行方不明の幼馴染みが異世界で勇者になってたらしい

肉球パンチ

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第1章

第25話 名前

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『クラリス雑貨店』を出てから、俺たちは自警団の訓練場へと案内された。
アヤメさんについてのんびり歩いていると、ノバラが駆け寄ってきた。

「あの、ちょっと聞いてもいいですか?」

「ん? 何だ?」

「ノバラって、どんな花かわかりますか? 植物ならユウスケさんが一番詳しいって聞いたんですけど…」

ああ、自分の名前になってる花だから、そりゃあ気になるよな。

「そうだな、だいたい大人の身長くらいの木に咲く花だ。花びらは5枚で白とか薄いピンク色の可愛らしい花だったな。結構たくましい、というかしぶとくて、茎にはとげが多いんだ」

可愛らしい花と聞いて「おお!」と喜んでいたので、後半は横目でニヤリとして言ってやった。

「しぶといって言い換えなくても…」

口を尖らせて抗議してくる。アヤメさんは「ふふっ」と笑いをこらえているようだ。

「あとは、そうだな…赤い実ができるんだが、ローズヒップと言って、すごく香りがいいんだ。紅茶とかジャムなんかに使われたり、薬効もあるらしい。うろ覚えだが、花言葉は才能とかだった気がするな。」

「花言葉? ってよくわからないけど、才能って私にぴったりじゃないですかぁ~!」

ノバラの機嫌が急浮上した。後ろでは口々に「へ~、よく見るバラとは違うんだな」とか「知らなかった。ローズヒップって野バラの実なんだ~。 でも花言葉まで知ってるなんて、キモイかも」「さすが優介さん」などという声が聞こえる。ミーコの発言は聞かなかったことにしよう。

「あ、じゃあ、アヤメはどんな花ですか?」

ノバラが続けて聞いてくる。

菖蒲あやめは濃い紫色で綺麗な花だな。地面からスッとまっすぐ上に茎や葉が伸びて、膝上くらいの高さになる。その先に15cmくらいの花が咲くんだ。葉っぱも細長い剣のような形で、りんとした雰囲気がある。花言葉は、良い便りとか希望だったかな。」

「なんか、褒め言葉ばっかり。お母さんズルイ」

ノバラがボソっと呟く。
実は菖蒲には毒成分がある。先ほどの『クラリス雑貨店』での様子を見た今、アヤメさんには実にピッタリな花だと思うんだが、彼女を敵に回したくはないので黙っておこう。

後ろではまた3人が何か言っている。

「菖蒲とかショウブとか、あとなんだっけ? あのへんどれがどれだかわかんないや」

「カキツバタのこと? 私も違いはよくわからないかな」

「え? 全部一緒じゃないんすか?」

「全部別々だ、コータ。花の模様や生息場所が少しずつ違うんだよ。まあ、『いずれ菖蒲あやめ杜若かきつばた』って言葉があるように見分けづらいのは確かだが」

「それってどういう意味ですか?」

ノバラが頭にハテナを浮かべて聞いてくる。ミーコとコータの頭上にもハテナマークの幻覚が見える…。

「どれも優れていて見分けが付かないってことだ」

「へ~、ユウスケさんって物知りなんですね! 凄いです!」

「ええ、本当に。祖父はアヤメの花は紫だってことくらいしか教えてくれませんでしたもの」

ノバラとアヤメさんが口々に褒めてくる。2人とも嬉しそうだし、色々教えてくれる事へのお返しが少しはできただろうか?

「ふーん。まあ、アリアじゃそんなの無駄知識だけどね!」

ミーコがまた何かいらん事を言っているので、ゲンコツで返しておいた。
その後もノバラから、「自分が子どもを生んだときの参考にしたいから」と他の名前候補になっている花についても聞かれたので、分かる範囲で答えておいた。

ーーーーーーーーーー

訓練場は村の西の端と聞いていたが、中心部の雑貨店や宿から徒歩で10分もかからなかった。さすがに村の端だけあって、周囲は畑ばかりだ。
このフォンド村は周囲を低い木の柵で囲っており、建物だけでなく畑もほとんどが柵の内側にあるのだ。

「こんな柵だけじゃ、モンスターとか入りたい放題じゃないですか? 大丈夫なんですか?」

村に来てからずっと疑問に思っていたことを聞いてみた。

「この柵には一定間隔でモンスター除けの魔方陣が刻まれているんです。それによって村全体が守られているんですよ。」

「村全体! それはすごいですね。でも、それだとかなり魔石を消費するのでは?」

「あ、いえ、魔方陣は周囲の空間に漂っている魔素を使うので、魔石も必要がない優れものなんですよ」

「へぇ、それは便利ですね。その魔方陣を応用した魔道具とか他にないんですか?」

「魔方陣を使ったものはとても大規模なものになるんです。この柵の魔方陣も、単体では発動しません。いくつもバランスよく配置することで初めて効果を発揮するそうです。私も昔冒険者の方に聞いただけで、他の魔方陣は見たことがありませんね」

「なるほど、なかなか高度な技術のようですね」

「そうですね。なのでその技術の多くは国が管理していて門外不出らしいです。村や街はそこを治める領主様が国にお願いをして、こうした魔方陣を施していただいてるんですよ。」

なるほどな。これだけ大規模なら、確かに個人で扱えるようなものではないんだろう。
そういった説明をしてもらいつつ、訓練場に入っていく。
訓練場はバレーボールのコート1面くらいの広さで、芝生のような青々とした草が一面に広がっていた。

「思ったより狭いんだねー」

「そうっすね。でも裏庭よりは全然広いっすよ」

「ここなら風魔法でも土が舞い上がらないし、草も水分たっぷりで簡単には燃え広がることもなさそうですね」

3者3様の感想を漏らす。確かに少し狭いが、俺たちが使うには充分だろう。
隅っこには小さな小屋があって、中には木製の盾や木刀のようなもの、槍の練習に使えそうな2mくらいの長さの棒もあった。古そうだが練習には充分だ。

また別の隅には、直径40cm、高さ2mくらいの丸太がいくつか立てられていて、その傍には同じくらいの丸太がいくつか転がっている。魔法を打つ際はそれをまとにするそうで、よく見ると立てられている丸太には焦げ痕や傷がたくさん付いていた。

「そっか、魔法はこっちの的で練習して、広いところでは戦闘の訓練をするんだね」

「個人練習とかではそうですね。でも模擬戦の方が効率よくレベルが上がるので、魔法も刃引きした武器もアリの模擬戦もよくやっていたようですよ」

アヤメさんが、自警団の訓練場として使われていた頃の様子を話してくれた。
アヤメさんが小さい頃は、一郎さんの元に弟子入りしてきた料理人や食べに来る人もそこそこいて、フォンド村も人が多かったらしい。食材確保のために柵の外にも畑を広げたし、人が多いとトラブルも起きやすい。そこで自警団の出番が多かったようだ。
その頃は若者も多くて自警団以外にも訓練だけ参加する人もいて活気のある場所だったらしい。

そうして一通り設備を確認した後、的の丸太の近くに行って、早速魔法についてアヤメさんのレクチャーを受ける。俺とサーヤはまだその段階ではなかったが、何度も説明をしてもらうのは忍びないので一緒に説明を受けることにした。
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誠に勝手ながら、こちらの作品は、2017年12月1日の投稿をもって無期限の休止にさせていただきます。次話からは2章に突入予定でおりますが、また書き溜めができれば再開するかと思います。気長にお待ちいただければ幸いです。ここまで読んでくださってありがとうございました。
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