップしたと聞きました。それで、皆さんは今、どれくらいのレベルになっているのか確認したいと思いまして……」

そういえば、アヤメさんには魔法の事とかを教えてもらう前にレベルを申告して以来、その話はしていなかったな。「レベルが上がってきたら春樹を探す旅に出るつもりだ」と話したときに「最低でも全員がレベル10を超えなければ安心して送り出せない」と言われていた。アヤメさんは「できればレベル15になるまでは出発を待った方が良い」とも言われていたのだ。

「えーと、自分は今日レベル11になったっす!」
「あたしは、きのう9になったよ! 今日は上がらなかったけど……」
「俺も9ですね。今日やっと上がりました」
「私はまだレベル8です」

それぞれ順に答えていく。最初に見たステータスと比べると、俺とサーヤが2、ミーコとコータが3ずつレベルアップしている。魔法を使っている分ミーコとコータの上がり幅が大きいようだ。

「まぁ! 皆さんすごい早さですね! 朝から夜まで集中的に訓練しているとはいえ、ここまで早いのは驚きです。エアリアルでは10歳頃までは年齢と同じくらいのレベルで、そのあと成人までに3~5程度レベルアップするのが普通なんですよ」

「へぇ~! それじゃ、あたし達めっちゃ優秀じゃん!」

「そうですね、素晴らしいですわ」

「でも、全員がレベル10以上というのにはまだ届きませんね。特に私が……ごめんね、ミーコ」

「えっ? そんな、謝ることなんかないよ! サーヤ、すっごく頑張ってくれてんだから、むしろ、無理させちゃって謝るのはあたしの方だよ! ごめん、ありがとうね、サーヤ!」

「ううん、私がみんなに付いて行きたくて必死なだけだよ。それに、早く魔法使えるようになりたいしね!」

ミーコがサーヤに抱きつく。昔から仲のいい2人だが、こちらに来てから更に仲良くなっているように思う。

「ミーコさんとサーヤさんて正反対な感じなのに、ホントに仲良いんですね! フォンド村には子どもが少なくて、同い年の女の子なんていないから羨ましいです」

「ノバラちゃんとは同い年じゃないけど、もう友達だよ! これからも仲良くしてね!」

「そうですよ! あっ、そうだ! 明日の夜は私達の部屋でお泊まりしませんか?」
「いいね! 女子会パジャマパーティだ!!」

「女子会? パジャ……?」

「あ、えーと、女子会っていうのは、女の子だけで集まって話したりオヤツ食べたりすること。で、パジャマパーティは、寝るときの格好で楽しく遊ぼうってこと!」

「わ~っ! 楽しそうですね! ほんとにお邪魔してもいいんですか?」

「もっちろん!」「ふふっ、楽しみですね!」

3人は何やら盛り上がっているが、話がだいぶ逸れている。アヤメさんは単にレベル確認がしたかっただけなのか? とりあえずまだキャッキャ言っている3人は放っておくか。

「アヤメさん、話はレベルの確認だけですか?」

「あ、そうでしたね。ノバラにお友達ができて私も嬉しくて、つい……。ごめんなさいね。
えーと、みなさんそこそこのレベルになっていますし、戦闘訓練もサマになってきているので、そろそろ実戦してみたらどうかなと思うんです」

アヤメさんの発言に、さっきまで騒がしかった女子3人も、一瞬にしてシンと静まり返った。
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誠に勝手ながら、こちらの作品は、2017年12月1日の投稿をもって無期限の休止にさせていただきます。次話からは2章に突入予定でおりますが、また書き溜めができれば再開するかと思います。気長にお待ちいただければ幸いです。ここまで読んでくださってありがとうございました。
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