行方不明の幼馴染みが異世界で勇者になってたらしい

肉球パンチ

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第1章

第17話 実食

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案内された宿の部屋。広さは3畳くらいだろうか。ここは一人部屋で、ベッドとサイドボードと椅子が一つづつ置かれているだけのシンプルな部屋だ。
窓は一つあるがガラスははまっていない。代わりに木の板が取り付けられており、それを押すと下部が開いてそこを突っ張り棒で支えるタイプのようだ。先ほど雑貨店のエピスが『メガネは高級品』と言っていたので、この世界にもガラスはあるが高いんだろうな。
ベッドは木でできており、マットレスの代わりにワラのようなものを束ねて敷き詰め、その上に布をかけた感じで、枕と毛布も置かれている。寝心地はイマイチだが、清潔感はあるし、屋根のあるところで落ち着いて眠れるだけでも良しとしよう。ちなみに部屋割りは、俺とコータがそれぞれ一人部屋、ミーコとサーヤは2人でツインの部屋だ。

ベッドに寝転んで一息ついていると、ほどなくしてミーコ達も来たようで、廊下が騒がしくなった。しばらくして廊下に出ると、ちょうど他の3人も一旦自室に入って荷物を置いて出てきたところだった。
部屋には内側からしか鍵がかからないようなので、念のためだいたいの荷物は持ったままで、夕食をとるため一階の酒場へと移動した。

酒場の壁には札がいくつか掛けてあり、メニューと値段が書かれている。ラーメン屋とか昔ながらの食堂のような雰囲気だ。空いている端っこの方の席に座るなり、受付にいた少女が駆け寄ってきた。

「ご注文はお決まりですか?」

せっかちだな。まだメニューもちゃんと見てないっての。そう思いつつメニューに目をやって、4人で相談しつつ注文していった。

俺とコータはとりあえずエールを、サーヤとミーコは水を頼んだ。そして、パンとスープに、せっかくなのでホーンラビットと野菜を炒めたものを頼んだ。4人分頼んで230リア、こちらも前払いだった。

飲みものとパンとスープはすぐに運ばれてきた。パンは普通のコッペパンのような感じだが、日本で食べるものより少し固く、甘味も少ない印象だ。
スープは野菜たっぷりで、ジャーキーのような肉の細かいものが入っていた。味付けはシンプルに塩のみっぽい感じだが、よく煮込まれた野菜とキノコ、ジャーキー風の何かからの出汁がよく出ており、充分に美味しかった。

「スープもパンも結構美味しいね!」

「お腹が空いてるせいもあるでしょうけど、トロトロになった野菜が美味しいですね!」

「メシは美味いっすけど、エールがぬるいのが残念っす…」

「だな。エールは飲みやすくはあるが、うまくはないな。これならワインの方が良かったか」

口々に感想を言いながら食べているうちに、いよいよホーンラビットの料理が運ばれてきた。
4人分がまとめて盛られた大皿には、名前のわからない様々な野菜とともに、肉が見え隠れしている。平たく言うと肉野菜炒めだが、かなり野菜が多めだ。

「コレって、俺たちが持ち込んだ肉?」

運んできた例の少女に尋ねると、満面の笑みで返事が返ってくる。

「はい! ここ最近ホーンラビットの入荷がなかったので、みんな喜んで注文してますよ!」

そう言うと、少女は客が帰ったテーブルの食器を下げるために、足早に去っていった。
4人でしばし肉を見つめ、思ったことを言い合う。異世界初のモンスター料理はちょっと敷居が高い。解体も見ていたからなおさらだ。

「これが俺たちが倒したホーンラビットか…。モンスターの肉と思うとちょっと食い辛いな」

「モンスターの肉…。いや、ウサギの肉と思えばイケる、っすかね…? う、解体思い出しちゃったっす」

「あたしはウサギと思ったら余計無理なんだけど! ウサギって、食用っていうよりペットってイメージだからなぁ…」

ミーコが顔をしかめて言う。確かにペットをイメージすると躊躇ちゅうちょしてしまうが、あの凶暴なホーンラビットをペットと同列にはできんな。

「モンスターの肉…。こちらでは普通に食べられてるんだから、身体に何か影響があったりはしないですよね? ここはトドメをさしたコータさんからどうぞ」

「え、自分っすか? いやいや、年長者の優介さんからっしょ!?」

サーヤもコータもすごく嫌がってるわけではないのだが 、一番に手を付けるのは戸惑いがあるようだ。このまま行くとダチョウ倶○部的なアレになるんだろうか? とりあえずノッてみる。

「いや、一番の功労者のサーヤからいっていいぞ」

「いえいえ、功労者だなんてとんでもないです! どうぞ、コータさん」

「俺は後でいいっすから、さあ、優介さん!」

「俺はもう、けっこう腹いっぱいだから、サーヤ食っとけ」

3人でノリ良く押し付け合うが、ミーコには誰も振らなかったため、ソワソワと話に入るタイミングをうかがっている。そろそろ頃合いか。

「じゃあ自分が。」
「いいよ、俺がいく。」
「ここは私がチャレンジし「ハイハイ! あたし食べる!」」

「「「どうぞどうぞ」」」

「え!? あれ?」

元ネタを知っているくせにアッサリひっかかるとは、アホだな。3人でミーコににっこりと微笑み、サーヤがミーコの皿に肉をよそって渡す。

「いや、あの、ノリで言っただけで、その「はいはい、大丈夫だから口開けて」」

サーヤが箸で肉を摘んでミーコの口に近づける。が、ミーコは口を真一文字に結んで目をつむり、首を左右に振る。

「往生際が悪いぞ、ミーコ」

「そーよ。観念しなさい」

俺とサーヤは悪ノリで追い討ちをかけるが、コータがかばおうとする。

「あー、やっぱり自分が食うっすよ」

「ホント!? コータもがごっ! …うぅ~」

油断してミーコが口を開けた隙にサーヤが肉を突っ込んだ。
ミーコは2~3秒まずにうなっていたが、観念したのか目をつむって肉をみ始める。

「もぎゅもきゅ…ん? あれ? おいしい! 何コレ、ヤバイ! めっちゃ美味しいんだけど!」

ミーコは肉を飲み込むと、今度は自分で皿に取り始める。その様子を見て俺たちも自分の皿に取って食べた。

うん、これは美味い! 肉自体は鶏肉に近い感じだが脂身が少なく少し硬い。味付けは香辛料が効いていて、唐辛子のような少しピリっとした感じが食欲をそそる。それがこの肉とよくマッチしていて、噛めば噛むほど旨みが口に広がる。白いご飯か冷えたビールが欲しくなるな。

「いや~、ウマイっすね! 白メシ5杯は食えそうっす!」

「ホント!すごく美味しいですね」

「うんうん、ご飯欲しいね! それに、もっとお肉いっぱい入ってればいいのにな~」

ミーコはあんなに嫌がってたくせに、現金なもんだ。皆と絶賛しながら食べていると、コータに酔っ払いが声をかけてきた。

「おぅ! このホーンラビット、兄ちゃん達が持って来たって?」

「うっす!」

「ここんとこホーンラビットは全然獲れなくてな。俺ぁ久々に食ったよ! いや~、ウマかった! ありがとな!」

「いえいえ。自分らは持ち込んだだけで…」

「最近獲れなくなったって、何か原因が?」

ふと疑問に思ったので聞いてみる。

「ん~、よくわからんが、最近魔国の王が倒されたとかって、その影響じゃないのかって噂はあるな。だが、実際魔国の王とそのへんのモンスターに関わりがあんのかどうかもよくわからんからな」

「へー、魔国の王が…」

それって所謂いわゆる魔王ってヤツか? 物騒だな。春樹のヤツ巻き込まれてなきゃいいが…。若干場が暗くなりかけたところで、コータが話題を変えるように酔っ払いのオジサンに声をかけた。

「それにしても、ここの料理ウマイっすね!」

「おうよ! ここのは天下一品だからな。2代前のオヤっさんが、どっか遠い異国から旅してきた料理人らしくてよぉ。そりゃあ研究熱心でいろんな新しい料理を生み出したんだよ。そのオヤっさんが生きてた頃は、王都からも料理人が修行に来たもんさ」

「そうなんですか? 余所者よそものは珍しいって聞きましたけど?」

「ああ、もう結構前の話だからな。今じゃオヤっさんの弟子やその弟子のそのまた弟子なんかが国中にいる。わざわざこんな辺鄙へんぴな田舎にまで修行に来たりしねぇよ。でもここの料理が一番だがな! まぁ飲めよ兄ちゃん、俺のおごりだ」

そう言いつつ、酔っ払いのオジサンは俺とコータのコップに自分の机の小樽こたるからエールを注ぐ。

「へ~! じゃあその人のおかげでこんな美味しい料理が食べれるんだね!」

「そーいうこった。お、姉ちゃん達なかなかべっぴんさんじゃねーか! どうだ、こっちのもウマイぞ。食うか?」

「わーい、やった~!」

「ははっ! 元気いい姉ちゃんだな~。」

そう言いながらオジサンは、自分の皿から料理を取ってミーコとサーヤの皿に一つづつ乗せた。それと同時に2人が驚きの表情を見せる。

「え! コレって…!」
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誠に勝手ながら、こちらの作品は、2017年12月1日の投稿をもって無期限の休止にさせていただきます。次話からは2章に突入予定でおりますが、また書き溜めができれば再開するかと思います。気長にお待ちいただければ幸いです。ここまで読んでくださってありがとうございました。
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