行方不明の幼馴染みが異世界で勇者になってたらしい

肉球パンチ

文字の大きさ
上 下
17 / 44
第1章

第16話 交渉

しおりを挟む
ホーンラビットの解体をしてもらって情報も得た後、いよいよ素材を換金するために雑貨屋へ向かった。ありがたいことに、素材や肉の運搬用にマックスが小さい台車を貸してくれたため、運ぶのがずいぶん楽になった。
マックスが案内してくれたのは村の中心部にある『クラリス雑貨店』という店だ。小さい村なので雑貨屋はこの一店だけだそうだ。店は村で目にした建物の中ではかなり大きい部類で、店内は日用品や衣類、武器に防具、調味料や何かの薬品のようなものなど、実に様々なものが所狭しと並んでいる。

「エピスおじさん、こんばんは! お客さん連れてきたよ~」

「マックスか。ん? 珍しいな、冒険者、いや旅の人か?」

マックスがエピスおじさんと呼んだのは、なかなか恰幅のいい40代くらいのおじさんだ。この店の店主らしい。客商売らしくニコニコと話しかけてくる。

「うん! 薬草採りに行ったらホーンラビットに襲われそうになって、通りかかったこの兄ちゃん達に助けてもらったんだ!」

「ふーん、 そりゃ運が良かったな、マックス。じゃあホーンラビットの素材を売りに来たのか?」

「はい。肉以外の買い取りをお願いします」

肉も買い取ってもらえるらしいが、雑貨屋に売るよりも食品を扱う店に売るか、宿に持ち込みする方がいいとケインさんに聞いている。それに、案内のお礼として後でマックスにも肉を分けるつもりだ。マックスは助けてもらったんだからいらないと言っていたが、もともとマックスがいなければ得られなかったものだからな。

そういうわけで、売るのは素材となる毛皮、牙、角、尻尾、肝臓、睾丸こうがんだ。毛皮はもちろん皮として加工され、高級なかばんなどになるが、牙や角は武器などに加工されるらしい。また、尻尾はお守りとしても装飾品としても人気がある素材で、肝臓や睾丸は乾燥させて薬を作るのに使われるそうだ。肝臓はまだしも、睾丸を使った薬はちょっと遠慮したいが…。

「はいはい、肉以外ね。それにしても兄さん達が着てる服は珍しいな。それにメガネなんて高級品まで。なんだってこんな田舎に?」

店主は先ほどまでのニコニコ笑顔をひっこめ、こちらを値踏みするように若干鋭い目つきになっている。

「ええ、まぁ、イロイロと事情がありまして。それより買い取りの査定をお願いします」

俺と店主が話している間に他の面々は商品を物色し始めていたため、店主に素材を渡してから、品物と相場を軽くチェックしておいてくれるよう頼んだ。

「ふむふむ…。なかなかの大きさだったようだな。牙や角も立派だし、これなら、ん~、全部で1200リアってところだな」

リアというのはこの世界での通貨単位だ。この村くらいの田舎で庶民が食べる食事が一食50リア程度、古着を買うなら一着800リアほど、宿も一泊朝食付きで一人300リアだと聞いている。
店主のエピスさんが提示した金額は、ケインさんに聞いていた1500リアくらいという予想よりかなり低い。旅人ならこのあたりの相場をよく知らないだろうから、上手くすれば多くもうけが出るとの思惑があるのだろう。

「1200リアですか。ん~、それなら肝臓と睾丸だけここで売って、明日にでもすぐ出発「ちょ、ちょっと待ってくれ!」なんですか?」

いかにも不満そうに呟くと、エピスは慌てて口を挟んでくる。

「1400出そう! たくさん持ったまま行くのも荷物になるだろう? な?」

200リア上乗せしてきた。すぐにパッと出てくるあたり、それくらいなら店にとってまだまだ充分な儲けになるんだろうか。だが店主のこの慌てぶりからして、客を逃がすよりはある程度買い取り価格を上げても取引したいんだろう。それならケインさんの言う金額までは上げてもらえるかな?

「1400…。サーヤ、ちょっとこっち来てくれ!」

声を上げてサーヤを呼び寄せた。サーヤなら俺の意図に気付いて話を合わせてくれるだろう。他の二人は素直すぎるからな…。

「買い取り価格なんだが、1600って聞いてたよな?」

俺がそう言ったとたん、エピスの眉がピクっと上がった。聞いていた価格よりもさらに100リア多く言ったためサーヤは少し驚いたようだが、ちゃんとこちらに合わせて肯定してくれた。

「っ! …そうですね。大きいし、毛皮に傷も少ないからイイ値段がつくだろうってケインさんが言ってましたね。どうかし「ケ、ケインさん!?」」

サーヤがケインさんの名前を出したところで、店主が再び慌て始めた。なんだ? ケインさんがどうかしたのか?

「ええ、ケインさんに解体をお願いしましたが…。どうしたんですか?」

「…わかった、1600出そう」

エピスは少し顔を引きつらせながら、俺の言ったデタラメな金額であっさりOKを出した。1600は無理だからと、間をとって1500に落ち着くくらいだと思ったのに、拍子抜けというか少し申し訳ない気がしてきた。ケインさん何者なんだ?

まぁ若干後ろめたい気はするが、高めに買い取ってもらえたのは文無しの身としてはありがたい。1600リアを受け取って店を出ると、外はもう暗くなっていた。

宿の場所をマックスに尋ねると、雑貨屋エピスの数軒隣にある『赤い狐亭』というのがそれだとのことだ。
…赤いパッケージのカップうどんが脳裏に浮かぶ。戦闘したせいか、思い出したら急激に腹が減ってきた。横でコータも腹を鳴らしている。

まぁ、腹の虫は少し置いといて、宿はここからすぐ近くなのでさすがに案内は必要ない。あたりが暗くなっているので二手に別れ、2人はマックスを送っていき、2人は宿にホーンラビットの肉を持ち込んで宿泊費交渉をすることにした。俺とサーヤは交渉組だ。マックスにやるつもりの肉をコータに託し、残りの10kgほどの肉を持って宿へと向かった。

30秒ほど歩いて、看板に『赤い狐亭』と書かれた建物に着いた。酒場も兼ねた宿ということで、この村では一番デカイ2階建ての建物だった。この世界で使われている文字などもちろん知っているいる訳がないのだが、なぜだかスラスラと読める。読めないと困るし覚えるのも面倒なのでありがたいんだが、なんというか、…気持ち悪いな。

建物に入ると、正面には受付けのようなものと階段があり、左に行く廊下の先からは賑やかな声が聞こえてきた。そちらが酒場になっているんだろう。
すぐに受付けにいたケモミミの女の子が声をかけてきた。サーヤより少し年下くらいに見える。頬のそばかすとクリクリの目、それにウェーブのかかった赤い髪が印象的な、可愛らしいの女の子だ。

「いらっしゃいませ!旅人さんですよね。ご宿泊…あれっ?4人と聞いてたんですが…」

ん? 聞いてた?

「ああ、あと2人いるよ。今はマックスを送っ「ああ! そうなんですね~! じゃあ4名様であってますね。うちは一泊朝食付きでお1人様300リア、前払いになります!」

元気はいいが、人の話を聞かないだな。

「誰かに聞いたの?」

「はい、さっき門番のライルさんに聞きました! 他にも見かけたって人もいましたし」

サーヤの質問にすぐ返事が返ってくる。小さい村だからって情報が早すぎる。よほど余所者よそものが珍しいんだろうな。

「夕方に仕留めたホーンラビットの肉があるんだが、酒場で引き取っ「ホーンラビット! ちょっと待っててくださいね!」」

聞けよ! 最後まで! 去っていく後ろ姿に内心毒づいていたが、その尻尾に目を奪われた。綺麗でフワフワな狐の尻尾だ。あれは手触り良さそうだな。
待つこと1分、先ほどの少女ではなく30代半ばくらいの美人が、酒場の方から現れた。少女と同じケモミミと狐っぽい尻尾で、綺麗なストレートの黒髪だ。色白の黒髪だからか、日本人ぽく見える。あまり似ていないが母親だろうか?

「お待たせしてすみません。赤い狐亭へようこそ。4名様のご宿泊で、ホーンラビットの肉をお持ち込みと伺いましたが、間違いありませんか?」

「「はい」」

「お肉を確認させていただいてもよろしいですか?」

頷いて台車に載せていた肉を見せる。宿の女将さん(?)は、さっきの少女と違って丁寧でおっとりしたしゃべり方だ。

「新鮮で美味しそうですね。何泊されるご予定ですか?」

「はっきりとは決めていませんが、とりあえず2泊ですかね」

「それではこのお肉で2泊と朝食2回を4名様分とさせていただくのでいかがでしょうか?」

うん、ケインさんから聞いていた通り、適正価格のようだな。

「それでお願いします」

「かしこまりました。では、こちらの宿帳に記名をお願いします。3泊以上される場合は、その時に前払いでお願いしますね」

宿帳と聞いて一瞬ヒヤっとしたが、名前だけということなのでなんとか書けた。住所とかまで書けと言われればアウトだったかもしれないが、名前だけならセーフだ。読むのと同じく、書こうと思い浮かべれば自然とこの世界の文字が頭に浮かんだので問題なく記入できた。その後は部屋に案内され、ミーコとコータの到着を待った。
しおりを挟む
誠に勝手ながら、こちらの作品は、2017年12月1日の投稿をもって無期限の休止にさせていただきます。次話からは2章に突入予定でおりますが、また書き溜めができれば再開するかと思います。気長にお待ちいただければ幸いです。ここまで読んでくださってありがとうございました。
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...